23 / 29
Ⅲ
発表
しおりを挟む
さて、そんなことはありましたが、時間になると参加者は広間に集まり式典は粛々と始まります。
王宮で一番広い大広間に貴族やその一族、さらには軍人や役人の上位の者たちが所せましと集まっている光景は壮観です。
最初に陛下の側近が開会の挨拶を述べ、現在王国を動かしているような大貴族たちが次々と登壇しては挨拶を述べていき、最後に陛下が登壇します。
私はこれまで国王陛下を直にみたことはありませんでしたが、私が想像していた威風堂々とした外見ではなく、まだ三十前なのに苦労人のような姿を印象を受けました。ここ十年、王国に様々なことがあったせいでしょう。
そんな彼がここ十年の感謝や苦労を述べましたが、ここまでは言うなれば社交辞令であり、話の中身自体は特に意味のないものばかりです。
そして陛下の言葉が終わると、進行を務めていた陛下の側近が告げます。
「それでは次に、陛下から即位十周年を記念して、特別王家や王国に功があった家や人物への行賞を行います」
その言葉に広間はざわめきます。
特にこの十年で何か功績があったと思う方々は皆自分が恩賞をもらえるのではないかと期待している様子が見えました。
そして壇上の陛下が名前を呼び、呼ばれた貴族は嬉しそうに壇上へ上がっていきます。そして陛下はどのような功績があったのかを告げ、賞金や領地、爵位などを与えていきました。そのたびに拍手が起こり、祝賀や嫉妬の声が周囲から洩れます。
そしてそんな行賞も終わりに近づいたころです。
「……それでは最後になるが、アーノルド男爵」
「はいっ!」
突然名前を呼ばれたにも関わらず、男爵はよく通る声で返事して立ち上がります。
それまで名前が挙がっていた人物はもっと有名な、高位の貴族家が多かったため、周囲からは大きなどよめきが上がります。
が、そんな中を男爵は堂々と壇上へ歩いていきました。
男爵が陛下の前まで来ると、陛下は賞状を手渡しながら言います。
「そなたはわしが即位するとき、財政が苦しい中即位式の費用を献上した。王家が苦しい時に忠義を示すのは誠の忠臣である。そのため、その功績を称えてウェーバー港の行政官に任じよう」
陛下の言葉に周囲から、特に隣にいるブラッドや男爵夫人から大きなどよめきが漏れます。
ウェーバー港というのはここアークライト王国随一の貿易港であり、他国との交易船がひっきりなしに出入りして賑わっている港です。
基本的に行政官は税収から一定の割合を給与としてもらい受けることになりますが、ウェーバー港の行政官であればかなりの収入になるでしょう。
行政官自体はあまり高位の貴族が就く役職ではなく、またその土地自体が与えられる訳ではないので爵位や土地の授与に比べて恩賞としてのランクは低いです。陛下なりに露骨な贔屓にならないようにしつつ男爵の恩に報いる方法を考えたのでしょう。
「まことにありがとうございます」
そう言って男爵は頭を下げます。
そして大事そうに賞状を抱えて戻って来た男爵はとても晴れ晴れとした表情をしていました。
「良かった、これでようやく我が家は貧乏貴族を脱することが出来る」
「おめでとうございます、父上」
「あの時のあなたの行為は無駄ではなかったのね、あなた」
「ああ、ようやく十年の我慢が報われたのだ」
ブラッドと夫人も感極まって涙ぐんでいます。
こうして、式典は我が家にとって思わぬ吉事があって終わったのでした。
王宮で一番広い大広間に貴族やその一族、さらには軍人や役人の上位の者たちが所せましと集まっている光景は壮観です。
最初に陛下の側近が開会の挨拶を述べ、現在王国を動かしているような大貴族たちが次々と登壇しては挨拶を述べていき、最後に陛下が登壇します。
私はこれまで国王陛下を直にみたことはありませんでしたが、私が想像していた威風堂々とした外見ではなく、まだ三十前なのに苦労人のような姿を印象を受けました。ここ十年、王国に様々なことがあったせいでしょう。
そんな彼がここ十年の感謝や苦労を述べましたが、ここまでは言うなれば社交辞令であり、話の中身自体は特に意味のないものばかりです。
そして陛下の言葉が終わると、進行を務めていた陛下の側近が告げます。
「それでは次に、陛下から即位十周年を記念して、特別王家や王国に功があった家や人物への行賞を行います」
その言葉に広間はざわめきます。
特にこの十年で何か功績があったと思う方々は皆自分が恩賞をもらえるのではないかと期待している様子が見えました。
そして壇上の陛下が名前を呼び、呼ばれた貴族は嬉しそうに壇上へ上がっていきます。そして陛下はどのような功績があったのかを告げ、賞金や領地、爵位などを与えていきました。そのたびに拍手が起こり、祝賀や嫉妬の声が周囲から洩れます。
そしてそんな行賞も終わりに近づいたころです。
「……それでは最後になるが、アーノルド男爵」
「はいっ!」
突然名前を呼ばれたにも関わらず、男爵はよく通る声で返事して立ち上がります。
それまで名前が挙がっていた人物はもっと有名な、高位の貴族家が多かったため、周囲からは大きなどよめきが上がります。
が、そんな中を男爵は堂々と壇上へ歩いていきました。
男爵が陛下の前まで来ると、陛下は賞状を手渡しながら言います。
「そなたはわしが即位するとき、財政が苦しい中即位式の費用を献上した。王家が苦しい時に忠義を示すのは誠の忠臣である。そのため、その功績を称えてウェーバー港の行政官に任じよう」
陛下の言葉に周囲から、特に隣にいるブラッドや男爵夫人から大きなどよめきが漏れます。
ウェーバー港というのはここアークライト王国随一の貿易港であり、他国との交易船がひっきりなしに出入りして賑わっている港です。
基本的に行政官は税収から一定の割合を給与としてもらい受けることになりますが、ウェーバー港の行政官であればかなりの収入になるでしょう。
行政官自体はあまり高位の貴族が就く役職ではなく、またその土地自体が与えられる訳ではないので爵位や土地の授与に比べて恩賞としてのランクは低いです。陛下なりに露骨な贔屓にならないようにしつつ男爵の恩に報いる方法を考えたのでしょう。
「まことにありがとうございます」
そう言って男爵は頭を下げます。
そして大事そうに賞状を抱えて戻って来た男爵はとても晴れ晴れとした表情をしていました。
「良かった、これでようやく我が家は貧乏貴族を脱することが出来る」
「おめでとうございます、父上」
「あの時のあなたの行為は無駄ではなかったのね、あなた」
「ああ、ようやく十年の我慢が報われたのだ」
ブラッドと夫人も感極まって涙ぐんでいます。
こうして、式典は我が家にとって思わぬ吉事があって終わったのでした。
180
あなたにおすすめの小説
厄介者扱いされ隣国に人質に出されたけど、冷血王子に溺愛された
今川幸乃
恋愛
オールディス王国の王女ヘレンは幼いころから家族に疎まれて育った。
オールディス王国が隣国スタンレット王国に戦争で敗北すると、国王や王妃ら家族はこれ幸いとばかりにヘレンを隣国の人質に送ることに決める。
しかも隣国の王子マイルズは”冷血王子”と呼ばれ、数々の恐ろしい噂が流れる人物であった。
恐怖と不安にさいなまれながら隣国に赴いたヘレンだが、
「ようやく君を手に入れることが出来たよ、ヘレン」
「え?」
マイルズの反応はヘレンの予想とは全く違うものであった。
【完】嫁き遅れの伯爵令嬢は逃げられ公爵に熱愛される
えとう蜜夏
恋愛
リリエラは母を亡くし弟の養育や領地の執務の手伝いをしていて貴族令嬢としての適齢期をやや逃してしまっていた。ところが弟の成人と婚約を機に家を追い出されることになり、住み込みの働き口を探していたところ教会のシスターから公爵との契約婚を勧められた。
お相手は公爵家当主となったばかりで、さらに彼は婚約者に立て続けに逃げられるといういわくつきの物件だったのだ。
少し辛辣なところがあるもののお人好しでお節介なリリエラに公爵も心惹かれていて……。
22.4.7女性向けホットランキングに入っておりました。ありがとうございます 22.4.9.9位,4.10.5位,4.11.3位,4.12.2位
Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.
ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)
婚約破棄された令嬢は、“神の寵愛”で皇帝に溺愛される 〜私を笑った全員、ひざまずけ〜
夜桜
恋愛
「お前のような女と結婚するくらいなら、平民の娘を選ぶ!」
婚約者である第一王子・レオンに公衆の面前で婚約破棄を宣言された侯爵令嬢セレナ。
彼女は涙を見せず、静かに笑った。
──なぜなら、彼女の中には“神の声”が響いていたから。
「そなたに、我が祝福を授けよう」
神より授かった“聖なる加護”によって、セレナは瞬く間に癒しと浄化の力を得る。
だがその力を恐れた王国は、彼女を「魔女」と呼び追放した。
──そして半年後。
隣国の皇帝・ユリウスが病に倒れ、どんな祈りも届かぬ中、
ただ一人セレナの手だけが彼の命を繋ぎ止めた。
「……この命、お前に捧げよう」
「私を嘲った者たちが、どうなるか見ていなさい」
かつて彼女を追放した王国が、今や彼女に跪く。
──これは、“神に選ばれた令嬢”の華麗なるざまぁと、
“氷の皇帝”の甘すぎる寵愛の物語。
妹に裏切られた聖女は娼館で競りにかけられてハーレムに迎えられる~あれ? ハーレムの主人って妹が執心してた相手じゃね?~
サイコちゃん
恋愛
妹に裏切られたアナベルは聖女として娼館で競りにかけられていた。聖女に恨みがある男達は殺気立った様子で競り続ける。そんな中、謎の美青年が驚くべき値段でアナベルを身請けした。彼はアナベルをハーレムへ迎えると言い、船に乗せて隣国へと運んだ。そこで出会ったのは妹が執心してた隣国の王子――彼がこのハーレムの主人だったのだ。外交と称して、隣国の王子を落とそうとやってきた妹は彼の寵姫となった姉を見て、気も狂わんばかりに怒り散らす……それを見詰める王子の目に軽蔑の色が浮かんでいることに気付かぬまま――
もてあそんでくれたお礼に、貴方に最高の餞別を。婚約者さまと、どうかお幸せに。まぁ、幸せになれるものなら......ね?
当麻月菜
恋愛
次期当主になるべく、領地にて父親から仕事を学んでいた伯爵令息フレデリックは、ちょっとした出来心で領民の娘イルアに手を出した。
ただそれは、結婚するまでの繋ぎという、身体目的の軽い気持ちで。
対して領民の娘イルアは、本気だった。
もちろんイルアは、フレデリックとの間に身分差という越えられない壁があるのはわかっていた。そして、その時が来たら綺麗に幕を下ろそうと決めていた。
けれど、二人の関係の幕引きはあまりに酷いものだった。
誠意の欠片もないフレデリックの態度に、立ち直れないほど心に傷を受けたイルアは、彼に復讐することを誓った。
弄ばれた女が、捨てた男にとって最後で最高の女性でいられるための、本気の復讐劇。
妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――
エメラインの結婚紋
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢エメラインと侯爵ブッチャーの婚儀にて結婚紋が光った。この国では結婚をすると重婚などを防ぐために結婚紋が刻まれるのだ。それが婚儀で光るということは重婚の証だと人々は騒ぐ。ブッチャーに夫は誰だと問われたエメラインは「夫は三十分後に来る」と言う。さら問い詰められて結婚の経緯を語るエメラインだったが、手を上げられそうになる。その時、駆けつけたのは一団を率いたこの国の第一王子ライオネスだった――
追放された落ちこぼれ令嬢ですが、氷血公爵様と辺境でスローライフを始めたら、天性の才能で領地がとんでもないことになっちゃいました!!
六角
恋愛
「君は公爵夫人に相応しくない」――王太子から突然婚約破棄を告げられた令嬢リナ。濡れ衣を着せられ、悪女の烙印を押された彼女が追放された先は、"氷血公爵"と恐れられるアレクシスが治める極寒の辺境領地だった。
家族にも見捨てられ、絶望の淵に立たされたリナだったが、彼女には秘密があった。それは、前世の知識と、誰にも真似できない天性の《領地経営》の才能!
「ここなら、自由に生きられるかもしれない」
活気のない領地に、リナは次々と革命を起こしていく。寂れた市場は活気あふれる商業区へ、痩せた土地は黄金色の麦畑へ。彼女の魔法のような手腕に、最初は冷ややかだった領民たちも、そして氷のように冷たいはずのアレクシスも、次第に心を溶かされていく。
「リナ、君は私の領地だけの女神ではない。……私だけの、女神だ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる