異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう

文字の大きさ
184 / 332

182話 「暇つぶし2」

しおりを挟む
翌朝、探索者達が宿の朝食を取り終え食堂を出て行って少し経った頃、八木がふらふらとした足取りで食堂へと入っていき手近な椅子にのそりと腰掛け大きく欠伸をする。
その様子を少し呆れた様子で見ていた加賀、すっと飲み物の入ったコップをテーブルに置く。

「まさか徹夜でもしたのー?」

「おー……あんがと。……徹夜じゃないけど結構遅くまで起きてて、気が付いたら寝ててさー……正直ちっと寝不足だあな」

「ありゃ、それじゃー二度寝でもしてきたらー? お休みなんでしょ」

目の下に隈が出来るほどではないがそれでも眠たそうにしている八木に対し寝ることを進める加賀。
だが八木は軽く首を横に振るとやめておくよと答える。

「初日から躓くとそのまま食っちゃ寝生活になりそうな気がしてならない……」

「あー、まあ無理しない程度にねー? まあ、とりあえず朝食食べるといいよ。いま用意するね」

頼むわと言って加賀に手を振る八木。出された朝食をもくもくと食べ一度部屋へと戻る。
もそもそと室内をあさり取り出したのは加賀から借りていたPC。電源を入れ昨日見ていた画面を再び確認する。

「スキーとか無理よなやっぱ。やりたいけど……とりあえず大人しくトランプでも買ってくるか……」

電源を落とし着替え始める八木。紙が一般的に普及しているこの世界である、おそらくトランプもあるだろうと思い買い物に行くつもりなのだ。

「ちょっと買い物行ってくるなー」

「ん、一人で平気? 誰かと一緒のほうが良いんでないー?」

八木の体を見てちょっかい掛けるのは早々居ないだろうが、もし掛けられた場合八木はただの素人なので不安がある。そこに二人の会話を聞いていたアイネが声をかける。

「デーモンつけておくよ」

「アイネさんありがてえ」

とりあえずデーモンが付くのならば安心だと言うことで八木は外套を羽織ると玄関へと向かう。
外は少しだけ雪が舞っており中々に気温は低い、が八木自体別に寒がりという訳でもないので特に気にした様子もなく外へと出ていく。


「着いた着いた。近所だと助かるなー」

歩いてほんの数分で八木は目的の雑貨屋前に到着していた。
ぽんぽんと外套についた雪を払い扉をくぐる。

「あら八木さんいらっしゃい。久しぶりねえ」

「ども、ご無沙汰してまっす」

店に入ると雑貨屋の店主であるエリーが八木を出迎える。店の外見は当初とは変わってしまっているが八木達がこの世界にきてすぐの頃からのなじみの店の一つである。

「トランプほしいんだけど有るかなー?」

「もちろんよぉ。1個で良いのかしら~?」

宿でトランプを一緒にやってくれそうな人はどれだけ居ただろうか、そう考えトランプやりそうな人を思い浮かべようとする八木であるが、そう言った遊びをしている場面を見たことがないのでぱっとは浮かばない。

「とりあえず3個もらえますか?」

「はぁい、ちょっと待ってね~」

宿に残る探索者の数は日によってばらばらである。多い日はそれこそ30人近く、逆に少ない日は一人も残っていない。
とりあえず間の15人が使うと考えとりあえず3つもあれば良いかとエリーに伝える八木。


「そんじゃありがと、また来るねー」

「はぁい、また来てね~」

エリーに手を振り雑貨屋を後にする八木。
トランプをするなんて恐らく数年ぶりだろう、久しぶりにやるトランプに思いをはせうきうき顔で宿へと戻って行く。


「ゲットしたぞー」

宿に戻って食堂に入ると同時にゲットしたトランプを見せびらかす八木。
ちょうど休憩をしていたのか食堂にいた何時ものメンバーが八木の声に反応する。

「おん? あ、トランプねー良かったじゃん。3個も買ったんだ?」

「おう、もしかすっと皆やるかも知れんし有ったほういいと思ってさ」

4人が囲んでいたテーブルの上にぽんとトランプを置く八木。
となりのテーブルから椅子をずりずりと運び自分もテーブルを囲む。どうやらトランプやりたくてしょうがないらしい。

「トランプか……しばらくやっとらんな」

「5人で出来る遊びあったかな?」

どうやらバクスとアイネはトランプで遊んだ経験があるらしく、割と乗り気である。

うー(なんぞこれ)

だがうーちゃんはやった事は無いらしい。てしてしと前足でトランプのケースを叩いている。

「そのケースに入ってる紙で遊ぶんだよー」

うーちゃんが叩いていたトランプのケースを開け、中身を取り出しテーブルに置く加賀。一枚手に取りうーちゃんへ渡すとしげしげと興味深そうに眺めている。

うー(なげるの?)

「やめてください」

八木のほうに向かい投げる仕草をするうーちゃんを真顔で止めに入る八木。
うーちゃんが投げるとさくっと刺さりそうでとても怖い。

「とりあえずー……ババ抜きでもやる?」

「いんでない?」

「うーちゃんに……ん、皆にルール説明するね。もしかするとお互い知ってるルールが違うかも知れないしね」

一通りルールを説明する加賀であるが幸いなことにアイネとバクスの知っているルールと変わらないようである。うーちゃんも簡単なルールなのであっさりと理解した模様。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...