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第26話

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 ーー話は少し変わり二時間前、ラグアナ湖より南西にある小湖では

 アストルの森調査団中継拠点の一つのテント内に約10名が集められていた。多種多様な鎧や武器を備え、態度の大きな荒くれものが大多数。逆に沈黙している、黄髪でモヒカン頭の青年と、青緑髪の青年が目立って見える。そして、集められた冒険者たちの前には招集をかけた王国軍の兵がいた。

「一人、二人三人……十一人。よし、招集をかけた全員そろったな。ええ、それでは今回君たちを集めた理由を説明したいと思う」

 その言葉から始まり少しの間、今の調査団の状況と俺達の役割についての説明が王国軍の兵士によって告げられた。

「ええー……であるからして、食糧難の早期解決のためここに残った調査団員でいくつかの班を作り、各班ごとに魔獣を狩ることとなった。というわけで、これからDランクパーティー「蒼黄の剣」、Cランクパーティー「黒の狩人」、それと同じくCランクパーティー「覇者の軌跡」の計11名を第1班とし、班員で協力して今からラグアナ湖方面へ食料確保へ向かってくれ」

 そして次に一人一人の顔色を窺い、

「異論のある者は」

 と告げる。
 するとそこへ、一人の男が声を上げた。声を上げたのはCランクパーティー「覇者の軌跡」の一人。大柄な体に隆起した筋肉。髪はばらばらで適当で、粗末な鎧を身に着けている。そして、背中には身の丈くらいの長さの大斧を下げ、正に荒くれものって感じの見た目だ。

「兵隊さんよぉ、なんで魔獣討伐でDランクの重りなんかしてやらなけりゃあダメなんだ? 明らかに邪魔だろう、どう考えたって。効率は下がるわ、使い道はねえわ、俺達にはいい事が無いじゃねえか!」

 男は、そう言い張り、Dランクパーティーの二人をめがけて指をさす。

「なんだとぉ!」

 流石に言われているほうも我慢ができないらしく、反抗的な態度を示す。指をさして、罵倒されたのはDランクパーティー「蒼黄の剣」のメンバー黄髪と青緑髪の青年だ。
 罵倒をして来た男を睨み、反抗的な態度をしめしている、黄髪でモヒカン頭の青年の名はジグム。短気な性格だが、少し悪知恵が働く。防具は一般的なプレートメイルを装備し、腰にはこれまた一般的なロングソードを下げている。

「おい、やめろ! ジグム!」

 ジグムを抑えに入った、もう一人の名は、アルレッド・ノーフォスター。実はとある貴族家の四男である。首元まで伸ばしている青緑髪はきれいに整えられ、加えてきれいな顔立ちをし上品な雰囲気を持つ。正にイケメンである。鎧もジグムと同じプレートメイルなのだが、ジグムとは明らかに違い上品な物だ。腰には1mほどのレイピアを下げている。

「ふん。それは俺も同意見だ。こんな奴と一緒にいたら、余計に危険な気がするしな」

 ジグム達を罵倒した男の言葉を後押しするように、全身黒色の装備でまとったCランクパーティー「黒の狩人」のリーダーらしき男も加えて発言する。

「なあ、兵隊さんよお、さっきは協力してとか言ってたけどよ、別に別々に行動しても大して問題ないよなぁ? だって、ただ魔獣を狩って食えそうな奴を持ってくればいいだけじゃねぇか。それなら、一人前の冒険者……ましてや半人前でもそれくらいはできるだろう」

 っと、荒くれものの男が兵士に問う。そしてさらに荒くれものの男が、ジグムにも視線を送り、ジグムを挑発する。

「……」

 その発言に対し、兵士は少し顔をしかめ、少し考えこむ。班で行うという指示は上官の命令であったが、Cランクパーティーの面々が言っていることには少し共感できるものがあったからだ。

「それは……」

「ふっ、いいぜ! そっちがそう言うなら、俺達は俺達だけでで行動する!」

 兵士が答える前に、我慢に限界が来たジグムがこう言い張る。

「おっ、おい! ジグム。お前そんな事勝手に決めて……」

 それを見て慌てて、アルレッドが止めに入る。

「うるせえ! アルレッド。お前はあんな事言われて何とも思わないのか」

「それは……そうだが……」

 ジグムの言ったことが、少し共感できてしまい、アルレッドが言葉に詰まる。

「ふんっ。おい、兵士さん。確か、魔獣の納品は夕方までにだったよな?」

「ああ、そうだが……」

 ここで、今まで黙っていた兵士が口を開く。

「よし、なら俺達は俺達だけで行動する。それで、夕方になったらキャンプで集合するってことでいいよなお前ら」

 っと、今度はジグムが荒くれものの男達に視線を送る。

「ああ、俺は問題ないぜ」

 荒くれものの男が、にやにやしながら返事をする。

「こちらも問題ない」

 そして次に、「黒の狩人」のリーダーらしき男も返事をする。

「よし、そういう事で俺達は先に行かせてもらうぜ。行くぞ、アルレッド」

 そう言って、ジグムはテントから一人でていった。

「まて、ジグム!」

 そうして、それを追ってアルフレッドもテントから出て行った。残った、二つのパーティーはその後部屋を順に出ていく。

 そしてテントに残った兵士は一人、上官にこのことをどう伝えるか頭を抱え悩むのであった。


 ーーそして数時間後、ラグアナ湖から小湖に流れる川付近


 ほぼ全ての方向を木々で囲まれ、隣には川が流れている。川岸には石が足場になり、道のようになっている。そしてここに、先程のジグムとアルフレッドの姿があった。

「なあ、ジグム。本当に単独行動をとってしまってよかったのか? それにキャンプからこんなにも離れてしまっては、危険ではないか?」

 っと、アルフレッドが不安気にジグムへ問う。

「うっ、うるせぇな! 俺だって今後悔してんだ。でも、あんな啖呵を切っといて、今更言えるわけねぇだろうが!」

 っと、つい数時間前までにはあれだけ強気だったジグムだったが、冷静になると流石に不安になってきたのだ。だが、ジグムは戦力差を考えることができる人間だ。冷静になった今、もう一度考える。この森に入り、中継地点に行くまでにも何度も魔獣と遭遇し、数匹は魔獣を倒した。そして、今まで遭遇してきたのは良くてランクEからC程度。たとえ運悪くCランクとで遭遇しても倒すことはできなくとも逃げ切れる自身くらいはある。また、そもそもCランクの魔獣自体あまり遭遇することは無い。だったら、別に単独行動をとっても大して問題ないような気もする。

「まあ、この森がいくら危険っていてっても大半はEからDだ。その程度なら俺達でもなんとかなる。それに、あいつらが来ていないような所で狩った方が効率よさそうじゃねえか」

「そうだろうか……」

「大丈夫だって。俺たちの実力なら」

 ジグムは思う。自分は間違っていない。と。

「そうか。それもそうだな」

 そして、それにアルフレッドも賛同する。人間という生き物は、どうしても信じたくなるものなのだ。仲間という存在を。そのことが正しいかなんて誰にも分らないというのに。

 こうして彼らは、川に沿って森のさらに奥へ奥へと進んでいく。
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