異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう

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87話 「収穫祭」

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夕食にはまだ早い時間帯。
普段であれば食事の用意をする音や時折従業員の会話が流れるだけのその空間に楽器の音色と歌声が鳴り響いていた。

「ほへー……」

「どうやって動いてるのかしらねえ」

音の発生源はダンジョンから持ち帰った例のオルゴールである。
口を半開きにして音楽に合わせ楽器を弾く人形を見つめる加賀と疑問を口にはするもののそこまで気にした様子はない咲耶。
ただ椅子に腰かけリラックスした様子から気にいってはいるようだ。

ちなみにオルゴールを持ち帰った本人らは今はそろって風呂に向かったところである。
上々な成果を得て意気揚々と風呂に向かう姿から今日はきっと宴会となるだろう、と加賀と咲耶は思う。
オルゴールをぼーっと眺めていたのもこれから来るであろう修羅場に対する現実逃避のようなものだったのかも知れない。

二人が音楽を聴き行っているとふいに玄関から呼び鈴の音が聞こえてくる。

「ん、だれか来たかな。ちょっとみてくるね」

「あら、じゃあお願いするわね」

咲耶に軽く手を振り玄関へと向かう加賀。
玄関の扉をあけた先にいたのはよく見知った顔、パン屋のオージアスであった。
オージアスは加賀に向かい手を軽く上げるとよっと声をかける。

「こんな時間に悪いね、バクスさんいるかい?」

「いえいえ。バクスさんならー……たぶん、燻製小屋にいると思いますよ」

加賀がバクスは燻製小屋にいることを伝えるオージアスは礼を言うとそちらに向かって行ってしまう。
バクスに用事とは珍しいなと思い少しの間そちらを見ていた加賀であるが、そろそろ夕食の準備を再開しないとまずいことを思い出し足早に中へと戻るのであった。


その日の夕食は予想通り修羅場であった。
明日は休む!と決めた探索者達は制限を外し好きなだけ飯を食い、浴びるように酒を飲む。
そして夕食が始まってから数時間、残っていた最後の一人が酔いつぶれ咲耶が部屋に放り込んだところでその日の仕事は山場を終える。

「命、だいじょうぶ?」

「……ん、なんとか。あのケーキ食べてなかったらだめだったかも」

ケーキとはアイネさん用のドライフルーツのパウンドケーキである。
ほぼ骨にも関わらず器用にも涙目となるアイネさんに頼み込み、一切れ食べておいたのである。
どうやら気休め程度とは言え、実感できる程度には効果があるようだ。

「そういえばバクスさん」

「うん? どうした?」

突っ伏していたテーブルから身を起こし、バクスへと声をかける。
冷蔵庫の中を確認し、燻製肉の在庫をチェックしていたバクスが振り返る。

「昼間オージアスさん尋ねに来てましたけど、何かあったんですかー?」

「ああ、もうすぐ収穫祭だから打ち合わせの日を何時にするかってんで聞きにきたんだよ」

収穫祭と聞いて首を傾げる、加賀とそれに咲耶と八木の3名。
それを見てバクスはああ、と呟くと言葉を続けた。

「お前ら来るちょっと前に終わってたからな……夏の終わりごろにちょっとした祭りをやるんだよ。祭りつってもせいぜい屋台が並んで見世物やる程度だが……今年はいつもより大規模になるかも知れないな、なにせ去年よりずっと人が多い」

「へー……そっかあ」

自分たちが来る少し前と聞いて感慨深げに相槌を打つ加賀と八木。

「もう一年たつんすね本当色々……色々……あったなあ、はは」

「バクスさん、その収穫祭でなにかするんですか?」

若干トラウマスイッチが入りそうになる八木をみて、加賀は話題を変えるようにバクスに話を振る。

「ああ、オージアスから共同で屋台やらないか?って誘われててな。どうせだから燻製肉使ったやつをだそうかと思ってる」

「なるほどー、確かにあの燻製肉なら売れるでしょうねー」

「お前も一緒にやるんだぞ?」

お祭りかーとどこか他人事だった加賀であるが、バクスの一言で思わず凍り付く。

「え゛っ……ボ、ボクは……ほら宿ありますし?」

「何言ってんだ、祭りだぞ。あいつら皆見にいって夕飯なんぞ宿で食わないだろ」

言われてみれば確かにそうだ、年の一度の祭りとあれば恐らく皆見に行くだろう。
そうなれば宿の客はほぼ居ない。アイネさんが祭りに行くかは不明であるが一人分の料理を用するぐらいであればさほど手間ではないだろう。

「せっかくだしやったらどうだ? 良い機会じゃねえか。料理広めるにはいい機会だと思うぞ」

「う……確かに」

八木の言葉にうっとなる加賀。
街の改造計画に伴い、あちこちで新築する家の設計を引き受けまくっている八木に対し。
加賀は宿の忙しさもあり、せいぜいパン屋の横で出す屋台ぐらいしか料理を広める機会がない。

「そういう事なら……やろうかな」

「おう、打ち合わせは明後日の昼過ぎだ、その時になったら声かけるからよろしくな」

二人がこの世界にきてもうすぐ1年。
少しずつではあるが本来の目的に向かい進んで行くのであった。
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