異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう

文字の大きさ
5 / 332

4話 「街道? 後」

しおりを挟む
「なんか聞こえたような……って街道があるぞ!」

逃走を再開してから間もなく、二人は街へと続く街道へと出ていた。
馬車が通る為だろう道幅はそれなりにある、道を挟んだ反対側は草原となだらかな丘が広がっていた。
都会暮らしだった二人にはとても新鮮な風景で一瞬だけ目を奪われてしまう。
が、すぐに追われていた事を思い出し八木は再び駆けだした。


「加賀、もしかすっとまだ来るかも知れねえ、後ろみといてくれ」

「わかった」

八木は魔法が直撃したのを見たわけではないが、かなりの爆発音と衝撃があったことから倒すまではいかなくともそれなりに深手を負っていて動けないのでは、と考えていた。
だがしかしそれは甘い考えだったようだ。

八木たちが逃げ出してから間もなくの事、魔法で発生した水蒸気は徐々に晴れ……完全に晴れたときそこにはしっかりと4本の脚で立つ猪の姿があった。
魔法のダメージだろう、背中は切り裂かれ血が溢れている。毛皮の一部は焼け焦げたり凍りついている。
その見た目からはどれだけダメージが入っているかは分からないが、確かなのは猪の怒りを買いまくったということだろう。
その目は血走り怒りに爛々と燃え盛っている。
猪は怒りの咆哮を上げると再び二人を追って駆けだした。


「なーんか聞こえたような……いやな予感しかしない。」

相変わらず八木に担がれたままの加賀であったが、言われたとおり後ろをみていると遠くから地響きのようなおとがきこえてきた
嫌な予感がしつつも耳をすませてるとその音は徐々に大きくなり、二人の下へと近づいているようだ。

「これってもしかしてもしかしなくても……ほわぁ!?」

加賀がつぶやいた直後、そいつは現れた。
地煙を帯びて街道に躍り出る巨大な猪、毛皮にはそれなりの量の血が付着しているがその動きには陰りは見えない、残念な事に元気いっぱいである。

「やっぱでたー!?」

「まじかよっ、こっち気づいてる!?ねえ、気づいてる!?」

「まだ気づいてなさそう…あ、こっち見た」

八木たちがいるのは見通しのよい街道上、見つからない訳が無かった。

「PGYYYYYYYYYYYYYYYY!!!!!」

猪は大きく鳴くと一気に二人に向かって突進してきた。
障害となるものが無い為だろう、その速度は先ほどとは比べものにならない。

「こっちに突っ込んできてる!……ってはや!?」

100mほどあった距離は一瞬で潰され猪は二人の目前まで一気に肉薄する。
このままじゃやられる、そう考えるや否や加賀は咄嗟に八木へ叫んだ。

「八木!横にとんで!!」

「んがっ」

加賀の声に反応し、八木は咄嗟に横へと飛んだ。
間一髪直撃は避けられたものの猪の牙が八木のズボンに引っ掛かってしまう。
猪はしめたとばかりに牙を大きく振り上げ二人を上空へ飛ばそうとするが、八木のズボンが破けた為二人は上空ではなく猪から見て斜め前方へと投げ出される事となった。
幸い飛ばされた先は草原であった。加賀はほぼ無傷のようですぐに立ち上がる、だが八木は飛ばされた際に足を痛めたのだろうか中々起き上がれないでいる。

「八木だいじょうぶ!?」

「くっそ、足が……力はいらねえ」

二人を投げ飛ばしそのままの勢いで駆けて行った猪だが、速度を落とし少し行ったところで振り返ると再び駆け出した。
向かう方向は加賀だ、一見するとガタイの良い八木の方が脅威のように見えるが、自分に少なからず傷を負わせたのはどちらなのか猪には良くわかっているようだ。

「加賀逃げろ! 狙われてる!」

「くぅっ……土の精霊さん、あの猪を止めて! 魔力全部持って行っていいから!」

どの魔法を使えば良いか、とっさに思い浮かんだのは先ほどの精霊魔法、土の杭が猪を高く打ち上げる場面だ。
必死になって土の精霊に呼びかける加賀、その呼びかけに答えるように加賀の耳元で何かがささやく。
まかせとけ、そう言ってたように加賀には聞こえた。

直後、加賀へと向かって駆けている猪の足元からまるで地面が爆発するかの様に土が噴き出した。
噴出した土は猪の全身へと纏わりついていく、慌てた猪は体を大きく震わせ土を振るい落とそうとするがそれは適わないようだ。
瞬く間に全身を土で覆われていく猪、もはや首から上が見えているだけである。

「おお……こりゃすげえな」

猪は諦めずに土を振り落とそうと暴れ続けるが徐々にその動きが鈍くなっていく
どうやら土が硬化し始めているようだ。
土が噴出してから10秒ほど立っただろうか、土は完全に硬化し猪の動きを封じることに成功していた。

「う……うぉおおお!?加賀まじナイス!!」

「……」

喜ぶ八木を対照に加賀は顔を伏せ無言のままだ、その顔は蒼白で額には汗が浮かんでいる。

「うひょぉぉおっ……って、どうした加賀?どこか痛めたのか??」

「……」

加賀へ呼びかける八木、しかし加賀はそれに答えることなく地面へと崩れ落ちた。 
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...