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木の中にいる
「5話」
しおりを挟む「こいつ10日近く森を彷徨ってたと言う割に元気過ぎる。 この森には食い物になるような動物は近寄らないし、木の実なんかも今は時期じゃないはずだ」
やめてくれよぉ……って思ったらそういうことかいな。
あー……うん、確かに彼の言う通りだ、普通10日近く飲まず食わずで森を彷徨っていたら無事で済むはずがない。てか死ぬ。
つーか動物いないなーと思ったら近寄らないってどゆこと?
動物が忌避する何か出てるんじゃないの、この森。
まあ、そのへんはおいおい聞けば良いから……それはともかく。
彼らの疑いを完全に晴らすにはこの体の機能を説明せねばならないだろう。
とりあえずは地面から養分やら水分を吸収できることは話して……むっきむきになって体が強化されるのは隠しておいたほうが良いと思うんだ。
この世界の情報をもっと入手して、俺のような体が珍しくはないと分かるか、他人に知られてもデメリットにならないと分かってからじゃないと話せない。
そのあたりが分からずに話してしまうのはちょっとばかしリスク高すぎな気がする。
単に水分と養分吸って膨らんでるんですーってことにしておこう。
まあ、方針決まったところで話しますかね……いつまでも待たせておくと疑いが強まりかねないし。
そんじゃ地面に手をついて……あ、もちろん刺激しないようにゆっくりとね?
「あーそれはですね。こう言うわけです」
「ぬお!? それは……根か」
「ええ、ありがたいことに水分やら養分やら吸ってくれるみたいで飢えと渇きは何とかなるんす」
手をついて水分や養分を吸おうと思えば根っこがにょきにょきと生えてくる。
まあほっといても生えてくるんですけどね。 意識すると若干生え始めがスムーズな気がする。
落ち着いたらそのあたりの事もっと調べたほうが良いだろうね、気が付いてないだけでまだ色々と出来ることがありそうな気がする。
まあそれはともかく。
地面に手をついた時は何してんだ?こいつって感じで見られたけど、根っこ生やしてからは驚きと、それにちょっと興味をひかれたようなそんな視線へと変わっていった。
この分なら疑いもはれるだろうし何とかなりそう……?
「なるほどな……? さっきの森が枯れたのは何だったんだ?」
あ、それ聞いちゃうんだー。 やっぱそうですよねー、ハハハ。
「この体まだあまり上手く制御出来ないんですよ、ちょっと油断するとあんな感じで一気に養分?吸っちゃうんです……」
……ごまかせたかな?
ゴリさんは少しの間無言で何やら考えこんでたみたいだけど、杖もった人に振り返ってどうだ? って尋ねると……ああ、やっぱまだ魔法継続してたんですね、はい。
もちろんその対策もばっちりである、ようは嘘つかなければ良いのだろう。
その証拠に杖持った人がこくりと頷き、嘘はついてないよとゴリさんに伝える。
うっし、乗り切ったろこれっ!
心の中でガッツポーズする俺。
ゴリさんは俺へと改めて視線を向けると、肩をぽんと叩き口を開く。
「まあ事情は分かった。 災難だったな」
「……生きてるだけましって思うことにします」
「それが良いだろう。 ま、生きてるうちに良い事もあるさ、元気だしてけよ」
そう言って肩をぽんぽんと叩いたゴリさんであるが、くるりと振り返るとそのままお仲間と一緒に馬車へと戻っていってしまう。
それを見た俺は大いに焦った、あわよくば連れてって行ってもらおうと思っていたのだ、ていうか逃がしてたまるか町への手掛かり。
「あ……あの」
「……なんだ?」
恐る恐る声を掛けるが、振り返ることなくそう冷たく返される。
思わず言葉に詰まるがここで挫けてしまってはこの先町に入るのは厳しくなるだろう。
この人たちと一緒であれば恐らく入るのは楽になるはずだ。 厚かましいと言うなかれ、俺だって必死なんです。
「できれば町まで連れて行って欲しいなーなんて……」
「案内することで俺たちに何かメリットがあるのか?」
「メ、メリット……」
やっぱそうなるよねぇっ! 自分で言うのもなんだけどこんな怪しい奴を好き好んで町まで連れて行くお人好しなんて早々いないだろう。
俺を連れて行くことで彼らが何か利益を得られるというのであれば、多少怪しかろうと連れて行ってくれるかも知れない、だが俺から彼らに提示出来るメリットなんてものはほとんどない。
お金もないし、知識だってこう記憶がはっきりしない状態じゃ大したものは出てこないだろう。
割と詰んでおる。
「無いならそれまでだな」
あああああ!待って!今何か考えるからっ…………俺が提示出来そうなもの、それはあれぐらいしかない……そう。
「いつか必ず恩は――」
「俺たちは依頼を終えた帰りでな。 さっさと町に戻って飲んでゆっくり休みたいんだ、正直面倒ごとをしょい込む気はない」
はい、ダメでしたー!! もう恩ぐらいしかないんだってばよー!!
話し途中でぶった切られて聞いてくれすら無かったよっ!
「……うぅ」
「……まあ、お前が野垂れ死のうが俺たちには関係ないことだが」
そう言ってゴリさんは馬車へと乗り込もうと……あれ? もうダメだと思ったらゴリさんが馬車にのる寸前でぴたりと立ち止まり、そしてこちらをちらっと振り返る。
「お前さんのことを思い出すと酒が不味くなりそうだ……付いてくるなら勝手にしろ」
「……えっ?」
こ……これはまさか?
デレた? デレたのかっ!? まさかのツンデレなのかっ!?
やばい、うれしい、異世界でもツンデレいるんだ……ゴリラだけど。
「さっさと出発するぞ、日が暮れちまう」
「何だかんだで甘いんだからー」
「うっせえ」
「あ、ありがとうございます!!」
仲間のつっこみ素っ気なく返すゴリさん。
さっき振り返った顔はもう前を向いていて見えないけど、きっと赤くなってるんでなかろうか。
とりあえず彼らについていけば街へはたどり着けるし……たぶん街にも入れるだろう。
いつか恩は返しますぞ、精神的に。
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