異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう

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29話 「幸運兎」

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加賀がこの森にリンゴをとりにきた理由。

一つはギルドに登録したことにより発生する、受注の義務を達成すること。
……義務とはいえそこまで難しいものではない、最初の1年は合計12回なんでも良いから依頼を受け達成すればそれで良い。

ウォーボアーが出るからという理由で少し放置され気味だったリンゴの収穫依頼、ここらを縄張りにしていた奴が死んでいることを知っている二人は、新たなウォーボアーが来る前にこの依頼を受けてしまう事にしたのだ。

そしてもう一つの理由、それはこちらの世界にきた初日に出会い、リンゴを渡して別れた白く小さなウサギにもう一度あうためだ。
ウォーボアーに出会ったのは予想外だったが、あのとき方向を聞いてなければ森の中をしばらく彷徨うことになったかも知れない。
もう一度あって改めてお礼を言いたい……それにあのやせ具合がどうにも気になっていたのだ。

「……」

うずくまりピクリとも動かないうーちゃんをみて、加賀に嫌な予感が走る。
木の根へと近寄るとそっと声をかける。

「う、うーちゃん……っ!?」

加賀が声をかけたその瞬間、まったく動かなかったうーちゃんが急に顔を加賀のほうに向けたかと思うと、次の瞬間には加賀の足元へと来ていたのだ。

うっ(おー! ぬしゃーあの時の!! よーやくきたかっ)

「げ、元気そうだねうーちゃん……遅れてごめん。あの時はありがとねーおかげで無事街までたどり着けたよー」

予想外に素早い動きに驚きつつもお礼をいう加賀。
うーちゃんはそれを聞くとうんうんとうなずくそぶりを見せる。

うー(そうじゃろ、そうじゃろ。もっと感謝してもええのよ?)

「んっ、じゃあ…ごはん一緒にたべる?」

うっ(リンゴ?)

「あはは、リンゴはデザートでだすねー……よいしょっと」

よほどリンゴがおいしかったのだろう、籠にはいったリンゴに目が釘付けになっているうーちゃん。
加賀はそんなうーちゃんをひょいと抱えるとバクスのもとへと歩いていく。

「それがこの前言ってたウサギか? ……幸運兎か」

「幸運兎?」

幸運兎と聞いて何かご利益ありそうですねーと笑う加賀。
バクスはそんな加賀をみて軽く頷くと口を開いた。

「ああ、そいつが住み着いた店は商売繁盛するって話だ。逆にいなくなると一気に寂れるとも聞くがな……」

「ほー……」

それを聞いて招き猫? 座敷童みたいな感じなのかな? と考える加賀。

うー(んなわけなかろう。そんな力なぞもっとらんわい)

「……」

どうやら本人?いわくそのような事はないようだ。
それを聞いて思わず微妙な顔となる加賀であった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「おう、なかなか豪勢だな」

「ふふー、結構がんばったからね!」

敷物の上に広げられた弁当箱。
加賀が結構がんばったというだけあって、そのボリュームはもちろんの事ながらさまざまな種類の料理が敷き詰められていた。

「はい、うーちゃん。アンジェもどうぞ」

うー(わたしゃ、リンゴだけでええのだが)

「あら、私にも? ……食べれるかしらねえ」

取り皿によそった料理をうーちゃんとアンジェに渡す加賀であったが、それは人が食べる料理。
うーちゃんはともかくアンジェは普段食べるものではないため困惑気味である。

「あ、もし本当にだめそうだったら言ってね? リンゴいっぱいあるし、そっち用意するからねー」

二人?を安心させるようになるべく軽い感じで話す加賀。

「せっかく用意してもらったんだし……えい」

そうつぶやきながら恐る恐るとといった感じで料理を口にするアンジェ。
馬なので非常に分かりにくいが、口にした瞬間その顔は驚きにあふれていた。

「あら…? あらあ? あらあらまあまあ」

ひょいひょいとたてがみを起用に操りつつ、次々に食事を口に運ぶアンジェ。
それをみたうーちゃんも皿にのったサンドイッチをぱくりと口にする。

うー!(うまっ!? えっ……うまっ、こっちも!)

おいしそうに食べる様子をみてにこにこ顔の加賀と、不思議そうな顔をしているバクス。
バクスは口に含んでいたオムレツを飲み込むと、加賀をみながら口を開く。

「アンジェは野菜ぐらいしか食わないはずなんだが……どういうこった?」

「ん、ボクのもらった加護の効果だと思います」

「ほう?」

加賀の言葉にぴくりと眉を動かすバクス。

「ボクが作った料理はですねー。誰でが食べても人が食べたのと同じようになるらしいです。ボクたちが食べても平気なものも種族によってはダメらしいんで、食中毒予防とか。あとアレルギーあっても平気らしいです」

あとは滋養強壮効果と、ちょっとした薬代わりになるらしいですよと続ける加賀。
それを聞いたバクスやアンジェは感心したように声をあげる。

「なるほどな、そいつは便利だなあ。アレルギー関係ないのも良いな」

「そういうこと、それで私でもおいしくいただけたのねぇ」

そういって食事を続ける一同だが、ふいにうーちゃん叫びがあたりにひびく。

うー!!(それでかあああああああ!!)

「ひょあ!?」

突然の大声に驚き思わず声をあげてしまった加賀。
バクスにアンジェも何事かとふりかえる。
そんな皆をスルーし地面をたしたしとスタンピングするうーちゃん。

うー!(通りで自分でとったリンゴがおいしくないと思ったわ!)

「ああー」

味もへったくれもあったもんじゃない、とぶりぶり怒るうーちゃん。
そんなうーちゃんを宥めつつ話を聞く加賀であるが、どうやら幸運兎は種族の特性なのか味覚を感じないそうだ。
食事も自然と体を維持する最低限度のみとなり…今のようなガリガリの体にいたる。

加賀からもらったリンゴを食べた衝撃そうは相当なものだっただろう。

「なるほどー、それでこんな痩せちゃってたのね……ほら、リンゴむいたげるね」

うっ(その一番でっかいので!)

リンゴと聞いてころっと態度の変わるうーちゃん。
それを見て、加賀は少し楽し気にリンゴをむくのであった。
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