【完結】自ら影に隠れていた王女は、救世主が現れ世界が変わりました

まりぃべる

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大広間での奇跡

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「あぁ、よくお似合いで…!」





 フローチェがドリカに呼ばれ、先ほどまでいた家畜飼育場まで戻ると、ヒリスが荷物を持って立っていた。
そして待ちわびていたヒリスに、今すぐこれに着替えるようにと手渡されたそれは、フェリクスの服と、それを着たあとに大きな布を頭から被り口元を隠すようにと指示をされ、フローチェは干し草の陰で着替えた。その時に掛けられた言葉である。

 ヒリスは、フェリクスを思い出したのか再び涙を流し始めた。ドリカも、口元を手で押さえて涙を一筋流した。


(でも…髪と口を隠したくらいで、うまくいくのかしら。)


「ささ、では向かいましょう。こちらへ。」

「ヒリス、これだけでいいの?」

「もちろんです!これ以上ない出来でございます!」



 着替えた後にヒリスから簡単に打ち合わせをされる。その後連れられて向かったのは、王宮の大広間であった。そこは、深夜まで前夜祭が行われていた場所だ。
 庭園側から大広間へと続く両扉の内の片方を大きく音を立てて開けたヒリスは、フローチェへと向かって頷き、片膝をついた。

 ヒリスの一歩後ろにいたフローチェは、ヒリスが体勢を変えた事で、中が見えた。と言っても、広間の明かりは付いておらず、窓からの星空の明かりだけの薄暗い部屋となっていた。

 前夜の宴の片付けが途中だったのだろう長机や椅子がまだ並べられていたが、中央付近には布を掛けられたがあり、それを取り囲むように近衛騎士達が座り込んでいた。中には大声で泣いている者もいる。


 フローチェは布の下に隠れたネックレスを一度だけ触れると、意を決して、すぅと大きく息を吸い込むと、わざと低めの声を出すように心掛けながら張り上げた。


「何をしている!今成すべき事はなんだ!?命令されなければ分からないのか!」


 フローチェが、腹の底からいつもより力を込めて声を出し、フェリクスがいつも騎士団で訓練している口調を真似てそう叫んだ。


「え?」

「は?…フェリクス様?」

「…え、何で!?」


 途端に、ざわめき出し、扉の方へ一斉に視線を向ける騎士団の面々。中央とこちらを何度も見比べる者もいた。


「なんだ?聞こえないのか!?」


 フローチェがもう一度言うと、それまで座っていた内の一人が立ち上がり声を上げる。


「フェリクス様でありますか!?あの…あちらは……」


 彼はここにいる近衛騎士をまとめる騎士団長、エフモントだ。鼻の下にフサフサとした黒い髭を生やし、訝しげに発言する。いつもフェリクスと行動を共にしていた為、きっと指摘されるだろうと思いながらも、フローチェは尚も続ける。


「エフモント!それより今、何をすべきだ!?分からぬはずはない、そうだな!?」


 そう言うと、フローチェは右手を開いた状態で上に挙げ、もう一度声を上げる。


「お前達は我がゼーフェナル国の誇り高き騎士団である!そうであろう!ならば、何をすべきか行動で示せ!なぁエフモント!」


 それを聞き、慌てて合わせるように右腕を挙げるエフモント。それは、騎士団が志気を上げる為にする仕草で、王族に忠誠を誓う姿勢ともいった。


「は!我がゼーフェナルの為!!
おい皆の者、立て!いいか、敵はモーゼス!モーゼスを討つ!」


 それを言われたその場に座り込んでいた者達は顔を見合わせ、初めは戸惑っていた。だがそれでも上官に言われた為に頷き合って立ち上がり、同じように右手をまっすぐ挙げ、反応をする。


「「「はっ!」」」

「捜せ!モーゼスを八つ裂きにしてくれるわ!」


 それを聞いたフローチェは慌てて口を挟む。


「エフモント!恨みの思いだけで動いてはならん!」

「!!
申し訳ありません!では、連れて参るぞ!」


「「「はっ!!」」」

「行くぞ!」

「「「おー!」」」


 ドタドタと、皆がフローチェの方へ向かって来たためフローチェは慌ててまだ閉まっている扉側へ移動し、姿を、主に顔を見えないように俯き見送った。


「…音を立て過ぎじゃないかしら。」


 どうにか上手くいったという安堵感と、あんなに大勢がドタドタと移動し、宿泊客がいる棟とは少し距離があるとはいえ煩くないのかと呟いたフローチェに、傍まで来たヒリスは涙を流し、それを腕で荒々しく拭いながら労いの言葉を掛けた。


「良かったですぞ!様そのものでした。うっうっ……」


 それを横目で見て、フローチェは一言、そう、と言うと、その大広間へと入り、中央へと向かう。

 フローチェは果たして、騎士団が剣を収めていたのに再び矛先を向けさせてよかったのかと、不安に思いながら進む。

 ヒリスにも、無念を晴らしたいと言われ、発破をかけモーゼスを討たせるようと願われたのだ。だが、フローチェはそのようにしたくはなかった。
なぜ父や兄が討たれたのかが分からないし悔しいが、だからといって人の命を奪いにいけと命令したいとは思わなかった為に先ほどもわざわざ言い直した。


 中央には布を掛けられた大きな何かが横たわっているように見えたフローチェはじっとそれを眺める。いや、目を逸らしたいが逸らせないと言った方が正しいのかもしれない。


 その傍には、まだ二人残っている人物がいてフローチェが近づくとその内の一人が立ち上がり声を掛けてきた。
未だ座っている一人は、こちらを見つめている。エトだ。


「本当にフェリクス様…?
いえ、それは幻想ですね、失礼致しましたフローチェ様。」

「ロドルフ…」


 フローチェは視線をそちらへ向ける。
彼は、ロドルフ=アッケルマン。国王で右腕であり、ヒリスの息子である。年齢でいえば、ダーフィットと同じ年代である。


「暗がりで、皆が極限状態であった為にうまくいきましたが…父上の奇抜な発想にお付き合い下さり感謝申し上げます。」


 後ろの扉付近でまだオイオイと泣いているヒリスを見やり、苦笑交じりにフローチェへと声を掛ける。


「いえ…。」

「しかし、さすがはフローチェ様!
私やエトが何を言っても、近衛騎士団は悲壮感ただよい動かなかったものをよくぞ奮い立たせて下さいました。いやはや本当にフェリクス様かと思うほどでした。」

「…。」


 フローチェは、褒めているのかよく分からない言葉を聞きながら、ロドルフが守っているようにも見えるその中央の布へと視線を再び向けた。


「…ダーフィット様と、フェリクス様でございます。あまりの事で、こちらへ寝かせるのがやっととなり申し訳ありません。近衛騎士団の面々も皆、呆然としてしまいまして…」

「!!」


 やはり、とフローチェは思う。頭から足まで見えないように布が掛けられたの、中を確認する事も出来ずフローチェは詳細を聞こうと言葉を振り絞った。


「ねぇ、何があったの?」

「はい。前夜の宴が終わった頃でございます。そこで…」


 と、口元に手をやり言葉に詰まったロドルフに、フローチェは傍へ寄って背中をさすってやった。


「私も、傍に居らずすみませんでした…いたらきっとこんな事には…!」


 エトも、振り絞るように唇を噛みながらそう呟く。


「エト、自分を責めないで。」


 フローチェはエトにもそう声を掛け、肩を叩いた。
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