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276話 「宿に足らないもの?3」

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コップが二つテーブルの上に置かれる。
加賀の瞳に似た鮮やかな橙色の液体が揺れ、爽やかな果実の香りがふわりと加賀の元へと届く。

「オレンジでいいか?」

「おーありがとー」

八木の持つコップも中身は同じだ。
店で取り扱っていたのは一種類だけだったらしい。

「んじゃさっそく……改めて見るとデカいねこれ。……長いし、手のひらより大きい」

ジュースを一口飲みコップを置くとゴソゴソと袋から串焼きを取り出す加賀。
指を大きく広げ串焼きと大きさを比べている。

長さは20cm以上で刺さっている肉もかなり大きめに切られているそれを大きく口を開け齧り付く。
少し固かったのか、それとも単に大きすぎたからか、噛み切れず結局一塊を丸ごと口に入れてしまう。

「ちょっと買いすぎたなあ……あ、けっこー旨いぞこれ」

加賀には噛み切れなかったそれも八木に取っては難なく噛み切ることが出来る物であった。
一噛み二噛みし、おっと言う表情を浮かべる八木。どうやら好みの味付けであったらしい。

「…………ん、味付けしっかりしてるね……ん、これ心臓かな?」

加賀は塊肉を何とか飲み込むと次に取り掛かろうとして、ふと手を止め串焼きをしげしげと眺める。
最初の肉と違った形をしたそれはどうも心臓である様だ。

「こっちレバーだ。一串に色んな肉使ってんのな」

八木の串焼きにはレバーが刺さっていた。
一串に様々な種類のお肉がランダムで刺さっている様である。
八木も加賀も内臓肉は嫌いではないのでどんどん食べ進めていくが……

「お腹一杯になってきちゃった……」

「おま、それまだ2本目……」

加賀には少々ボリュームがありすぎた。
2本目を食べた辺りで大分お腹が膨れてきてしまったらしい。

「あと1本は食べられるー」

「おう、がんばれ」

加賀の言葉に軽く手を振り答える八木。
残りの量からいって食い切ることは問題ないがそれよりも飽きが来るのが問題である。
そうなる前に食い切ろうと食べるペースを上げるのであった。


「そういやさー何買いにいくのん?」

んぎぎっと肉を何とか噛み切り飲み込むと八木に今日の目的を尋ねる加賀。
買い物に行くとは聞いていたが肝心の目的をまだ聞いていなかったのだ。

「ん……楽器だよ楽器」

「っへー、売ってるお店なんてあったんだ?」

昨日ヒューゴらの話を聞いて、八木は楽器を買いに行くことにしたようだ。
日頃何だかんだで世話になっているのでその礼も兼ねているのかも知れない。

「あるらしいぞ。つっても俺も今日初めて聞いたんだけどな」

「ほーん。皆喜びそーだね」

楽器を取り扱っている店の情報の出所はモヒカン達であった様だ。
午前中に事務所で話を聞いて午後は休むことにしたのだろう。

「んだな……この香辛料聞いた串焼きも良いけど、やっぱ醤油だれの焼き鳥も食いたいなあ……」

「いいよ、今度作ろうか。何なら今日でも良いし」

「ありがてえ、夜の楽しみが増えたぜ」

屋台の串焼きは最近街で広まりつつある香辛料を使ったスパイシーな物であった。
それはそれで勿論美味しい。だが八木としてはあの甘辛い味付けの方が好みであるようだ。
加賀に焼き鳥を作って貰う約束を取り付けた八木は楽しみが増えたと笑みを浮かべた。


「食い過ぎたかな……っと、確かここ曲がって2つの角を右に曲がるんだったかな」

「ん……メインストリートじゃないのね」

腹をさすりながら歩く八木と後ろをトコトコ着いていく加賀。
家が途切れ曲がり角が見えたところで八木が足を止め立ち止まる。
楽器を取り扱う店があるのはメインストリートから外れた裏路地の様である。
二人が2年近くこの街に住んでいてその存在に気が付かなかったのはその為だろう。
裏路地は危険。そう考え近寄ることはなかったのだ。

「ああ、だから今まで気付かなかったんだろうな……そんな訳でデーモンさん頼んます。危険そうかどうか見てきて貰って良いですか?」

だが今は街に来たときとは状況が違う。
今もデーモンに頼み危険が無いか見てきてもらっている。
これで危険が無ければ店に、あれば時間をずらすか、二人がそれを選択するかは別として最悪危険を排除するという手もある。

「……何か聞こえた?」

「んーにゃ。何も~?」

「そっか……」

二人が選ばなくともデーモンが自分の判断でやる事もあるかも知れない。
路地裏から聞こえた何かの声、気のせいかと思い八木がポリポリと頭を掻いていると、路地裏を確認し終わったデーモンが二人の元へと戻ってくる。

「危険は無い」

「お、ありがとう御座いまっす。 んじゃ行こうか」

「おー」

デーモンの報告を受けて腹をさする八木の手をぐいぐいと引っ張り路地裏へと向かう加賀。
危険が無かったのか、それとも無くなったのか、それはデーモンにしか分からない。
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