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「228話」
しおりを挟む「島津さん!」
「あ、はい」
俺に向かい駆け寄ると、ガシッと手を掴んで、ブンブンと振るウィリアムさん。
目が血走ってて怖い。
ただの握手なんだけど、思わず振り解きたくなったぞっ。
「我々のためにこんな……感謝しますぞ!」
「あ、はい」
そうお礼を言うと、ウィリアムさんはクルリと踵を返して、駆け出した。
たぶん他の米軍さんに伝えにいったのだろう。
あちこちから歓声が上がり始めた。
てか、口調変わってない?
うーむ……しっかしまさかここまで反応するとは思わんかったなー。
アメリカでもドラゴンみたいな……ああ、まだ出て来てないのかな。それなら納得いく。
さて……とりあえずマーシーに飛竜渡してくるか。
ストックはまだまだあるし……この際だ、いっぱい消費して貰うとしよう。
すっかり日が暮れて、BBQ広場の周囲の森は真っ暗で先を見通すことも出来ない。
ただ広場の中心は火に照らされてとても明るかった。
広場の中心でグルグルと回る串刺しの飛竜、その下で煌々と燃える炭が主な光源だ……あれ炭なのかな? 妙に明るいけど……まあ、炭ってことにしておこう。
「丸焼きって結構グロいと思うんすけどねー」
「あー、だよねえ」
牛の丸焼きとかはお祭りでちょいちょい見かけるけど、あれもよく見ると結構グロいからなー。
飛竜みたいな巨体だと、頭部とかばっちり見えちゃって……食欲なくなりそうだからあまり見ないけどさ。
俺もだけど、北上さんをはじめとして隊員さんもあまり見ないようにしてる感じがする。
ただ米軍はと言うと……。
「あの人らは大丈夫そうっすね」
「ゾンビとか大好きだもんねー」
飛竜の前でビールとか肉を片手に記念撮影とかしてる。
すっごい良い笑顔だ。
グロいの見るとテンション上がる性質なのだろうかね?
食い始めてから大体一時間ぐらいが経過しただろうか?
俺とクロと北上さんは、椅子にもたれ掛かり、ぽんぽんに膨らんだお腹を苦しそうにさすっていた。
「結構お腹きっつい……てか皆べろんべろんだな」
米軍の人らはお肉を食えるだけ食って、以降はお酒をがぶ飲みしてるね。
あれだけ肉を食ったあとに、よく入るなーと思う。
一人当たり3~4キロは食ってるんでないかな?
しかし……さっきからちょいちょい話しかけてくる人が後を絶たないのだよね。
素面で酔っ払いの相手キツイです。しかも通訳の人まで酔っぱらってるから余計めんどいぞっ。
「喫茶ルームに避難……じゃなくて休憩する?」
「そうしますか!」
北上さんも同じ気持ちだったらしい。
交流の場を抜け出すってのはあれだけど、お腹いっぱい過ぎて、どこかでちょっとゆっくりしたいってのが本音だろう。
まあ、こんだけ酔っぱらってるんだし、こっそり抜け出したって気付く人は少数だね。
さてと、クロを抱えてなるべくこっそり抜け出そう。
酔っ払いの目を盗むなぞ簡単なことよ。
あっさり抜け出した俺たちは、すぐに喫茶ルームへと向かおうとするが……。
「あっれ?」
「どしたのー?」
「喫茶ルームがない……てか他の施設もなんか……あれえ?」
なぜか喫茶ルームに行けない。
あと他の施設もなんか少ない。なんでだ??
「そういえば一部の施設は他国と共有じゃないらしいね」
「えっ、そうなんだ?」
知らんかったわ。
俺が拡張した施設みんな使ってるから、てっきりアメリカでも使えるのかと思ったら……そうか、日本限定だったのか。
個室は別枠で、あと会議とかに使う部屋もそうなのかな?
まあ、日本にいる分には気にしたもんじゃないな。
「うーん」
別に使えるようにしても良いんだけど、1週間やそこらのためになー……ちょっち勿体ないか? まあ、後々アメリカの人らが使えると考えれば、まあ。
いいかな? って考えたんだけど、俺が端末を操作する前に北上さんから提案があった。
「あーじゃあ、私の部屋でもいくー? この前の続きみよっか」
「その手があった!」
すごくいい考えだと思います! やったぜ!!
摘まむもの用意して、コーラでも飲みながら映画みよう。
この前みたの面白かったし、クロも気にいってたもんね。あれの続きってことは、シリーズの続作が最近でたよな、確か……ん?
クロをひょいと、抱えたところで休憩所に誰かきた……げ。
「あら、どこか行かれるのですか?」
エマさんだった。
後ろにはウィリアムさんの姿もある。
なんかこっちに向かって両手合わせて頭下げてるな。ごめん! ってことか。
ぐぬう。
「北上さんと映画でもみようかと思いまして……BBQはもう皆ベロンベロンに酔っぱらってるんで、ちょっと退避しておこうかなーと」
誤魔化すのも考えたけど、ボロが出そうだし本当のこと言っておこう。
北上さんと一緒ってことも忘れずになっ。
これで察して引いてくれるとありがたいが。
どうもなー、この人なー、ハニトラ要員な気がするのだよな。気のせいだったらもの凄く失礼な事考えてるけど。
ただまあ事前に色々聞かされてるんで、警戒はしないといかんのだ。
「そう……映画を見る施設なんてあったかしら?」
あれは施設と言って良いのだろうか?
「個室ですよ。私の部屋にはテレビなどもありますので、たまに一緒に見てるんです」
「なるほど」
どう言おうかなーと思ってたら、北上さんがいってくれた。
しかし……たまにかー。
「今日はこの前みた映画の続作みようって話してたんですよ。ねー?」
そう言いながら北上さんが、急に俺の腕に腕を絡めてきた。
……はっ!?
っと、急なことだったんでちょっとキョドるところだった。
うんうんと頷いておこう。
やべえ、心臓バックバクいいだしたんだけど!?
これエマ中尉に聞こえてないよな……?
てか、ここまでやったらさすがにもう引くよな……?
「……もし、良ければですが」
引……あれ?
「はい」
「私もお邪魔してもよろしいかしら? 私もお酒は余り飲まないので……あの場に残るのもちょっと憚れまして。それにせっかく日本のトップの方と交流出来る機会ですし」
ひえぇぇ……。
なんか組んだ腕からミシリという音がしたんだけど……。
「……ええ、別に構いませんよ。ちょっと部屋を片付けるので、30分後ぐらいでも良いですか?」
「ええ、ありがとう」
こわい。
なんかもう逃げ出したい。
この後、エマ中尉も一緒に映画をみるんだよね?
あの個室の空間で? 胃がやられそうだよ……勘弁しちくり。
腕を絡めた喜びなんかどこかぶっ飛んでったぞう……。
「島津くんはちょっと手伝ってねー? 島津くんの私物しまい込む訳にもいかないしー」
「あ、そ、そっすね」
ガクガクって感じで頷いたけど……私物なんて勿論置きっぱなしにはしていないです。
あと、北上さんの部屋にはほとんど行ってません。それと北上さんの部屋は別に片付けが必要なほど物があるわけでは無いです。
つまり北上さんが言ったことは嘘である。
うーん。
これがよく小説なんかに出てくる、鈍感系主人公であれば頭にハテナマーク浮かべるか、よく分からずにニコニコしているのだろうけど、あいにく俺は鈍感系主人公ではないのだ。
さっきから首筋がピリピリしてしょーがない。
これもう殺気出てるレベルなんじゃないの?
なんか、クロもむすってして不機嫌だし……。
つーか、この状態で私もご一緒していいですか? って言いだせるエマさんが凄いわ。凄いってか怖いわほんと……はあ。
まあ、クロを抱えて映画に集中して出来るだけ意識しないようにするか……続作むっちゃ面白いって話だし、たぶん大丈夫だろ。
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