記憶の掃除屋

りい

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第一章 鮮やかすぎる異物

第二話 重すぎる色(クロード視点)

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この事務所は、いつだって静かだ。 
無機質な白い壁、一定の温度に保たれた空気。ここで働く俺たちには、それがふさわしい。記憶を捨て、心を真っ白に保ち続けるこの世界の住人にとって、「静寂」こそが最も快適な環境だからだ。
ホログラムの資料を眺めながら、俺は次の現場の汚染度をチェックしていた。 その静寂を、耳を刺すような騒がしい声がぶち破った。

「失礼します! 本日から配属されました、見習いのリイナです。よろしくお願いします!」
……チッ、声がデカい。 一瞬で不機嫌になった俺は、顔も上げずに言葉を投げた。

「ここは遊び場じゃないぞ、見習い」

追い払うつもりでそう言った。だが、手元の端末に送られてきた彼女の個人データに目を落とした瞬間、俺の指が止まった。

『忘却履歴:0件』 『精神洗浄:未経験』

……何かの間違いか? 思わず顔を上げると、そこには目を疑うような光景があった。
この街の人々は、記憶を捨てるたびに少しずつ色が抜けていく。髪も、肌も、瞳も、どこか透き通った淡い色に変わっていくのが「普通」だ。 だが、目の前に立つ少女は違った。 火を灯したような赤い髪、意志の強そうな瞳。まるでこの真っ白な事務所に、ペンキをぶちまけたような鮮やかさ。
「本当に**『フル・カラー』**か。欠陥品か、さもなきゃただの馬鹿だな」
本音だった。 

この世界で「フル・カラー」でいるということは、人生のあらゆるゴミを捨てずに抱え込んでいるということだ。それは整理整頓ができない部屋に住んでいるようなもので、社会的には「まともな人間」とは見なされない。
重すぎる荷物を背負った奴に、他人の記憶を片付ける清掃員なんて務まるはずがない。 俺は彼女を試すことにした。
デスクにある消去デバイスを差し出し、わざと意地悪な言葉を重ねる。俺に言われた屈辱を消してみろ、と。
だが、、

「……消しません。嫌なことも、先輩にひどいことを言われた今のこの気持ちも……全部、私を作っている大事な一部ですから」

彼女はまっすぐに俺を見つめ返した。 
その瞳は、逃げも隠れもしない、深い色を湛(たた)えていた。
この街で、こんなに「強い色」を見たのはいつ以来だろうか。 合理性も効率も無視した、あまりに不器用で、あまりに頑固な答え。
(……フン、面白い。どこまでその色が持つか、試してやる)
柄にもなく、鼻で笑ってしまった。 俺は椅子から立ち上がり、コートを羽織る。

「勝手にしろ。ただし、その重たすぎる記憶のせいで一歩でも足が止まったら、首根っこ掴んでゴミ箱に放り出してやるからな」
あえて突き放すように、俺は彼女を呼んだ。

「行くぞ、フル・カラー。仕事だ」
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