異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう

文字の大きさ
78 / 332

77話 「お酒だめ、ぜったい」

しおりを挟む
アイネと別れてちょうど2週間が立った日の夕方、1台の馬車が宿の前に止まっていた。
夕食にはまだ早いが、食堂の中には人影があり、各々椅子に腰掛けているようだ。
一人はアイネ、残るは宿の従業員と八木である。

「無事戻れて何よりだ」

「ありがとう。会議も特にこれと言って問題は起きなかったよ。道中も特に何もないし……食事と言う楽しみが出来たから、以前よりもずっと楽しくすごせたわ」

ありがとうね、と改めて礼を述べるアイネ。
みんなの意識が自分に向いていることを確認すると軽く手を合わせ口を開く。

「それで、会議で決まった内容なのだけど……監視をつけるって話しは聞いている? ……そう、なら話は早いわね。私も監視に選ばれたの、だからこれからこの宿でお世話になるわね」

この宿で世話になると言うところでバクスがぴくりと反応する。

「監視する者もこの宿にってことか……そいつは構わんが今宿は人手が足りなくてな、あまり来られると本当に手が回らなくなってしまうぞ。全部で何人なんだ?」

そう、宿は人手が不足したままなのだ。
一時的に人が増えるぐらいならまだしも恒常的に増えるとなるといずれ加賀が倒れかねない。
アイネはそれを聞いて軽く頷くと言葉を返す。

「だいじょうぶ、宿に来るのは私一人」

「んん?」

宿に来るのが一人と聞いて思わず怪訝そうな顔をするバクス。
とりあえずは続きを聞くべく、先をうながす。

「他のものはどこか別の所から監視をするそうよ」

それぞればらばらになると言う事だろうか、それにどんな思惑があるのかは分からない。だが宿の負担が少ないならそれで良いとバクスは考え口を開く。

「そうか……まあ、会議でそう決まったのなら特に言うことはない」

「ええ、会議でお願いしたら許可が出たの。だから何も問題ないよ」

それを聞いて思わず苦笑するバクス。
ノーライフキングのお願いだ、どのようにしてお願いしたのかは分からないがそうそう断れるものでもないだろう。

「了解した。とりあえず部屋に案内しよう」

「ありがとう、お願いするね」

そして今日から一人宿の客が増える事となったのである。


とはいえ、一人増えただけではそうやる事が変わるわけでも無い。
アイネを改めて迎えた次の日の昼、宿の従業員とアイネは皆で昼食をとっているようだ。
食事を次々平らげていくアイネを見て加賀が疑問に思っていたことを口にする。

「アイネさん、質問いいです?」

「ええ、かまいません。どうぞ」

「どもです。以前は普通の人と見た目変わらなかったって言ってましたよね、ということはここで食事続けていけばそのうち元に戻るんです?」

加賀にとわれ頬に……頬骨に手をあて考えるアイネ。
やがて考えがまとまったのか手を下すと加賀に向かい口を開く。

「ええ、おそらくは、戻ると思う。魔力が少しずつだけど回復してきているから……どれぐらい掛かるかわからないけどいずれ戻れるのは確かだと思う」

「なるほどー……魔力かあ、これちょっと食べてみてもらえますー?」

「これは……?」

加賀の取り出したもの、それはこっそりと2週間かけて仕込んだフルーツケーキであった。
加賀の謎加護の効果に滋養強壮にきくと言うものがあり、魔力を込めるとその効果は増す。
2週間の間ひまを見てはうんうんと魔力を込めておいて仕込んだのがこのケーキである。

「良い匂いがするね、すごく甘い匂い」

「2週間かけて仕込んだケーキだよー、口にあうと良いんだけど……」

切り分けたケーキを皿にのせ各自の前に置く。
それが何か知っている八木と咲耶は早速とばかりにフォークを口に運んでいる。

「お、やっぱうめーな。ラム酒とかよくあったなあ」

「うん、いいお味」

それを見て自分もとフォークを持つバクスとアイネ。
うーちゃんはいつの間にか食い切っている。

「うお……酒がけっこうきついが美味いぞ。うん、いける」

「あっ……これ、すごいね」

口に含んだ瞬間酒の香りに驚き目を見開くバクス、だがすぐになれたようで次々と口に運んでいく。
そしてアイネについてだが、こちら口に含んだ瞬間、目から燐光が一瞬あふれた、魔力が一気に回復したのだろう。
それを見て加賀は満足げに頷く。

「効果あったみたいでよかった、2週間魔力こめたかいがあったよー」

「……あれ、そういう事だったのな。ケーキの前でうんうん唸って一体なにやってんのかと」

こっそり作っているつもりでも見られていたようである、八木の言葉に軽く笑うと加賀もケーキを口に含み、飲み込み。
そして一気に顔が赤くなる。

「あふぇ?」

「あ、お前酒だめだったろ。いや、でもそこまで弱くはなかったけど……」

顔が赤くなりふらふらと席を立つ加賀。
そのまま手じかにいたうーちゃんに持たれ掴みかかる。

「うーちゃんふかふかやのお」

うー(ぎゃー)

うーちゃんのお腹に顔をぐりぐりと埋める加賀。
しばらくそうしてたかと思うと、急にぱたりと動かなくなる。

「……寝てる」

「……うーちゃん、悪いがそのまま部屋まで運んでやってくれ」

うー……(ひどいめにあった)


うーちゃんに担がれ食堂を出る加賀をみて、バクスはやれやれと言った様子でため息を吐く。

「……夕飯俺が用意すんのか」

その日以降加賀には宿の一同から禁酒令が言い渡されるのであった。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...