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294話 「そう言えばそんな時期8」

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うー(ごはーん)

「ん? あれ、うーちゃんだいつの間に来たんだろ」

固まる加賀の前に現れた巨大な陰、それはうーちゃんであった。
鳴き声に振り返ったシェイラが一体いつの間に来たのだろうかと不思議そうに首を傾げる。

「急に目の前に……えーと、お腹空いたのかな? あ、ちょっ、なになに?」

再起動した加賀であったが、その手をうーちゃんが取るとぐいふいとどこかへと引っ張って行こうとする。

「あー、置いてかないでってばー」

どこかに行こうとする二人をシェイラが慌てた様子で後を追う。
向かった先はバクスの店であった。

「む、きたか」

うーちゃんに手を引かれて来た加賀と後ろからついてきたシェイラを見てバクスが軽く手を上げる。

「あっれ、皆集まってどうしたの?」

キョロキョロと周りを見る加賀。
そこにはバクスや咲耶だけでは無くアイネやゴートン、さらには探索者の面々が集まっていた。

「どうしたも何もアイネさんが飯用意してくれたって聞いてさ、食いそびれる訳にゃいかんだろ?」

その言葉を聞いてアイネの方へ視線を向ける加賀。
アイネは巨大な寸同鍋を抱えてバクスの店へと入って行くところであった。
どうやら温め直すつもりらしい。

「加賀、悪いのだけど少し手伝って貰って良い?」

「ほいさ」

料理はアイネが一人で仕込んでいたものだ。
そのままではアイネやうーちゃんは食べられない、なので加賀が少し手伝う必要がある。
加賀はお玉を手に鍋の蓋をあけると中を覗き込んだ。

「おー良い匂い。ワイン煮込みかな?」

「正解、ゴートンにワインを分けて貰ったから作ってみたの……おそらく美味しく出来ているとは思う」

アイネの言葉にふんふんと頷きながら加賀は鍋の中身を軽くかき回す。
そして小皿を手に取り、少しだけ鍋の中身を味見してみる。

「ん……おいし」

「よかった」

味はもちろん美味しかったようだ。
加賀の国顔に笑みが浮かび、釣られるようにアイネの顔にも笑みが浮かぶ。

「ひょー、見ろよこれすっげえ具沢山。うまそー」

「これ絶対うまいやつっすよ!」

皿を嬉しそうに受け取ると、すぐさま席に戻り食べ始める探索者達。その皿にはたっぷりとワイン煮込みが盛られているが彼らの食べるペースを見るにすぐ空になる事だろう。
大体皆に配り終わった当たりで、新たに鍋の方へと近寄る者達が居た。

「おーやっとるやっとる。加賀、まだ料理余ってる?」

店の片付けもあって、若干出遅れた八木達であった。
店を出していた者は皆来たのだろうか、八木をはじめとしてエルザやモヒカン達の姿もある。

「お、まだあるよーん。アイネさんいっぱい作ってくれたんだよ」

「それじゃ、俺らも貰おうかな」

「ほいほい、ちょっと待ってねー」

八木達にも料理を提供し終えたところで、ようやく加賀達も席に着き食事を始める事が出来た。
お代わりを貰いに来る者は大勢いるが、それらに対応していては何時まで経っても食べられない、と言うことで各自が自由にお代わりする様にしたらしい。

「うん、ばっちり出来てるね」

「うん……かなり上手くいったみたい」

先ほど少しだけ味見はしたので分かってはいたが、やはりかなりできは良いらしい。
メインの牛肉はホロホロと口の中でほどけ、ゴロリと大きめに切られた野菜も柔らかくなるまでしっかり煮込まれており、ソースの旨味がたっぷりと染みた野菜はそれだけでも十分メインを張れそうな程に美味しかった。

「……加賀は」

「う?」

加賀が夢中になってスプーンを皿と口との間で往復していると、不意にアイネが加賀へ言葉を投げかける。

「祭りは最後まで参加する?」

「そーだね、一応そのつもりだよ。確かもうちょっとしたらイベント始まるんだよね?」

「去年と同じならそうね」

日はとうに落ちており、あたりは外灯や夜店の灯りに満ちている。
このまま少し待てば祭りのメインイベントが始まるが、加賀自身は去年しっかり見ていた訳では無く、うろ覚えである様だ。

「何かあったのー?」

「ん、もっと料理用意しておけば良かったかなって……多分足らないよね」

「確かにすぐ無くなっちゃうかも……その時は周りのお店で何か買う? たまにはそう言うのも良いと思うよー」

アイネは料理が足らなさそうである事を気にしていたようだ。
ちらりと加賀が鍋の方へと視線を向けるとそこにはお代わりをしようと探索者達が群がっていた。いかに巨大な寸同鍋とはいえあれではすぐに無くなってしまうだろう。

「そうね、今日ぐらいは……うん、そうしましょう」

だが、今日は祭りである。
加賀の言うとおり周りには食べ物を扱っている店が大量にある。
少し戸惑っていたアイネであったが、たまには良いかと加賀に同意するのであった。


「あー……もうお肉がほとんどにゃい」

探索者の群れが鍋のそばから無くなったのに気が付いた加賀が鍋の中身を覗きに行く。
予想通り鍋の中身はほとんど空になっており、お肉は勿論の事、野菜の欠片すら無い状態であった。
探索者の群れは鍋の中身をソースを残して根こそぎさらっていったのである。

「もう?」

軽くショックを受けた様子でアイネも鍋のそばへと近付いていく。

「うん、ほとんどソースだねー……ってこのソース勿体ないよね。……パスタに合わせたら美味しいと思うんだけど、どうかな?」

「良いと思う、ちょっと足らなかったし……」

余ったソースでパスタを作る事を提案する加賀とそれに同意するアイネ。
どうやら彼女はお代わりしようと思っていたらしい……タイミングが遅れ、もうソースしか残っていないが。

「具もちょっと追加する? キノコとかお野菜……」

ソースだけでも美味しいだろうが、さすがにそれだけでは少々寂しい気もする。

う(ん)

「むぎゅ……うーちゃん何するの……ってこれパスタに食材……」

そんな事を考えていた加賀の横顔にうーちゃんがぐいっと何かを押しつけた。
それは容器にたっぷり入ったパスタ。それに籠に山盛りになったキノコをはじめとする食材達であった。

うー(とってきたぞいー)

「とってきた……盗って……取ってきただよね? ありがと、すぐ作っちゃうねー」

いつの間にとってきたのだろうか、大量の食材を目の前にして不安そうな表情を浮かべる加賀。キノコ等はともかくパスタは一体どこからとってきたと言うのだろうか?
だが、すぐに考えるのをやめ、調理を始めるのであった。

「んー……大皿で取り分けて食べればいっか」

3人分となれば結構な量になる。
はじめから皿に取り分けようかと考えた加賀であったが、大皿で出して後は好きな量を各自で取れば良いかと思い直す。

「おまったせー、適当に取って食べてねー」

うー(やまもりー)

大皿の良い点は見た目のインパクトがでかい事である。
大量のパスタを前にしてはしゃぐうーちゃんを微笑ましそうに眺める加賀。

「おいしい……」

「うん、思ってたとおり合うね」

うー(うまし)

ただでさえ美味しいソースにキノコ等の旨味が加わり、パスタは絶品と言って良い出来栄えであった。
それほどお腹の空いていなかった加賀ですらどんどん食べ進めていく。

「……3人とも美味しそうなの食べてる。ずるい」

3人がパスタを食べているのを目ざとく見つけたシェイラがひょこっと顔を出す。

「ソース勿体なかったから作ってみたんだー。ほい」

「ありがとー! ……うまっ」

しっかり皿を持ってきたシェイラにパスタをおすそ分けする加賀。
その様子を見た探索者達が俺も俺もと集まってくるが、

「おっ、何美味そうなもん食ってんだーってもう無いじゃねーかっ」

シェイラの分で最後だったらしく、皿はもう空出会った。


「こぼさないようにねー?」

「おーまかせとけって」

探索者達全員分を作るのは大変、と言うことで何人かに作り方を教えることにしたらしい。
とはいってもパスタを茹でてソースと絡めるぐらいではあるが。

「おほー、すげー量」

「ちゃんと皆で分けてねー?」

「わーってるって」

崩れ落ちるんじゃないかと不安になる程大盛りのパスタ。
それを上機嫌で席へと運んで行く探索者達。
作り方は非常に簡単なので一度一緒に作れば後は各自で好きに作って食べる事だろう。
加賀は自分達も様のパスタを手に席へと戻って行く。


「ぷぅ……お腹一杯」

「加賀、これお願いしても良い?」

うー(これもー)

ぽこりと膨らんだお腹をさする加賀にすっと料理が乗った皿を差し出すアイネとうーちゃん。
加賀と違って二人はまだまだ食べられる様である。
差し出されたお皿のふちにケチャップを乗せたり、胡椒を少し掛けたりする加賀。これだけで料理した判定となり二人が食べられる様になるのだ。恐ろしくガバガバな判定であるが、厳しいよりは良いだろう。

「……お芋美味しいね」

「シンプルだけど美味しいよねー」

揚げたての芋をハフハフとつまむアイネ。
それを眺めてニコニコしていた加賀の元にフラフラとした足取りで酔っ払いが近付いていた。

「なーなー加賀ちゃんよー」

「わあ、酔っ払いめんどくさそう……どしたの?」

べろべろになったヒューゴを見て毒を吐く加賀。一方の毒を吐かれたヒューゴはひでぇっとケラケラと楽しそうに笑っている。

「せっかくの祭りなんだし、また何か歌ってよー」

「えぇ……こんな大勢の目がある所で? てか楽器も無いのに……」

「楽器ならあるぞっ」

歌ってというヒューゴに楽器がないと渋る加賀であったが、元々歌って貰おうと考えていたのだろう、ヒューゴはしっかり楽器を用意していたのであった。

「……むぅ、しょうがないにゃあ。八木も呼んで貰って良いー?」

「おっ? いいの? よっしゃ、呼んでくらー」

少し悩む素振りを見せた加賀であったが。ヒューゴのお願いを承諾する事にしたようだ。せっかくの祭りなんだからという思いもあったのかも知れない。
ただ自分一人だけで歌うとなると中々大変である。なので八木に応援を頼むつもりらしい。
加賀の言葉を受けたヒューゴはフラフラしながらも八木のいる方角へと歩いて行く。
デーモンにという手もあるが、宿の中は別としてこの人混みの中デーモンを呼び出すのはさすがに不味い、と言うわけでさすがにそれはやめた様だ。
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