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レイチェルの話 Ⅰ
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そしてレイチェルは語り始めたのでした。アドルフと会った経緯を。
最初にアドルフ様と会ったのはお姉様が結婚してから一か月ほどのことでした。
そのころの私は自分がアドルフ様と結婚出来なかったこと、そしてお姉様のような方がアドルフ様と結婚してしまったショックから少しやさぐれていました。そのためお茶会やパーティーでも友達の令嬢たちにも文句を言って回っていたのです。
だってそうでしょう?
私はパーティーで出会った同年代の男性は皆こちらを振り向くほどの美貌を持っているのに、お姉様はそういう華やかな場でも隅の方で目立たないようにしているだけ。
片やアドルフ様は年頃の貴族令嬢であれば皆結婚したい相手に挙げるような理想の男性です。誰と誰が結ばれるべきなのかは明らかでしょう。
とはいえ、さすがに三か月も愚痴を言って回ると言うこともなくなってきます。
そしてふと思い立ちました。三か月も経てばアドルフ様もそろそろお姉様に愛想をつかしているのではないかと。そもそも元からお姉様と喜んで結婚したとも思えないで愛想をつかす、という言葉も不適切かもしれませんが。
いくらお姉様が譲らないと言ってもアドルフ様本人が私を選べば話も変わってくるでしょう。
そう思って私はガイラー公爵家の近くに遊びに行きました。
すると、屋敷の方から一人の男性が歩いてきます。服装は貴族というよりはやんちゃしている成金の息子という感じです。普通の人が着ていたら下品に見えがちな穴が空いた服や過剰な装飾でじゃらじゃらしたネックレスも、不思議と彼がつけていると上品に見えました。
彼と目を合わせた瞬間、私は気が付きました。彼こそが私の運命の相手、つまりアドルフ様であると。
「もしかして……アドルフ様?」
私が言うと、彼は少し驚いた後ににこりと微笑みました。
「そうだ。僕はアドルフ・ガイラーだ。君は僕との結婚を望んでくれていたレイチェル・ハワード嬢だね?」
「そ、そうですが……一体なぜそのような恰好を?」
私がアドルフ様との結婚を望んでいたことを本人に聞かれてしまい、顔が真っ赤になってしまいそうです。
「だっていつもの恰好をしていたらすぐに僕がアドルフだということがばれてしまうだろう? そしたら君と会えなくなってしまう」
そう言ってアドルフ様は素敵な笑顔を浮かべます。
「アドルフ様……」
もしかして私と二人で会うためにそんな恰好をしてきてくれたのでしょうか。
やっぱり運命のいたずらで私とアドルフ様は結ばれませんでしたが、神様は正しき人同士を結び合わせてくれるようです。
「今は堂々と会うことも出来ないが、僕は君こそが運命の相手だと思っている」
「アドルフ様! 私も全く同じ気持ちです!」
その時の私はすっかり感激してしまいました。
「せっかくだし、どこかカフェでお茶でもしないか?」
「はい、喜んで」
そう言って私はカフェに行き、二人でお茶を楽しみました。
アドルフ様がしてくださる話はお屋敷のことから市井のことまで多岐にわたり、とても楽しかったです。アドルフ様は博識でどんなことでも知っているかのようでした。
ですが楽しい時間はあっという間で、すぐに日が傾いてきます。
「悪いけど、今日はそろそろ帰らないといけないようだ」
アドルフ様は少し曇った表情になります。
「そうですか……あの、また会えますか?」
「ああ、もちろんだ。とはいえ迂闊に連絡をとろうとすればばれてしまうかもしれない。やはり妻がいる男が気軽に他の女性と二人きりになる訳にはいかないからね。そうだ、街の尋ね人掲示板があるだろう? そこにメッセージを書いてくれ。とはいえそのまま書くと良くないな……そうだ、レイチェルがクララと名乗って僕がアーロンと名乗るのはどうだろう? そしたら僕が会える日時を返信するよ」
「分かりました!」
尋ね人掲示板など今まで使ったことがありませんが、そのような方法であいびきするのも私たちだけの特別な関係を表しているようで楽しそうです。
「ではまた」
「はい!」
こうして私たちはその日は別れたのでした。
「……というのが私たちの出会いですわ」
得意げに語るレイチェルですが、当然私の知っているアドルフ様はそんなことはしません。とはいえ、ただの妄想にしてはディティールが細かすぎです。
「これでもまだ納得いきませんの?」
「もちろんです」
私は真相を確かめるべくさらに続きを聞くことにするのでした。
最初にアドルフ様と会ったのはお姉様が結婚してから一か月ほどのことでした。
そのころの私は自分がアドルフ様と結婚出来なかったこと、そしてお姉様のような方がアドルフ様と結婚してしまったショックから少しやさぐれていました。そのためお茶会やパーティーでも友達の令嬢たちにも文句を言って回っていたのです。
だってそうでしょう?
私はパーティーで出会った同年代の男性は皆こちらを振り向くほどの美貌を持っているのに、お姉様はそういう華やかな場でも隅の方で目立たないようにしているだけ。
片やアドルフ様は年頃の貴族令嬢であれば皆結婚したい相手に挙げるような理想の男性です。誰と誰が結ばれるべきなのかは明らかでしょう。
とはいえ、さすがに三か月も愚痴を言って回ると言うこともなくなってきます。
そしてふと思い立ちました。三か月も経てばアドルフ様もそろそろお姉様に愛想をつかしているのではないかと。そもそも元からお姉様と喜んで結婚したとも思えないで愛想をつかす、という言葉も不適切かもしれませんが。
いくらお姉様が譲らないと言ってもアドルフ様本人が私を選べば話も変わってくるでしょう。
そう思って私はガイラー公爵家の近くに遊びに行きました。
すると、屋敷の方から一人の男性が歩いてきます。服装は貴族というよりはやんちゃしている成金の息子という感じです。普通の人が着ていたら下品に見えがちな穴が空いた服や過剰な装飾でじゃらじゃらしたネックレスも、不思議と彼がつけていると上品に見えました。
彼と目を合わせた瞬間、私は気が付きました。彼こそが私の運命の相手、つまりアドルフ様であると。
「もしかして……アドルフ様?」
私が言うと、彼は少し驚いた後ににこりと微笑みました。
「そうだ。僕はアドルフ・ガイラーだ。君は僕との結婚を望んでくれていたレイチェル・ハワード嬢だね?」
「そ、そうですが……一体なぜそのような恰好を?」
私がアドルフ様との結婚を望んでいたことを本人に聞かれてしまい、顔が真っ赤になってしまいそうです。
「だっていつもの恰好をしていたらすぐに僕がアドルフだということがばれてしまうだろう? そしたら君と会えなくなってしまう」
そう言ってアドルフ様は素敵な笑顔を浮かべます。
「アドルフ様……」
もしかして私と二人で会うためにそんな恰好をしてきてくれたのでしょうか。
やっぱり運命のいたずらで私とアドルフ様は結ばれませんでしたが、神様は正しき人同士を結び合わせてくれるようです。
「今は堂々と会うことも出来ないが、僕は君こそが運命の相手だと思っている」
「アドルフ様! 私も全く同じ気持ちです!」
その時の私はすっかり感激してしまいました。
「せっかくだし、どこかカフェでお茶でもしないか?」
「はい、喜んで」
そう言って私はカフェに行き、二人でお茶を楽しみました。
アドルフ様がしてくださる話はお屋敷のことから市井のことまで多岐にわたり、とても楽しかったです。アドルフ様は博識でどんなことでも知っているかのようでした。
ですが楽しい時間はあっという間で、すぐに日が傾いてきます。
「悪いけど、今日はそろそろ帰らないといけないようだ」
アドルフ様は少し曇った表情になります。
「そうですか……あの、また会えますか?」
「ああ、もちろんだ。とはいえ迂闊に連絡をとろうとすればばれてしまうかもしれない。やはり妻がいる男が気軽に他の女性と二人きりになる訳にはいかないからね。そうだ、街の尋ね人掲示板があるだろう? そこにメッセージを書いてくれ。とはいえそのまま書くと良くないな……そうだ、レイチェルがクララと名乗って僕がアーロンと名乗るのはどうだろう? そしたら僕が会える日時を返信するよ」
「分かりました!」
尋ね人掲示板など今まで使ったことがありませんが、そのような方法であいびきするのも私たちだけの特別な関係を表しているようで楽しそうです。
「ではまた」
「はい!」
こうして私たちはその日は別れたのでした。
「……というのが私たちの出会いですわ」
得意げに語るレイチェルですが、当然私の知っているアドルフ様はそんなことはしません。とはいえ、ただの妄想にしてはディティールが細かすぎです。
「これでもまだ納得いきませんの?」
「もちろんです」
私は真相を確かめるべくさらに続きを聞くことにするのでした。
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