異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう

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128話 「文字もあるみたいで」

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「どうぞ、お菓子の詰め合わせです」

「やあ、これは美味しそうですね。早速頂きます」

営業スマイル的な笑顔を浮かべ、お菓子に手を伸ばすドラゴン。
その横では相変わらず長が涙を流している。

「うん、実に美味しいで……ほぁっ!?」

突然奇声を上げたドラゴンにびくりと身を竦ませる加賀。
菓子を見つめたまま固まるドラゴンに恐る恐る話しかける。

「ど、どうしました? お口に合わなかったですか……?」

「あ、いえそういう訳では無くてですね。今まで感じた事のない味がしたもので……これは一体」

感じた事のない味と聞いて首をかしげる加賀。
食べた事の無い味なら分からなくも無い、だが感じた事の無いとなると……と考えたところで加護の内容を思い出す。自分が食べたのと同じように食べれる、それはうーちゃんの例を見てわかるように栄養とかだけではなく味覚も含まれる。

「リンゴって食べた事ありますか。これですけど」

「あ、はい一応は……以前食べたのと味がまったく違う。こちらのお菓子と似たような味が増えているようです」

「なるほどなるほど。ボクの加護の影響で人と同じ味覚になるようなのでその影響ですね。ドラゴンさんの場合は甘みが追加されているんだと思います」

うーちゃんのおやつのリンゴをすっと差し出す加賀。
リンゴを食べたドラゴンの反応を見るにどうやら甘みを感じる器官がドラゴンにはないようだ。

「なるほど加護ですか……そしてこれが甘み。あれ?」

残りのリンゴを食べじっくり味わうドラゴン。リンゴを食べ次は別のお菓子をと手を伸ばし、そこにあったはずのお菓子が全て無い事に気が付く。
はっと振り返るとそこにはまるでリスのように頬を膨らませるうーちゃんの姿があった。

「なんかすみません……」

「……いえ、かまいません。吾輩が食われないだけましと言うものです」

かまわないと言いつつもその表情は落ち込んでいる様にしか見えない。
だがあることに気が付いたのかはっとした表情で加賀へと視線を向ける。

「加賀殿でしたな。吾輩が街まで行けば料理作って頂く事は可能でしょうか?」

「え゛っ……あ、そっか。別にその姿に変身して服着ればいいのか。それってドラゴンさんの魔法か何かなんですかー?」

「いえ、これは魔法具ですよ。吾輩はその様な魔法は扱えません」

変身する魔法具と聞いて加賀の脳裏に八木が何やら話していた内容が思い浮かぶ。
ヒューゴ達がダンジョンで入手したものにそういった魔法具があったはずである。
とにかく人の姿になれるのであれば後は服さえ着ておけば街で料理にありつく事も恐らく可能だろう。

「ええ、来ていただけるのなら大丈夫だと思いますよ。場所は後で伝えますね」

「うむ、ぜひともお願いしたい」

初めて感じた甘みの衝撃で先ほどまでの不機嫌な気持ちはすっかり吹き飛んだのだろう。ドラゴンは笑顔を浮かべ残ったリンゴを食べるのであった。


「やー、無事説得できてよかったねー。説得する必要なかったけどっ」

「いやー、うっかりだね」

水中へとのそのそと潜っていくドラゴンを見送る一行。最終的にはドラゴンともいい感じ? な雰囲気の中で分かれる事が出来た。
後は長達とどのように取引するか詳細を詰めるのみだ。

「受け取り場所はどこにしましょー。門の外かな?」

「そうね、中に入ってもらっても良いとは思うけど。事前に門番に話したおけば大丈夫だと思うし、それに買い物に付き合うのだから一度宿に荷物置きに行かないといけないでしょ」

「ん、それは確かに……でも運び役の皆さんって人の言葉で会話できるのかな?」

一応ラヴィはたどたどしいながらも皆と会話は出来ていた。ならば他のリザートマンもいけるのだろうかと加賀とアイネの視線が長へと向かう。
視線を受けた長は軽くため息を吐くと首を横に振る。

「……いや、無理じゃよ。言葉を聞いて理解する者も居ないしましてや話す事などとてもとても……」

どうやら彼らの中に話せるものは居ないようだ、一応話せはするラヴィが特別と言う事だろう。

「んー……じゃあ、こういうのは? あらかじめお互いの言葉を書いた紙か何か渡しておいて、必要に応じてそれでやりとりするの」

「良いんじゃない? 門番の質問事項も用意して置かないとね。それなりの枚数になるけど……紙だし持ち運びするだけなら問題ないでしょ」

言葉が通じないのであれば予め紙に書いて用意しておけば良い。
とりあえず何とかなりそうと加賀が考えたところで、ふいにうーちゃんが加賀の服をぐいぐいと引っ張る。

「ん? どったのうーちゃん」

う(もじつかえるんかの)

「ぁ」

それもそうだと長の様子を伺うが特にこれといって反応を示す様子はない。

「あの長さん。リザートマンの文字ってどんなのですか?」

文字があるかと聞くのも失礼かなと思った加賀、とりあえずどんな文字なのか聞くに留める。
長はふむと頷くと指で砂濱になにやら描き始める。

「これがそうじゃよ。読めるかな?」

「へー……ラヴィですか、思ったより角ばった文字ですね」

リザートマン達は文字を問題なくかけるようである。
それじゃ、作ってしまいましょうと声をかけ4人で手分けをしてやりとり用の紙を作成していくのであった。
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