139 / 304
「139話」
しおりを挟む
北上の傷は癒えたと言うことで「今日は休んでおきます」と一言残し、島津は家に戻った。
島津が帰った後も隊員達、それに宇佐美副総理を除いた政府の要人はその場に残っていた。
今後のダンジョンの攻略について少し話し合いたかったのである。
「ちょっと良いかい?ああ、楽にしてくれ」
話も終わり、そろそろ解散するか……と言った辺りで不意に病室の扉がノックされ、宇佐美が中へと入ってきた。
「島津さんのカメラ壊れてたって話だったろ?アマツさんに話して映像貰ってきたんだ」
宇佐美は島津のカメラが壊れたと言うこと、アマツに話せば見られるかも知れない……と言う言葉を聞いて、アマツの元へ向かい映像を入手してきていたのである
隊員達、それに政府の要人もドラゴンの姿は一目見ておきたいと、全員で映像を見ることにした。
映像自体はほんの数分の短い物であった。
だが映像が彼らに与えたショックは相当である。
「……」
「……」
最初にブレスを防ぎ、島津の腕が落ちたところで全員が息を飲んだ……そして映像が終わるまで、全員が息をするのを忘れていた。
映像が終わり静まり返った病室の中で、思い出したように再開した皆の呼吸音がだけが響いていた。
「……とんでもねえな」
どれぐらい時間が経っただろうか、ぽつりと宇佐美が一言呟いた。
その顔は真っ青である。
「会見の際にダンジョン内での戦闘動画も流そうかと思ったが……こいつは流しちゃダメだな。ビビって誰もダンジョン潜らんくなるわ」
宇佐美が映像を入手したのはドラゴンを見ておきたいと言うのと、それ以外に会見で戦闘映像を流そうと思ったのが大きい。
ファンタジーを代表するモンスターであるドラゴンだ、そのインパクトはとんでもないものになるだろう。
だが、その映像にはドラゴンの存在を上回る様な光景があった。
傷付きながらも何とかドラゴンに致命傷を負わせた島津。
彼の目の前には、死にかけのドラゴンが居る……もはやまともに動くことは叶わないだろう。だが生きている。
島津はゆっくりとドラゴンへ近付いていき……止めを刺すかと思ったその直後、島津はドラゴンの心臓を、生きたまま食らっていた。
「アマツさんが言ってたのはこいつの事か…………一応言っておくが、最後のはカードの副作用だろう。19階層の敵……トロール?カードの効果が再生なんだが、使いすぎると副作用があるそうだ……アマツさんも「とは言えさすがにあれは想定外だったよ」と言っていたが……なるほど確かにこいつは想定外だろうよ」
宇佐美の言葉を聞いて、その場に明らかにほっとした空気が流れる。
ここに居る全員がダンジョンでモンスターとの戦闘を経験済みだ。
だがそんな彼らにとっても先程の映像はショックが大きすぎたのである。
「……なるほど」
「島津さんやばすぎっす」
「強いのは分かってたけどなあ……なんであれだけの怪我を負ってまともでいられるんだ?」
「メンタル鋼ってレベルじゃないですよ」
彼らは島津が強いこと、それに連続でモンスターと戦い続けるタフな精神力を持っている事を知ってはいたが、先程までこの場で皆と何事も無かったかのように話していた彼の姿を思い出し、身震いしていた。
「さすがは戦闘民族の子孫と言ったところか」
「あ、やはりそうなんですね……」
「いや、知らんけど」
病室に少し笑い声が上がる。
この場の雰囲気は不味そうだと考えた宇佐美が発した冗談、それに皆が少し無理して乗った感じだ。
ただその効果は十分あったりようだ。
その後は今後ドラゴンと対峙した際にどうするか、どのメーカーに装備作成を依頼するかなど、今後についての話し合いが行われていた。
だが、そんな会話には加わらず、それどころか映像を見て以降ずっと黙りきりな者がいた。
「……どうした北上?」
都丸の問いかけにはっとした表情を浮かべる北上。
その表情はやがて渋いものに変わり、ぽつりと呟くように北上の口から言葉が漏れた。
「いやー……私これ、島津くんにどうお礼したらいいのか……」
北上が考えていたのは島津についてだ。
今後潜るときの参考にと時たま見る島津の戦闘映像では、仮に初見相手だとしてもたまに手傷を負うことはあるが、そこまで苦戦する様子は見られなかった。
そのため今回も島津がまさかあんな目に遭うとは正直考えていなかったのである。
お礼はもちろんしたが……それだけじゃ足らないと、彼女は考えていた。
「あー」
「もう島津に身売りでもしたらどうだ?」
「名案っすね」
「いや、島津だっていらんだろこんなの……痛だっ!?」
うっかり口を滑らせた太田の尻に、北上のつま先がめり込む。
その様子を見て苦笑しながらも宇佐美が声をかける。
「まあ、礼については政府からきっちりするから安心しろい。隊員に負担はさせんよ」
そう言うと安心させるように笑みを浮かべる宇佐美。
だが、北上の悩みが解決するには至らなかったようである。
「……身売りかあ」
そうぽつりと呟き、ぽりぽりと頬をかく北上。
やがて大きく息を吐くと、皆の会話へと加わるのであった。
島津が帰った後も隊員達、それに宇佐美副総理を除いた政府の要人はその場に残っていた。
今後のダンジョンの攻略について少し話し合いたかったのである。
「ちょっと良いかい?ああ、楽にしてくれ」
話も終わり、そろそろ解散するか……と言った辺りで不意に病室の扉がノックされ、宇佐美が中へと入ってきた。
「島津さんのカメラ壊れてたって話だったろ?アマツさんに話して映像貰ってきたんだ」
宇佐美は島津のカメラが壊れたと言うこと、アマツに話せば見られるかも知れない……と言う言葉を聞いて、アマツの元へ向かい映像を入手してきていたのである
隊員達、それに政府の要人もドラゴンの姿は一目見ておきたいと、全員で映像を見ることにした。
映像自体はほんの数分の短い物であった。
だが映像が彼らに与えたショックは相当である。
「……」
「……」
最初にブレスを防ぎ、島津の腕が落ちたところで全員が息を飲んだ……そして映像が終わるまで、全員が息をするのを忘れていた。
映像が終わり静まり返った病室の中で、思い出したように再開した皆の呼吸音がだけが響いていた。
「……とんでもねえな」
どれぐらい時間が経っただろうか、ぽつりと宇佐美が一言呟いた。
その顔は真っ青である。
「会見の際にダンジョン内での戦闘動画も流そうかと思ったが……こいつは流しちゃダメだな。ビビって誰もダンジョン潜らんくなるわ」
宇佐美が映像を入手したのはドラゴンを見ておきたいと言うのと、それ以外に会見で戦闘映像を流そうと思ったのが大きい。
ファンタジーを代表するモンスターであるドラゴンだ、そのインパクトはとんでもないものになるだろう。
だが、その映像にはドラゴンの存在を上回る様な光景があった。
傷付きながらも何とかドラゴンに致命傷を負わせた島津。
彼の目の前には、死にかけのドラゴンが居る……もはやまともに動くことは叶わないだろう。だが生きている。
島津はゆっくりとドラゴンへ近付いていき……止めを刺すかと思ったその直後、島津はドラゴンの心臓を、生きたまま食らっていた。
「アマツさんが言ってたのはこいつの事か…………一応言っておくが、最後のはカードの副作用だろう。19階層の敵……トロール?カードの効果が再生なんだが、使いすぎると副作用があるそうだ……アマツさんも「とは言えさすがにあれは想定外だったよ」と言っていたが……なるほど確かにこいつは想定外だろうよ」
宇佐美の言葉を聞いて、その場に明らかにほっとした空気が流れる。
ここに居る全員がダンジョンでモンスターとの戦闘を経験済みだ。
だがそんな彼らにとっても先程の映像はショックが大きすぎたのである。
「……なるほど」
「島津さんやばすぎっす」
「強いのは分かってたけどなあ……なんであれだけの怪我を負ってまともでいられるんだ?」
「メンタル鋼ってレベルじゃないですよ」
彼らは島津が強いこと、それに連続でモンスターと戦い続けるタフな精神力を持っている事を知ってはいたが、先程までこの場で皆と何事も無かったかのように話していた彼の姿を思い出し、身震いしていた。
「さすがは戦闘民族の子孫と言ったところか」
「あ、やはりそうなんですね……」
「いや、知らんけど」
病室に少し笑い声が上がる。
この場の雰囲気は不味そうだと考えた宇佐美が発した冗談、それに皆が少し無理して乗った感じだ。
ただその効果は十分あったりようだ。
その後は今後ドラゴンと対峙した際にどうするか、どのメーカーに装備作成を依頼するかなど、今後についての話し合いが行われていた。
だが、そんな会話には加わらず、それどころか映像を見て以降ずっと黙りきりな者がいた。
「……どうした北上?」
都丸の問いかけにはっとした表情を浮かべる北上。
その表情はやがて渋いものに変わり、ぽつりと呟くように北上の口から言葉が漏れた。
「いやー……私これ、島津くんにどうお礼したらいいのか……」
北上が考えていたのは島津についてだ。
今後潜るときの参考にと時たま見る島津の戦闘映像では、仮に初見相手だとしてもたまに手傷を負うことはあるが、そこまで苦戦する様子は見られなかった。
そのため今回も島津がまさかあんな目に遭うとは正直考えていなかったのである。
お礼はもちろんしたが……それだけじゃ足らないと、彼女は考えていた。
「あー」
「もう島津に身売りでもしたらどうだ?」
「名案っすね」
「いや、島津だっていらんだろこんなの……痛だっ!?」
うっかり口を滑らせた太田の尻に、北上のつま先がめり込む。
その様子を見て苦笑しながらも宇佐美が声をかける。
「まあ、礼については政府からきっちりするから安心しろい。隊員に負担はさせんよ」
そう言うと安心させるように笑みを浮かべる宇佐美。
だが、北上の悩みが解決するには至らなかったようである。
「……身売りかあ」
そうぽつりと呟き、ぽりぽりと頬をかく北上。
やがて大きく息を吐くと、皆の会話へと加わるのであった。
3
あなたにおすすめの小説
異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!
枕崎 削節
ファンタジー
〔小説家になろうローファンタジーランキング日間ベストテン入り作品〕
タイトルを変更しました。旧タイトル【異世界から帰ったらなぜか魔法学院に入学。この際遠慮なく能力を発揮したろ】
3年間の異世界生活を経て日本に戻ってきた楢崎聡史と桜の兄妹。二人は生活の一部分に組み込まれてしまった冒険が忘れられなくてここ数年日本にも発生したダンジョンアタックを目論むが、年齢制限に壁に撥ね返されて入場を断られてしまう。ガックリと項垂れる二人に救いの手を差し伸べたのは魔法学院の学院長と名乗る人物。喜び勇んで入学したはいいものの、この学院長はとにかく無茶振りが過ぎる。異世界でも経験したことがないとんでもないミッションに次々と駆り出される兄妹。さらに二人を取り巻く周囲にも奇妙な縁で繋がった生徒がどんどん現れては学院での日常と冒険という非日常が繰り返されていく。大勢の学院生との交流の中ではぐくまれていく人間模様とバトルアクションをどうぞお楽しみください!
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
現実世界にダンジョンが出現したのでフライングして最強に!
おとうふ
ファンタジー
2026年、突如として世界中にダンジョンが出現した。
ダンジョン内は無尽蔵にモンスターが湧き出し、それを倒すことでレベルが上がり、ステータスが上昇するという不思議空間だった。
過去の些細な事件のトラウマを克服できないまま、不登校の引きこもりになっていた中学2年生の橘冬夜は、好奇心から自宅近くに出現したダンジョンに真っ先に足を踏み入れた。
ダンジョンとは何なのか。なぜ出現したのか。その先に何があるのか。
世界が大混乱に陥る中、何もわからないままに、冬夜はこっそりとダンジョン探索にのめり込んでいく。
やがて来る厄災の日、そんな冬夜の好奇心が多くの人の命を救うことになるのだが、それはまだ誰も知らぬことだった。
至らぬところも多いと思いますが、よろしくお願いします!
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
底辺動画主、配信を切り忘れてスライムを育成していたらバズった
椎名 富比路
ファンタジー
ダンジョンが世界じゅうに存在する世界。ダンジョン配信業が世間でさかんに行われている。
底辺冒険者であり配信者のツヨシは、あるとき弱っていたスライムを持ち帰る。
ワラビと名付けられたスライムは、元気に成長した。
だがツヨシは、うっかり配信を切り忘れて眠りについてしまう。
翌朝目覚めると、めっちゃバズっていた。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる