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【8】宴の後

(3)謝罪文

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大忘年会が終わると、それを理由に寮に残っていた面々も帰省してしま、冬で気温が低い事もあいまって閑散として寒々しいロビーに一枚の模造紙が貼りだされた。千錦寮、一刻寮双方共有の広い方のロビーでは無く、千錦寮専用の小さい方のロビーだ。

 模造紙には、こうタイトルが付けてあった。

『謝罪文』

 文責は、大忘年会実行委員会、そして、代表者の記名は『常木貴通』

 酔って外階段昇り、タラップを超えて、千錦寮のドアガラスを割った事、その後寮内へ侵入した事への謝罪がしたためられていた。

 貼りだして、全体のバランスを見ている早希に、声をかけたのは志信だった。

「早希先輩、それって……」

 志信に苦笑した様子を見せて、早希が言った。

「さっきね、ビックリした」

 早希は視線を謝罪文の方へ戻してつぶやくように続けた。

「悪かった、って、何かあっさりしてて驚いちゃった」

 悪かったという言葉に込められた言葉の中にあったのは、『ガラスを割った事』だけだったのだろうか。志信は思ったが、早希に問いかける事はしなかった。

「……来年どうなるかは、わからないけどね」

 すぐに信用はできない様子を見せながら、早希はどことなく常木が考えを改めてくれる事を望んでいるようにも見えた。

「どう? 来年監査委員やってみない?」

 ぽん、と置かれた手に、志信は、ええ、と、声を上げながら、どんな顔を作っていいかわからないまま、あいまいに微笑んだ。
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