異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう

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261話 「何か届いたらしい」

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春が終わりこれから夏に向けてだんだんと暑くなっていく、そんな時期。
だが今年の夏は何時もと違っていた、先週までは涼しかったのが急に気温が上昇し、黙って立っているだけでも汗がじわりと滲んでくる、そんな気温になってしまっていた。
春から一足飛びで夏へと変わってしまったのだ。

「あっちーな……」

「急に暑くなりましたね。先週までは涼しかったと思ったんですが」

もう少しでお昼になる、そんな時間帯。太陽は一番高いあたりにあり日差しも厳しくなる。
屋外で作業をしていた八木達は木陰に座り込み、休息を取っていた。
額から顎にかけ流れる汗をぐいと袖で拭い八木は一息つく。

「……まあこんぐらいの暑さなら別に嫌ではないけどな」

「そうなんですか? 割と汗だくなってますけど」

黙って立っているだけでも汗が出るのだ、当然作業をしていれば出る汗の量も増える。
その場にいた八木もそれ以外の面々も皆同じように汗だくになっている。

「汗かいて風呂入ったあとの酒が美味いんだこれがまた」

「……また二日酔いなっても知りませんよ?」

くい、と酒をあおる仕草を見せる八木に半目で忠告するモヒカン……もといオルソン。

「なに、ちゃんと加減して飲むさ……よっし、休憩終わりっと。仕事再開すっかね」

八木はそう言って水頭の中身を飲み干すと裾を払いながら立ち上がる。暑かろうが仕事の締め切りが延びるわけではない、今日の分を終わらせるべく八木は再び作業を再開するのであった。


一方パン屋の隣で屋台を出す加賀であるが、こちらも急に上がった気温のせいでへばった様子を見せていた。

「ぐー……地味に暑いぞう」

急に暑くなった為、冷風を出す魔道具の用意がまだ出来ていなかったのだ。
精霊に頼むという手もあるが魔道具も無く、かといって魔法を使った様子もないのに冷風が出ていれば疑問に思う人も出てくるかも知れない。そういった理由により精霊に頼むことも避けていた。

うー(あいすたべたい)

「そーねえ暑いしいいかも。戻ったら作ろうか」

加賀もうーちゃんの要望には賛成であった。
作業の手を止め額の汗を軽く拭う。
既に料理は売り切っており、今は屋台の片付けをしていたところである。そこまで重労働ではないが暑い中の作業となるとどうしても汗が出る。
そんな日は冷たいものが欲しくなるものだ、二人は宿へと戻りひとっ風呂浴びると食堂へと向かう。

「たっだいまー。アイネさんいるー?」

「お帰り。どうしたの?」

加賀がアイネを呼ぶとすぐにひょこりとアイネが顔を出す。

「暑いからアイス作ろうと思って。後でお手伝いお願いしてもいーい?」

「うん、いいよ。丁度夜の分作り終えた所だから、片付けたら作りましょ」

タイミングの良いことに丁度作業を終えたところであった様だ。
加賀は片付けの手伝いに厨房へと向かった。

「冷たくておいし」

うっ(おひょー)

「シャーベットもいいね。すごくさっぱりしてる」

二人が作ったアイスはバニラやチョコアイスなどでは無く、果汁などを用いたシャーベットであった。
バニラやチョコも美味しいがさっぱり頂きたい気分だったのだ。

「うんうん、だよねー……おう?」

皆がアイスを楽しんでいると不意に玄関の呼び鈴がなる。
加賀はスプーンを置くと立ち上がり玄関へと向かう。

「なんだろ、荷物でも届いたかな」

そう呟きながら玄関を開けると、そこには予想通り配達員が荷物を持って立っていた。
暑い中の配達と言うのはやはりきついのだろう、配達人の額から汗がだらりと垂れていた。

「はい、じゃあ確かに受け取りました。有難うございますー」

冷やしておいた果物を手に配達人が次の配達先へと向かう。
少しだけその様子を見ていた加賀であるが、すぐに受け取った荷物を見ながら食堂へと戻っていく。

「……なんか妙に綺麗な手紙?届いたよ。えっと宛先は――」

荷物は所々装飾が施された封筒であった。
中には手紙が入っており、手紙の文面には宛先が書かれていた。
神の落とし子と。
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