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11章 悪夢の世界・精神衝突
7話「信念衝突・英雄VS竜人」
──死都 シン・シティ
「──ルーべン、裏切ったのか貴様ぁぁっ!!」
ドレイクが声を張り上げる。
大気が爆発したかのような怒声が、眠そうな男に浴びせられた。
その怒りの咆哮を受けてもなお、ルーベン・ナイトレイは至極どうでも良さそうにうつらうつらとしていた。
あくびを噛み殺しながらルーベンが目をやった先。
カドゥケウスと蛸人が3Faithと戦闘に入った。
竜と騎士達がそれに加勢。
サングラスの男は脅威だが、あれだけの戦力が一人に集中すれば⋯⋯
なんとかなるはずだ。そう信じたドレイクが大地を蹴る。
聖雷を纏った愛槍を手に【英雄】に迫り、それを振るった。
ルーベンが懐から20センチほどの鉄針を取り出して戦場の空に投げた。
投げると同時に赤茶色い革のコートを翻し、──逃げた。
「貴様っ、ふざけるな!」
ドレイクが追いながら、槍を投擲しようと狙いをつけている間に⋯⋯
振り返った【英雄】が腰の刀を抜くころには⋯⋯
「──設置完了だ。ふわぁ、はぁ⋯⋯ これで眠りながら相手をするのが楽になるだろう」
避霊針が上空から降り注ぎ、戦場のいたるところに設置された。
一瞬で距離を詰めたドレイクが怒涛の勢いで突きを繰り出す。
ルーベンが雷槍の突きを刀のしのぎでいなしてから⋯⋯
「間違えた、こっちだった…⋯」
そう言って、腰に下げているもう一振りのショートソードに武器を変えた。
「貴様この期に及んで!!」
竜騎士のこめかみに青筋が立ち、戦闘の激しさが増していく。
「──悪いね。私は眠たいんだ、ドレイク。別に、ここで戦っててもいいけど、お前もそんな場合ではないだろう。しかし今日は、本当に眠い⋯⋯」
「──貴様。正気か!? それに何を言っている!」
「──スケアクロウ。案山子の【英雄】の軍は既に東方騎士団の各領土に攻め入った。もう落ちる頃と思うが、まだ気づかないのか。察するよ、お前も眠いのだろう」
言って直ぐに欠伸をする。
「──な、嘘だっ! 騎士団が落ちるわけがない! それになぜ西方騎士たちが裏切るのだ!」
「──皆わかってくれた。それだけだ。眠い中、話ながら、戦うのは難しいな」
「──そんなわけがない! お前が何かしたのだろうが!」
「──東方騎士団は正義の心と実力を推奨し、評価され、力をつけて来た。西方騎士団は己を克服すること、力をつけること。挑戦と成長をもって力をつけて来た。それだけだ。それだけの違いだよ」
「それが何故裏切りに繋がる!」
「──新しい世界の流れは、もう誰にも止められない。そして停滞した意義のない正義はその波に飲み込まれて消えるだろう。お前のヴィジョンのことだよ。正義が何故強く、そして勝つのか知っているか?」
「──貴様は何を言っているのだ! 意味が全然わからない!! 」
「──正義はあるべき場所にあるべき調和をもたらす力。それは元に戻る力であり、異物を取り除いた後には不要となる。しかし、その後もとどまり続けた正義は調和を維持しようとし、正義の性質でなくなる。変化を許さないそれが停滞と腐敗をもたらす。そして停滞し意義を失ったXは、次のより健全な正義によって取り除かれる。お前は旧世界の価値観を持ち込んでそれを守りたいだけだよ」
「……⋯⋯」
「──数と環境は力であり、それは多くの場合正義につく。悪についても一時的にだ。舞台も役者も正義の味方だ。だから強い、だから正義は勝つ。だが世界も魂も常に流れるようにして動いている。動く速度は違ってもね。それはお前が今正義だと思っている自分自身も、またいつか調和から外れることを意味する。行き過ぎた秩序、調和を求めるお前の正義もまた秩序、調和から外れた悪になるだろう。お前の正義はそこまでで終わる。お前にはそれ以上がない」
「黙れ、貴様に何がわかる。貴様は裏切りを正当化する詭弁をいっている」
「──阿呆の子にはわからないだけじゃない? それかわかりたくないだけだろう」
「⋯⋯黙れ」
「──皆眠たいんだ。眠りたくて仕方ないんだ。意義や意味のない人生を送るのなら眠り続けて死ねばいいけど。楽だし、気持ちいいだろう。でも起きてこの人生を歩むのなら、私は真に意義のある人生を歩みたい。正義も悪も超越した所で世界とそして自分自身と調和するんだ。3Faithのヴィジョンがそれを可能にしてくれた。愛と信仰と真正性は正義よりも大事なことだよ」
空気が爆発するような音がして──
騎士達と共に【恋人】が目の前を吹き飛ばされていった。
「──そうそう、価値は重い方の勝ちなのさ」
ニヤリと笑いながらサングラスの男が竜の亡骸を投げ飛ばしながら言って、吹き飛ばされたカドゥケウスを追いかけに行った。
「──まぁ、そういうことだよ。お前の正義ごっこでは足りないのだ。裏切りというより足きりだよ。首切りでもいい。別に何だっていいんだ」
ルーベンが欠伸をしてそういった。
「⋯⋯言いたいことは、それだけか?」
ドレイクの身に異変が起こる。
怒り、憤怒。暴力、破壊衝動。破滅すら求める激情。
この瞬間──ドレイク・スティングレイは、それらに自身の全てを──飲み込ませた。
聖なる雷が激しく迸り、それが溶けるようにドレイクを包む。濃密なエネルギーの光の中でドレイクがつぶやいた。
《 終わりなき世界を夢見ること、終わりなき平穏と安寧を求めたこと、己を殺し、手本となり、自身を律し、忍耐を重ね、痛みを許容し、世の終わりなき変化の激流に身を委ねず、全てを受け止め、破滅を跳ね除ける盾となり、全ての苦しみを糧とし、歩むことを、今この時、放棄する。破滅の権化となり、怒りと正義の奔流に身をまかさん。……竜人化 》
光が収まると、変貌を遂げた姿のドレイクがいた。
身の丈は数倍になり、全身が竜の鱗に覆われ、甲冑を纏う。
頭には竜角。背には竜翼。腰に竜尾。
瞳は人ではなく竜となり、まさしく今、男は憤怒の化身となったことを告げていた。
「……切り札を出してきたか。自由というものも公平と同じように価値があるものだ。死ぬ前のたったひと時の時間だ。好きに使うと良い」
「龍気解放……」
目にもとまらぬ速度で竜人が英雄の背後をとる。
下から突き上げるような軌道で切り上げられた槍の穂先に聖雷。
先ほどまでとは桁違いの魔力だった。
*
穂を避けたルーベンが、槍の柄を手で触れていなそうとした。
掴まれるのを警戒したドレイクが槍の柄まで龍気と聖雷を迸らせ、引き戻し、胴に超高速の連続突きを繰り出す。
回避される。
互いに高速移動しながら立ち回り始めて直ぐにドレイクが違和感を感じた、その瞬間──
「──っ!」
柄を持ち替えた手に激痛が走った。
強力な酸が塗り付けられていた。
共にナイツ・オブ・リバティを立ち上げた者同士。
ルーベンの手札の全ては知らないが、これは予想外ではなかった。
「⋯⋯罠師の右手か」
厄介な能力だった。
あの避霊針もだ。光の猟犬のごとく追跡する聖雷がルーベンに届くころには霊気を剥がされ、威力は半分以下になる。
奴の連れてきていた部下の半数が避霊針を守り、もう半数が西方騎士団の特徴的なボウガンを持ちドレイクに射かける。
命中した矢は竜人の鎧と鱗に弾かれる。
奴の一番弟子と前に見かけた高弟たちの姿が見えないのも気になった。
⋯⋯恐らく東方騎士団の領土の攻めを任されたのだろうと合点がいった。
Booooo!
龍の息吹を吹きかけ、自らの右手事巻き込んで酸を消し飛ばした。
「⋯⋯姑息な真似を」
「⋯⋯右手大丈夫? お前なら眠れば治るか」
右手の表面が少々炭化したが、あのルーベンの塗った酸をそのままにしているよりは、一度再生してでも直す方が良し。
「ああ、そうだな。そしてお前は永眠しろ」
領土に戻らねばならない。
竜と騎士達を連れて。
竜と共に飛び去る隙は無い。あのサングラスの男に撃ち落とされる。
カドゥケウスに頼りたいが…⋯
期待していても仕方ない。どうにか道を切り開くしかない。
「──距離が開いてしまったな。俺もお前も遠距離は得意じゃないが、竜人化した後ならお前より得意だ」
ドレイクが狂暴な笑みを見せ、数十の聖なる雷のエネルギー体を作り出し、それぞれがミサイルのようにルーベンを追いかける。
「そうかな。別にお前は得意だけど、竜人化のときにしか使わないだけじゃない?」
「その減らず口を物言わぬように変えてやる」
ドレイクは怒っていた。
自身の技能である憤怒エンジンが、未だかつてないほどの回転数を叩きだしエネルギーを自身に供給。
龍の血が沸騰する。
まるで存在の位階が繰り上がったかのような力の上昇を感じた。
竜人化はすべての能力を大幅に上げてくれる。
今の自分ならば単純な生き物としての性能差でルーベンを圧倒出来るのでは、とさえドレイクは思った。
ルーベンが高速で針を投げつける。
「──遅いっ!」
回避し、槍で突くが、外す。
右に回り込まれたのを裏拳で迎撃。
これも交わされるが、左手に持った槍の石突で敵の胸を打った。
相手が吹き飛ぶ前に竜の息吹を吹き付ける。
本物の竜に一切引けを足らないと自負する強烈な息吹。
ルーベンはボロボロになるも、動きからみて致命傷は与えられていない。
その後も二度三度と打ち合い、その度にドレイクが押した。
「──そのブレスの威力は凄い。たまに息が出来なくなるほどだ。だが、⋯⋯そろそろケリをつけよう、ドレイク。私は皆と一緒でメンドクサイことは嫌いだからね」
「──ボロボロの姿で強がっているように見えるぞ。裏切り者」
「──そうかな? でも竜化だか中華だか忘れちゃったけど。 そんなに強気でいいの? 私の悪癖忘れてしまったのかな?」
ショートソードを並行にして顔の前にルーベンが持った。
剣身に光が反射し、ドレイクの目を細めさせた。
「……⋯⋯」
「──君が悪癖だと言ったんだがね」
剣を鞘に戻し、【英雄】が腰のベルトに──手を掛けた。
ベルトのバックルから膨大な霊気が溢れ出し、ルーベン・ナイトレイの手によって、極限にまで練り上げられていく。
「⋯⋯手加減か」
ドレイクが眉間にシワを寄せて呟いた。その瞳は最悪の未来をすでに予測しているようだった。
対称的にルーベンの淀んだ眼が清涼なものに変わっていく。
「──変身」
そして英雄は呟いた。
【英雄】の意識が冴え始め【竜人】の憤怒エンジンの回転数が落ち始めていた。
==
#ドレイク・スティングレイ 「正義」×「運命の輪」× 紛失
型: 竜騎士
サブ:契約者
技能:龍の呼吸 龍気 聖雷 再生 憤怒エンジン
契約魔法:対象 竜族、契りの騎士達 竜の血
#ルーベン・ナイトレイ 正義」「運命の輪」◯ 所有
型: ヒーロー
変身(シャドウ型 悪役)
避霊針(設置場所に相手の霊的攻撃が誘導される)
超錬気(マナを練り上げる行動に補正極大)
七転八倒(復讐のための復習 復讐戦 補正極大 効果は訓練でも、実践でも)
ヒーローの呼吸
罠師の右手
==
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