異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう

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299話 「ダンジョンと温泉と3」

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「おぉ、温泉の匂い」

思ったより時間を掛けることもなく、一行はダンジョン入り口での受付を済ませていた。
そして入り口を潜れば当然ではあるが、ふわっと温泉の匂いが感じられる。だが硫黄臭はそこまできつくは無い様だ。

「さて、どの宿にしましょうか」

そう言ってペラペラと冊子をめくるアルヴィン。
温泉のページばかり見て、どういった宿があるかまでは見ていなかったらしい。

「先ほど少し話を聞きましたが、今のところ全ての宿に空きがあるそうですよ。なので一度見て回ってから決めますか?」

受付をした際にしっかり情報を得ていたチェスター。
その辺しっかりしていたりする。

「せっかくだしいい部屋に泊まろうぜー!」

「無料だし先に取られてるんじゃなーい?」

「あ……まじか!」

どうせなら良い部屋に泊まろうと提案するヒューゴ。
周りの者もそれに同意するよう相槌を打っていたが、シェイラから突っ込みが入る。

「あーいや、いい部屋は無料じゃねーみたいすね。割引にはなるみたいですけど……」

「なんだそりゃ。 まあ良い部屋残ってそうだし別にいいけどさ」

冊子を眺めながら良い部屋に関しては無料でない事を皆に伝える八木。
それを聞いて何とも言えない表情を一同は見せていた。
確かに良い部屋は家具なども上等な物を使っているだろうし、それを無料と言うのはさすがに出来なかったのだろう。
その分、泊まれる人が限られてくるので良い部屋が残っていそうではあるのだが……無料と聞いてはいたので少し肩透かしを食らった気分なのだ。

「良いからはよ行くぞい。いい加減馬車の中以外でゆっくりしたいんじゃ」

「へいへい。んじゃ行くかねー」

ぞろぞろと連れ立って一同は道を行く。
馬車も快適ではありが、それはあくまで馬車としてはである。
早いとこ温泉に入ってゆっくりしたいのが正直な所なのだ。

「……やっとこいつで最後か」

入り口から道の突き当たりまで宿を確認しながら十分ほど掛けて歩いた彼らはやっとか、といった表情を浮かべている。

「全部で何軒あった?」

「20はあったかと……」

ダンジョン内にあった宿の数はかなりのものであった。
ダンジョン目当ての探索者や、温泉や買い物目当ての観光客用にと大きさもかなりある。

「入り口から端まで結構な距離あったよな……これ温泉やべえぐらい広いぞ」

冊子を見ながらそう話すヒューゴ。
冊子に画かれたフロアの見取り図は丸を二つ棒で繋いだような形状をしている。その棒に当たる部分が今彼らが歩いてきた道の部分であり、棒よりもずっと面積の大きい温泉部分がどれだけ広いのか、想像すると広すぎて笑える程である。

「早く入りたいねー」

「それで、どの宿にするんですか?」

「おう、そうだな……あの一番高い建物ので良いんじゃね? 4階がかなり広い部屋みたいだぞ」

「じゃあそこにしましょうか……」

結局彼らが選んだのは道の真ん中ほどに位置する4階建ての宿であった。建物も立派で調度品も良い物を揃えているようで、その分お値段は高めである。その為良い部屋であればまだまだ空きがあり、且つ他と比べて部屋も広いと言うのが選んだ理由である。


「わー、ひろーい」

部屋に入るなり感嘆の声を上げる加賀。
実際に部屋は相当広かった。
最初に皆で入った大部屋などはその気になれば30人以上いる一同が寝られる程である。

「大部屋が1つに、中部屋2つの小部屋が8つね。……部屋でも飲むつもりの奴は大部屋飲んでそのまま雑魚寝な。それ以外は……ま、早い者勝ちか」

さらには大部屋の半分ほどの中部屋が2つに、小部屋……とは言ってもこれのそれなりに広いが、それが8つもあった。

「おー、うーちゃんどの部屋いいか見にいこっ」

うー(べっどでかいのがいい)

早い者勝ちと聞いて、加賀とうーちゃんが荷物を置いて駆け出す。
うーちゃんは体がでかいので、普通サイズのベッドだとちょっと……いやかなり狭いのである。

「……小部屋はこれ一人用か……いや、もう一人寝られるか?」

「そっすね、中部屋は中でさらにいくつか分かれてまして、確か5~6人寝られますよ」

「全員余裕で寝られるな、さすが4階全部借り切っただけはある……バルコニーまでついているのか」

一通り部屋を見終わり、一同は再び大部屋へと集まっていた。
そこで酒を飲み明かす予定の者以外はそれぞれ部屋を割りふっていた。

「部屋割りは決まったか?」

一人でゆっくり休みたいものは小部屋にそうでも無い者は中部屋に。部屋割りが決まったかと尋ねるバクスに皆は頷き返す。割り振りに時間はさほど掛からなかった。

「決まりましたぜ。んじゃさっそく温泉に……」

「……皆、ちょっと待った!」

「なんじゃい、早速行こうと思ったんに」

部屋割りも決まったところで早速温泉に入ろう、そう思い移動しようとした矢先にヒューゴが待ったを掛けた。
一体なんだと不満そうな視線を皆から受けるヒューゴであるが、何時になく真面目な表情をうかべ、口を開いた。

「加賀ちゃん……どっち入るんだ?」

ざわりと皆に動揺が走る。
ここはバクスの宿ではない、女湯に入るのは論外だが、男湯も不味い気しかしない。
だが皆に動揺が走る中、加賀は何でもないようにカバンをゴソゴソと漁り、あるものを取り出した。

「男湯だよ。これあるし」

「……なるほど、いや焦ったわ本当……」

加賀は何時ぞやの猫の獣人に魔道具を持ってきていたのだ。
それを見て皆もほっとした様子を見せる。

「おし、じゃあ荷物置いて行こうぜー」

にゃがー(まってぇ~)

ようやく温泉へと向かう事になった一同であるが、早く入りたいという気持ちから自然と進むのが早くなってしまう。
そうなると体長1m以下にまで縮んだ加賀はついていくのもやっとと言った様子で必死に後を追いかけて行く。

「……猫なのに足遅いなあ……しゃあねえ、よっと」

フーッ(高いー!)

見かねたヒューゴが加賀を担ぎ上げるが、その高さに驚いた加賀からげしげしと蹴りが入る。

「高いところ苦手なんだ……?」

「自分の身長より高い訳ですし、しょうがないかと思います……しかしあの男はなんで蹴られて嬉しそうにしているんですかね」

「……さあ」

人の感覚で言うと2階ぐらいの高さまで急に持ち上げられた様なものであろうか。
加賀が驚いて蹴りを入れるのもしょうがないだろう。だが、蹴られた当の本人はまったく気にした様子がない……と言うより嬉しそうにしていたりする。
加賀が降りられるのは温泉についてからになりそうだ。
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