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山田羊子 おまけ

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「ね……きて…………、ねえ………起きてってば!」

「うーん……起きるよ。おはよう」

「おはよう。なんかすごい寝言言ってたよ?大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ。……夢に羊子ちゃんが出てきて色々話しをしてたんだ」

「そっか……。今日命日だしね…………」

 羊子ちゃんが亡くなって3年の時が経った。亡くなってしばらくは落ち込み、何をしていても羊子ちゃんを思いだしては悲しみと悔しさでいっぱいだった。
 何もできなかったという無力さに押し潰されそうだった自分を、美希が支えてくれた。

「さっ、五郎さん支度して!今年も行くんでしょ、起きて準備しよっ。羊子ちゃんが待ってるよ」

 毎年命日にはお墓参りに二人で行っていた。
 最初の時に1人で行くと言ったら私も行くと美希もついて来てくれたので、結局二人で行くのが恒例となっている。

「そうだな。準備するか」

 車で3、40分の距離にあるお墓は周りに花や木がたくさん植えてあってとても心地よいところにある。

「羊子ちゃんこんにちは。今日はお天気も良くて気持ちいいね」

 そう言いながら美希はお花を供えてお線香の準備をしていく。
 何度来ても羊子ちゃんが本当にここにいるなんて信じられなかった。

 俺の妹朱里あかりも心臓の病気だった。当時高校生だった俺は入院している朱里のところへ通い色々な話を聞かせていた。

 最初は病院はつまらないから外の話が聞きたいという要望に答えて話していたが、だんだんとそれが当たり前のようになり今日学校であったこととかだけじゃなく、面白い本楽しい本を見つけてはその内容を聞かせるのも習慣となっていった。
 そのおかげもあって朱里が死んだ後もたくさんの本を読んだ。
 まだ8歳という年齢でこの世を去ってしまった朱里。本当に可愛くてちょっと引っ込み思案で人見知りなそんな朱里が大好きだった。もっとたくさんおしゃべりしたかった。
 成長して大人の女性になった朱里を見たかった。
 だから俺は朱里と同じように幼い子の未来を無くさないよう病気を治してやりたいと思い医者になることを決めた。

 頑張って勉強して医学部に入りようやく医者になって初めて受け持った患者が山田羊子ちゃんだった。
 朱里と同い年同じ病気の彼女を見たとき、俺が治さなきゃと強く思った。
 最初の頃は素っ気ない態度だった彼女もいつしか笑顔を見せて話してくれるようになって、読書が好きだという彼女と本の感想を言い合ったりしてまるで朱里と話してるようなそんな気持ちになっていった。

 朱里が高校生だったら、アルバイトをしていたらこんな風になってたのかなと羊子ちゃん通して朱里を見られるみたいで嬉しかったんだ。
 朱里にも羊子ちゃんの話しはたくさんした。
 だから美希にも朱里のことも、羊子ちゃんのこともたくさん話した。
 朱里は生きていたらどんな女の子になっていたんだろうなあ。

「美希、夢に羊子ちゃんが出てきたって言っただろう?その時に言われたんだ。私は妹じゃないって」

「そう……」

「だから今年でここに来るのは最後にしようと思うんだ」

「本当にそれでいいの?」

「わからない。だけど俺がここに来ることを彼女は嫌なんじゃないかと思って……」

「五郎さんはここにまた来たいと思う?」

「……」

「私は羊子ちゃんと会って話したのは1回だけだから彼女の気持ちはわからない。でも五郎さんの気持ちはわかる気がするの。今まで朱里ちゃんのことも、羊子ちゃんのこともたくさん話してくれたでしょ。羊子ちゃんは患者さんで他人だけど、五郎さんにとってはもう大切な妹なんじゃないの?」

「そうだね。でもそれは俺の気持ちであって彼女は違う。俺を兄とは思わない。先生と患者だから」

「じゃあ先生が患者のお墓参りしたらダメなの?」

「えっ?それは……」

「確かに亡くなった患者さん全員とかは無理だと思うけど、羊子ちゃんはもう特別じゃない?五郎さんがもう来ないっていうならそれでいいけど、もし今後も来たいと思うのならその気持ちを優先して欲しいと私は思うよ」

 俺にとっての羊子ちゃんは言わずもがな、特別な人だ。
 また話しがしたいし、もし2人が生きていたら朱里と友達になって3人で好きな本の話をしたりするそんな未来を想像してしまう。 色んな気持ちが込み上げてきて目頭が熱くなってきた。

「俺は……また来たい。羊子ちゃん、本当に申し訳ない」

 目の前が滲み頬が濡れる。
 羊子ちゃんに言われたように、普通の患者と医者として接していかなきゃと頭ではわかっている。だけど羊子ちゃん君だけはもうどうしたって特別なんだ。
 勝手なお願いだけど、医者として多くの人を助けられるように頑張るから、どうか1年に1度ここに来て話しをさせてほしい。


 供えたお線香の煙が立ち上ぼり青空の中に消えていった。
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