ま×ま

空白メア

文字の大きさ
上 下
2 / 7

第2話 初日(1)

しおりを挟む
 俺はイツメンと登校している。どうやら、昨日俺は緊張の糸が解けると倒れてしまったようだ。起きると家のベットの上だった。先生方が俺を家に返してくれたらしいと母親に伝えられた。面目ない。
 学校に付くと俺は教室ではなく応接室に向かう。今日は二人も一緒だ。
ふと俺は体育館の方を見る。昨日の件は大々的に報道されて正門にはマスコミが大勢来ていた。裏門まで凄いこと。どうやって入ればいいんだ。
「はぁ、気が重いな。」
天がそんなマイナスな言葉を吐く。覚えてる限り昨日の死者及び重傷者はざっと三十人ほどいた。今思い出しても無ごい景色だと思う。無意識に心臓に手を当てて鼓動を確認するくらいには精神的にきていた。
「……俺は聖魔団に入っていいのかな」
向かう途中、藍色のそんな声が聞こえた。それは、とても震えた声だった。昨日のせいかいつもより不安なのかもしれない。彼は自身の足元に視線を落としていた。多分、俺らに声が聞こえてると思ってないのだろう。
「どーしたんだよ。急に」
無視をする選択肢だってあったはずなのに。俺は彼の声に応えた。ただ、この後どうしようとかまでは考えてなかった。藍色は、俺の声に前を向く。
「あっと……そういう意味じゃなくって。」
彼は焦って言い訳を始める。別に藍色の考え方に不快感を抱いた訳では無いのにな。
 俺は分かっている。彼が臆病な事を。自分の家族に心配をかけるのが怖い臆病者なのだ。ただ、彼の想いは生活環境を考えれば当たり前だった。
 藍色の家は、藍色と彼の母親、弟、妹の四人家族だ。父親は数年前に病死していた。皆川家は今現在母親一人で生計を立てている。自分がいなくなれば、今の家族の生活は成り立たなくなるかもしれないと考えているのだ。
 俺も母親と二人だから彼の考えが何となく分かる。確かに、聖魔団は給料がいい。しかし、自分がこの世からいなくなる可能性だってあるのだ。残される家族を考えるとゾッとする。
 実際に聖魔団程では無いが、魔法が使えると言うだけで就ける良い仕事は沢山ある。
 俺も父親みたいにいなくなったら、母さんは潰れてしまうんじゃないだろうか。そう考える日は少なくなかった。
「いいんだ。それが普通だから。」
俺は、ただそう言った。
 俺が、怖くても聖魔団を選んだのは親父の背中を見すぎていたからだ。ただ、それだけだった。でも、藍色は俺とは違う。
 「そうそう。それに聖魔団は戦うだけが全てじゃないよ。大丈夫、私達がいるから。」
天も聞いていたのかそう答える。藍色は俺らの言葉に驚いていたが直ぐにそうだなと答える。その顔は少し砕けたように感じた。

「失礼します」
 俺ら三人は応接室に入ると校長一人がソファに座って居た。校長は俺達を認識すると彼の反対側のソファに腰掛けるように促した。俺らが座るのを確認すると先生は口を開いた。
「昨日はすまなかったね。」
「いえ、しょうがないと思います。」
「いえ、そんなことは無い。それより君たちの心が心配だ。困った時はカウンセリングを使いなさい。」
校長はそうやって俺らに笑って見せた。俺らはそれに対し無言で頷いた。まぁ、カウンセリングに行った方がいいのかもしれないがそんな時間があるのか疑問だった。
「じゃぁ、本題に入ろうか。実は今日、君たちの教育を担当する聖魔団の方を紹介して説明をしてもらう予定だったのだが、急な予定が入ったらしくてそれが出来なくなったんだ。」
「え?」
「本当にすまない。」
いや、済まないとか言う以前にそんなことが許されていいのか?こっちは貴重な休日にわざわざ学校に来てるんだぞ。不満を持ってるのは俺だけじゃないようで天と藍色も眉間に皺を寄せていた。
「急用ってなんですか?」
「どうやら最近の悪魔団の事件に進展があったらしい。」
俺らの担当はかなり忙しい人のようだ。
 ちなみに、悪魔団とは大悪魔とその契約者である悪魔で構成された組織だ。例を上げると昨日学校を襲撃してきたやつがそうだ。最近の悪魔事件ってことは昨日のアレでは無いのか。確かに一ヶ月前から多発している放火事件は困ったものだが、俺からしたら他所の世界の話だ。そりゃ、不満の一つや二つ出てくるだろう。
「でも、確か研修生の教育係と悪魔団の対応をする係は分けてましたよね?」
「担当者は元々そちらに属してる人でね。なんでも、臨時移動らしくて引き継ぎが間に合わなかったらしい。」
ホットな事件を追ってたのに急に移動になったのか。大人って大変だな。さっきまで怒りしか無かったが、そう考えるとその人が可哀想に思えてきた。
「分かりました。」
「すまない。確約できる訳では無いが、明日こそ顔合わせ出来るようにするよ。」
校長のその言葉に俺らは頷いて帰るしか無かった。
 
「ただいま。」
俺はあの後二人と下校した。
「あら、おかえりなさい。早かったわね。」
そう言ってニコニコと笑う母親が出迎えた。片手には絵本を抱えていた。
「なんか、別日らしい。」
「そう。とりあえず着替えちゃいなさい。」
「了解」
「あー!りつとだ!」
親子二人で会話をしていると、元気な声が奥から聞こえてきた。
「がっこーサボりかよ!」
と別の声。そこには数人子供がいた。
「馬鹿、違ぇよ。」
子供らに対し俺はそう返事した。
 我が家は個人図書館を営んでいる。規模は大きくないし、利用料もかかるが住宅街にある為毎日人が来る。日中は子供達のために読み聞かせなども行っている。ついでに俺もその手伝いをすることがある。子供達の保護者はその間手隙になるから大助かりだろう。
「りつと君これ読んで」
 女の子3人組が「しらゆきひめ」と題名が書かれた絵本を持ってくる。
「りつとずかん読んで!」
今度は、男の子5人組が来る。いや、図鑑はちょっと…
「ひ、ひとまず私服に着替えてくるから。な?」
と言いその場を退散。時々早帰りするとこれだから困る。こういう時、小さい子の世話が得意な藍色を凄いと感じる。
 俺は、私服に着替えて児童書コーナーへと向かった。
----------------
「いや、悪いなあいつらの迎えに付き合わせちゃって」
私は家に帰らず寄り道をしていた。
「大丈夫だよ。久しぶりに二人にも会いたいし。」
二人とは彼の双子の弟と妹の事だ。ついさっき迎えに行くことを話してくれたので私はそれに便乗することにしたのだ。 
「あの二人って今いくつなの?」
「八歳だよ。」
「早いね。もう小二か。つい最近まであーくんに抱っこされてたのに。」
「まだまだ心配が耐えないけどな。わざわざ迎えに行くのだって最近物騒で怖いからだしな。」
彼の言う物騒は校長先生の言っていた進展した事件のことだろう。兄も頭を悩ませていたのを覚えている。
「「お兄ちゃん!」」
学童保育に行くと小さい二人組がこちらに向かってくる。この子達があーくんの弟と妹だ。
みどりすいおかえり」
いや、癒しかな?
ちなみにこの天使二人は双子だ。翠ちゃんが姉ちゃん、水君が弟。
「あ、天ちゃん。こんにちは」
「こんにちは」
二人は私に気づくとお辞儀をする。何この可愛い生物。
「こんにちは」
「天。お前顔キモイぞ」
うるさいなぁ。ニヤついてることくらい自分で分かっているんだから現実を突きつけないでよ。
「あら、藍色君こんにちは。今日ってお母さんが来るんじゃなかったの?」
と建物の奥から出てきた先生があーくんに話しかける。
「え。」
「お母さんから今日は早めに仕事終わったから迎えに行くって連絡あったのよ。」
藍色はスマホの電源を入れる。覗き込むと、画面には着信とメールの通知が一件ずつ入っていた。
「ほんとだ。入れ違いになるといけないんでメールしときます。万が一、お母さん来たら、俺が迎えに来たって言っておいてください」
「分かったわ。じゃぁね。水君、翠ちゃん」
そう言って先生が手を振るとチビちゃん二人は手をブンブン振って返した。
「じゃぁ、帰るか」
 あーくんのその言葉で私も彼の家へ向かう。
 目的に向かうこと約十分。鼻に違和感を覚える。何かが焼ける臭いがした。周囲の人も同じ気持ちのようで当たりをキョロキョロしている。
「ねぇ、なんか焦げ臭くない?」
と何気なしに今の気持ちを声に出すと
「そうだな」
と予想通りの声が帰ってきた。違和感は無くなるどころか足を進める度に大きくなる。更に何処と無く暑さを覚えた。風を入れるため服を手で少し仰ぐ。そんなことをしていると、不意にあーくんはこう言った。
「ちょ、ちょっと、こいつら頼んだ!」
急に喋った彼に驚いていると、その間にあーくんは魔法ペンを出して魔法陣を描き、瞬足魔法を使って走り出した。行先は多分自宅だろう。 
ん、自宅?ま、まさか!
「二人とも行こうか」
置いてきぼりの双子を連れて私は先程高速で移動したあーくんを追うことを提案した。
「う、うん」
「お兄ちゃんどうしたの?」
「わからない。とりあえずあーくんの行った方に向かおう。」
 彼の家に向かうにつれて外気温度は暑くなる。まだ6月も始まったばかりだと言うのに真夏のように暑かった。しかし、それに反して私の手は体温を失っていた。あーくんの家に近づくにつれて不安が大きくなってるからだ。祈りを込めて角を曲がると燃え盛る炎が目の中に飛び込んできた。
しおりを挟む

処理中です...