異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう

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227話 「飛行艇はすごく速いらしい」

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リッカルドに行くことを決めてからしばし経った頃。宿の玄関にリッカルド国からの迎えが八木を訪ねてきていた。

「八木殿、ご無沙汰しておりますな。お元気そうでなによりです」

「大臣様も……えっと、ご立派になられて?」

リッカルド国からはまさかの大臣自らがお出迎えとあって玄関に向かった八木は驚きのあまり目を瞬かせいる。
そして混乱する頭からひねり出された挨拶は割と失礼なものであった。

「いやはや、悩みごとが無くなって食欲が出て来ましてな……いや、お恥ずかしい話で」

そう言って太鼓の様に膨れた腹を抱えて笑うぽんと叩いて笑う大臣。幸いな事に八木の発言はあまり気にしてはいないようである。たぶん。

「領主の館の北に飛行艇を止める場所がありましてな、そちらまでは馬車を用意してますので、どうぞ護衛の方もご一緒に」

「それは助かりますね」

「こんな車体長い馬車あったんすね……」

「大人数用の馬車ですな、では行きましょう」

宿の前には護衛の者も一緒に運ぶため、大型の馬車が何台もならんでいる。
いずれも普段街中では見かける事が無いような大きさだ。
雪道を飛行艇まで歩くことを覚悟していた探索者達もこれにはにっこりと笑みを浮かべている。

「ところで八木殿、こちらのご令嬢はもしかして……」

「ぶふっ」

馬車には見送り……と言うよりは飛行艇を一目見ようと加賀も乗り込んでいた。
加賀の席は八木のすぐ側であり、飛行艇について二人で盛り上がっている。そんな二人の様子を見た大臣は加賀が神の落とし子だろうと分かったようだ。

「加賀と申します。八木と同じ神の落とし子です……一応男です」

噴き出した八木をじろりと睨み付けてから大臣へと挨拶を返す加賀。勿論男であることもしっかりと伝えておく。

「おお……これはとんだ失礼を」

一瞬加賀の頭からつま先まで視線を這わせはっとした表情を浮かべる大臣。
髪も伸びている上に着る物もどちらかと言うと可愛らしい。そんな加賀を初見で男と見抜けと言う方が無理があるだろう。

「今回は加賀殿もご一緒されるのですかな?」

「いえ、ボクは残念ながら別の用事が……せめて見送りだけでもと思いまして」

「そうでしたか……またこう言った機会があるかと思いますのでその際はぜひともご一緒に。歓迎いたしますぞ」

社交辞令ではなく本心で言っているのだろう。
残念そうな表情を浮かべ話す大臣を見てこれなら次は行ってみようかな、と思う加賀であった。


「お、見えてきたぞ」

「え、どこどこ?」

馬車に乗っていた探索者の一人が声をあげる。
それに釣られてキョロキョロとあたりを見渡す八木と加賀の二人。

「……あれか? 木でよく見えないけど」

「おー? おおー? でかくない?」

気の合間にちらりと見えるシルエット、それは二人が想像していたものよりも大分大きかった。

「100人近く乗れますからなあ」

100人乗れると言う大臣。それは決して誇張ではないだろう、近くまで行ってみれば見上げるようなその大きさはちょっとした客船並みはある。

「やっばい、むっちゃ格好いいんですけど」

「プロペラたくさんついてるねー……ん、あれって大砲じゃ……」

「え? ……まじだっ!?」

それにデザインもいかにもファンタジー世界で出てくる飛行艇といった見た目をしており、船体についた多数のプロペラや大砲を見た二人はまるで子供の様にはしゃいでいる。

「ほっほっほっ、楽しんで頂けた様で何よりです」

「うぉーい。何時まで見てんだー? そろそろ出発するってよー!」

そんな二人をニコニコと大臣が眺めていると探索者達が二人へとそろそろ出発する事を伝える。
探索者達はダンジョンで飛行艇を見付けた際に飽きるほど見ており、皆さっさと荷物を持って乗り込み済みであった。
ちなみに大臣も乗り込み済みであり、下で見ているのは加賀と八木の二人だけだったりする。

「っと、やば。それじゃ加賀、行ってくるなー!」

「おー。色々きーつけてねー」

加賀は見送りにきただけなので飛行艇に乗り込むことは無い。
八木は加賀に別れの挨拶をすると飛行艇へと乗り込んでいく、そして少しするとプロペラが激しく回り出し、ずずっと言う音と共に船体が浮かび上がりそのままゆっくりと上昇していく。

「おぉぉぉ……すっげ、飛んでるよ……」

「そりゃ飛行艇なんだから飛ぶに決まってるべ」

飛んだことに感動する八木を呆れたような目で見る探索者。
八木としてはファンタジー世界の飛行艇ににって飛ぶと言うことは非日常的な出来事であるが、彼らにとってはあたり前の事であったりするのだ。

「おー……やっぱあの汽水湖広いなあ。そりゃ対岸見えないはずだわ」

「おーい、着くまで暇つぶしにトランプやろうぜ」

「あっ今行くー!」

ある程度の高度まできたところで前方に加速し始める飛行艇。
流れる景色をぼーっと眺めていると後ろからトランプのお誘いの声が掛かる。
このまましばらくはずっと空の上である、暇つぶしの道具もきっちり用意してあるのだ。


「革命返さないでえええっ」

「お、速度落としたな? そろそろ着くな」

負けのこんだ八木が悲鳴を上げる中、探索者の一人が飛行艇の速度が落ちたことに気がついた。
もうすぐ目的であるリッカルド国に着くため、飛行艇はゆっくりと速度を落とし始めたのだ。

「早くない?」

「そりゃ飛行艇なんだから当然だべ」

前回行ったときは片道1週間以上掛かった道のりだ。
それからするとほんの数時間と言うのはとても早く感じるが、そこは速度が違い過ぎる故にである。
八木が窓から下を覗き込むとそこには黒っぽい森と森に囲まれた大きな都市の姿が存在していた。
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