家の猫がポーションとってきた。

熊ごろう

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「268話」

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道着を着て、その上に防具をつけて道場へと向かうと、俺に気付いた遥さんが声をかけてきた。

「道着似合ってるね」

「そ、そうかな?」

鏡まだ見ていないから自分では分からないんだよな。
ちょっと照れくさいけど、素直に喜んでおこう。

しっかし、足元がスースーして落ち着かないな。
そのうち慣れるだろうか。

「うんうん。……お父さん結構脳筋だから、ここでばしっといいとこ見せておけば、あとは楽勝よー」

足元を気にしていたら、遥さんの口から重要な情報が出てきたぞっ。
なるほど脳筋か……自分の父親を脳筋と言い切るのはちょっとどうかと思うけど、俺にはありがたいことだ。

「がんばってねー」

「いいところ……」

ようはばっちり戦えるところを見せれば良いってことだろうけど。
……龍化する? いや、でもそれはさすがにまずいか? 娘が彼氏連れてきたと思ったら、人外に化けましたとかちょっとお付き合いの許可が出ないかもしれんぞ。
最悪「おのれ妖の類か!? 娘は渡さん!」とかいって切り掛かってくるかもしれん。

そうなると普通に戦うしかないか……でもなあ、手加減が難しいんだよなあ。
ダンジョン外でも5%とはいえ身体能力が上がっているわけで、下手するとゴブリンみたいになってしまう。

うーん……どうすんべかな。


「……だいじょぶかなー」

「ダンジョンに潜っているとはいえ、剣道はやったことがないんだったか? 最初はうまく立ち回れないかも知れないな」

「んー、そうじゃなくて……ちょっと煽り過ぎたかも? って」

「ふむ?」



うんうんと唸りながら竹刀を取りに行く俺の後ろで、兄妹間でそんな会話がなされていたらしい。
義兄さんが気をきかせて、いきなり試合形式でやるのではなく、まずは素振りから始めることになった。
ありがたいこっちゃ。

剣道やったことないからなあ。
いちおう学生の時に授業であったけど……選択しなかったら、遠目で見ていただけだからさ、とりあえず竹刀で相手を叩けばいいぐらいしか分からん。

「竹刀の持ち方はこう。 左手で持つのが基本で、右は添えるだけ」

「こうですか?」

「そうそう。あとは打つ個所は面、小手、胴な。突きは危ないから……慣れるまではなし」

さらにありがたいことに、義兄さんが俺の稽古をみてくれるそうだ。
俺に竹刀を持たせ、横で実際に竹刀を振って見せる姿は実に堂々としたものだ。
さっきまでの幸薄そうな印象とは大違いである。

さて、とりあえず持ち方はわかったし……右は添えるだけってのがよくわからんけど、とりあえず俺も素振りを始めたのだけどね。

「ちなみに向こうでやっているのはなんでしょうか?」

道場は結構広いんだけど、どうも左右に分かれて違うことをやってるっぽい。
木刀降ってる人もいるし……お義父さんはこっちの面子を指導してるみたいだ。

「うちは古武道も教えていてね、希望者にはああやって教えているんだよ……危険だからあれも慣れるまではなし」

ほへー。
古武道か……なんかいいね! 惹かれるものがあるぞ。
ただ危ないからということで、俺が参加することはなさそうだ。

……俺自体は思いっきり木刀で殴られても、痛いですむ……というか痛いとすら感じないかもしれないけどね。
ま、とりあえず稽古を続けよう。

素振りから打ち込み……最終的には試合形式でもやるらしい。
お義父さんにいいところを見せるためにも、試合では絶対勝ちたいところだ。



その後、とくに問題なく稽古をこなしていき、今は試合形式の稽古をやっている。
相手をしてくれるのは義兄さん……ではなく、道場の門徒? 生徒? さん達だ。
段持ちの人が多い中、わりと善戦してるかなと思う。
というか、ぶっちゃけ全部スローモーションに見えるんですよ……ダンジョン恩恵はんぱない。

普通なら目視するのも大変なぐらいの速度で竹刀が向かってくるんだけど、見てから避けて反撃も出来てしまう。正直反則だと思う。

これ、ダンジョンに潜っている人は公式の試合とか出ちゃダメだろうなあ。

なにせ試合しながら盗み聞きもできちゃうぐらいだ。

「……随分余裕をもって動いとるな」

お義父さん、いつのまにかこっちの試合みにきてたんだよね。
余裕もって動いている俺を関心した様子……じゃないな、なんか半目でみてるんですけどっ。

「さすが実戦で鍛えているだけあって、体捌きは相当……ただ、それに比べて竹刀の振りに違和感が」

「普段使ってるのそこまで長い獲物じゃないし、それに竹刀とじゃ振り方ちがうじゃーん」

そうなんです!
竹刀ってなんか斬るって感じでは振らないんだよー……逆胴は別として、なんか叩くって感じ。これが中々慣れないんですわ。
身体能力で誤魔化してるけど、やっぱ見る人には分かるんだなあ。

「ふむ、ちょっとええかな」

なんて感心してたらお義父さんからストップがかかったー!?
まって、まだ頑張るから! ちょっと本気でぶっ叩くからあっ!



たんに竹刀が苦手なら木刀使えってお話でした。

道場の反対側に移動して、お義父さんと一緒にみんなが木刀振るってるのを見学してるよ。
いくつか型があって、それの練習をしているんだそうな。

結構実戦で使えそうな型もあって、みてて楽しい。
鍔迫り合いから首を押し切るのとか、結構使いやすいんじゃないかな? 今も似たようなことはやっているけど、あれは結構ごり押しだからねえ。
動きをまねしてやれば、よりスムーズに首を切れそうな気がする。

「おー……そっか、別に手首切り落とさなくても武器は落とせるか」

「落とさなくてもまともには振れなくなるだろう」

「また物騒な話してー」

あと、俺って今まで相手の攻撃手段を奪うために、手首だけを狙ったりとかしてたんだけどね。
ようは武器を叩き落せばいいんだから、別にこちらの攻撃が相手の武器にあたってもいい、相手の腕ごと武器を叩き落すように振ればいいと7気が付いた。

手首は防具で守られてることも多いから、狙うならなるべく指かなあ? ああでもピンポイントで狙うのは難しいだろうから、あたればラッキーぐらいの気持ちで振るとしよう。


稽古のほうだけど、型が終わり次は試合形式の稽古になった……さすがに木刀のままやると死人が出るので、木刀は竹刀に変えて防具もつけるようだ。

引き続き見学していたけど、こっちはこっちで迫力があってみていて面白い。
竹刀を全力で振るってるもんで、かなり重い音が響いてる。
ダンジョンに潜る為に練習している人が多いらしく、相手に致命傷を負わせるようにあてる時は振り切るようにしてるとかなんとか。
こっちなら俺でも普通にやれそうだなあ。


それがフラグだったのか、それとも最初からそのつもりだったのか……お義父さんが試合をみていた視線を俺へと向け、口を開く。

「さて、せっかくだ康平くんもやっていくと良い。なに、防具もあるし全力で振っても構わんよ。使うのも竹刀だ」

「それは……」

全力はさすがに不味いんじゃないだろうか。
防具の上からでも死にそうな気がする……でもお義父さんすっごい楽しそうにニコニコしてるんだよなあ。
俺もいいところを見せたいし、出来れば参加したいけど……手加減したらバレるよな。どうするか。

「婿殿の本気を見てみたいものだのう」

「やります!!」

やってやろうじゃん!!
婿殿とかそこまでいわれたらやらない訳にはいかないよねっ。

よっしゃ、全員ボッコボコのボコにしてやんよ。
死ぬんじゃないかって? ダンジョン潜ってる人も居るんだし、多少強化されてるからへーきへーき。


「お父さん、島津くんが本気出したらさすがに……」

「まずいか?」

なんて俺が竹刀もってハッスルしてたら、遥さんがすっごい心配そうにお義父さんに声をかけた。

「防具あっても普通の人は死ぬと思う」

「む……」

おう、誰だよへーきへーきとかいってたの。
俺だよ。ちょうし乗ってすみませんでしたあ!

そうなるとやっぱどうにか手加減してやるしかないなあ。
お義父さんはちょっち不満そうだけど我慢して貰うしかない……。


と、俺もお義父さんも半ば諦めていた時であった。

「俺が相手しましょうか?」

チャレンジャー現る。

お義父さんと遥さんの会話を聞いてたらしい。
てか誰だこいつ。

「ダンジョンの深層で鍛えてるんで、ちょっとやそっとじゃ怪我なんてしませんよ?」

そういってニィって感じの笑みを遥さんに向ける男。
よっしゃ殺そう。
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