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第一章 鮮やかすぎる異物
第一話:鮮やかすぎる異物
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空はどこまでも青く、街並みはチリひとつ落ちていないほど清潔だ。 この世界では、科学の力で「記憶」を消去できるようになった。 失恋の痛み、仕事の失敗、忘れてしまいたい恥ずかしい過去。それらを最新の機械でポイと捨てれば、人々は悩みひとつない「真っ白な心」で明日を迎えられる。
だが、捨てられた記憶が消えてなくなるわけではない。 実体化した記憶は「ゴミ」となって街の隅に溜まっていく。 放置されたゴミは、やがて腐敗し、現実の世界に「バグ」という悪影響を及ぼすようになる。
これは、そんな光り輝く世界の裏側で、積み重なった過去を片付ける「清掃員(クリーナー)」たちの物語。
「失礼します! 本日から配属されました、見習いのリイナです。よろしくお願いします!」
清掃局のオフィスに、元気すぎる声が響いた。 デスクでホログラムの資料を眺めていた先輩清掃員――クロードは、視線も上げずに小さくため息をついた。
「声がデカい。ここは遊び場じゃないぞ、見習い」クロードは冷徹な横顔のまま、手元の端末を操作した。
そこに映し出されたのは、新しく相棒となる少女――リイナの個人データだ。 その詳細を確認した瞬間、クロードの指がピタリと止まった。
「……リイナ。忘却履歴、ゼロ。精神洗浄の経験、なし」
ようやくクロードが顔を上げた。その瞳は、何度も記憶を捨ててきたこの世界の人々特有の、わずかに透き通った淡い灰色をしていた。 それに比べてリイナは、街では決して見かけないほど、全身からあふれ出すような鮮やかな色彩を湛えている。
「本当に**『フル・カラー』**か。欠陥品か、さもなきゃただの馬鹿だな」クロードの言葉は、単なる悪口よりもずっと冷たかった。
この世界において「フル・カラー」とは、今まで一度も記憶を消したことがない人である。
嫌なことをすぐに忘れて心を最適化するのが当たり前の社会で、ドロドロとした負の感情や、無駄な思い出をすべて抱え込んでいる「異常者」の呼び名だ。 「脳の整理整頓ができない汚い奴」「心の壊れた欠陥品」――。 そんな偏見の目にさらされ、まともな人間ではないと後ろ指を指される。それが「フル・カラー」という存在だった。
「お前のような感情の重荷を背負い込んだ人間は、この仕事には向いていない。目障りだ、今すぐ帰れ」
リイナは一瞬、ショックで肩を震わせた。クロードはそれを見逃さず、デスクの上にあった小さな銀色のデバイスを、彼女の方へ滑らせた。
「今、俺にひどいことを言われて不快だろう? その記憶をこれに吸い出せ。そうすれば、俺に会う前の真っさらな気分でやり直せる。この世界じゃ、それが『賢い』生き方だ」
クロードの鋭い視線がリイナを射抜く。 しかし、リイナはデバイスを手に取ろうとはしなかった。彼女はぐっと拳を握り、クロードの瞳をまっすぐに見つめ返した。
「……消しません」
「なんだと?」
「消しませんよ、そんなの。先輩にひどいことを言われた今のこの気持ちだって、腹が立つことだって……全部、私を作っている大事な一部ですから。全部持ったまま、私はここで働きたいんです」
部屋に沈黙が流れた。 リイナの瞳は、意志の強さを物語るような深い色で輝いている。
それを見たクロードは、ふっと口角を上げ、鼻で短く笑った。
「……勝手にしろ。ただし、その重たすぎる記憶のせいで一歩でも足が止まったら、首根っこ掴んでゴミ箱に放り出してやるからな」
クロードは椅子から立ち上がると、無造作にコートを羽織った。
「行くぞ、フル・カラー。仕事だ」
だが、捨てられた記憶が消えてなくなるわけではない。 実体化した記憶は「ゴミ」となって街の隅に溜まっていく。 放置されたゴミは、やがて腐敗し、現実の世界に「バグ」という悪影響を及ぼすようになる。
これは、そんな光り輝く世界の裏側で、積み重なった過去を片付ける「清掃員(クリーナー)」たちの物語。
「失礼します! 本日から配属されました、見習いのリイナです。よろしくお願いします!」
清掃局のオフィスに、元気すぎる声が響いた。 デスクでホログラムの資料を眺めていた先輩清掃員――クロードは、視線も上げずに小さくため息をついた。
「声がデカい。ここは遊び場じゃないぞ、見習い」クロードは冷徹な横顔のまま、手元の端末を操作した。
そこに映し出されたのは、新しく相棒となる少女――リイナの個人データだ。 その詳細を確認した瞬間、クロードの指がピタリと止まった。
「……リイナ。忘却履歴、ゼロ。精神洗浄の経験、なし」
ようやくクロードが顔を上げた。その瞳は、何度も記憶を捨ててきたこの世界の人々特有の、わずかに透き通った淡い灰色をしていた。 それに比べてリイナは、街では決して見かけないほど、全身からあふれ出すような鮮やかな色彩を湛えている。
「本当に**『フル・カラー』**か。欠陥品か、さもなきゃただの馬鹿だな」クロードの言葉は、単なる悪口よりもずっと冷たかった。
この世界において「フル・カラー」とは、今まで一度も記憶を消したことがない人である。
嫌なことをすぐに忘れて心を最適化するのが当たり前の社会で、ドロドロとした負の感情や、無駄な思い出をすべて抱え込んでいる「異常者」の呼び名だ。 「脳の整理整頓ができない汚い奴」「心の壊れた欠陥品」――。 そんな偏見の目にさらされ、まともな人間ではないと後ろ指を指される。それが「フル・カラー」という存在だった。
「お前のような感情の重荷を背負い込んだ人間は、この仕事には向いていない。目障りだ、今すぐ帰れ」
リイナは一瞬、ショックで肩を震わせた。クロードはそれを見逃さず、デスクの上にあった小さな銀色のデバイスを、彼女の方へ滑らせた。
「今、俺にひどいことを言われて不快だろう? その記憶をこれに吸い出せ。そうすれば、俺に会う前の真っさらな気分でやり直せる。この世界じゃ、それが『賢い』生き方だ」
クロードの鋭い視線がリイナを射抜く。 しかし、リイナはデバイスを手に取ろうとはしなかった。彼女はぐっと拳を握り、クロードの瞳をまっすぐに見つめ返した。
「……消しません」
「なんだと?」
「消しませんよ、そんなの。先輩にひどいことを言われた今のこの気持ちだって、腹が立つことだって……全部、私を作っている大事な一部ですから。全部持ったまま、私はここで働きたいんです」
部屋に沈黙が流れた。 リイナの瞳は、意志の強さを物語るような深い色で輝いている。
それを見たクロードは、ふっと口角を上げ、鼻で短く笑った。
「……勝手にしろ。ただし、その重たすぎる記憶のせいで一歩でも足が止まったら、首根っこ掴んでゴミ箱に放り出してやるからな」
クロードは椅子から立ち上がると、無造作にコートを羽織った。
「行くぞ、フル・カラー。仕事だ」
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