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縮まる二人の距離
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リューリが来て一週間が経った。
ヴァルトとリューリは、共に過ごす時間がある時には一緒にいようとどちらからともなく声を掛けるようになった。
ヴァルトは朝、食事をしてから執務室に籠もったり、警備塔へと行き、帰ってこれる時には屋敷でリューリと共に昼食を摂るようになった。
「こちらで昼食を摂ってくださるのはありがたい限りでございます。」
ラウノも心なしか嬉しそうで、リューリが疑問に思って聞けば、それまでは昼食はほとんど適当で、執務室で仕事をしている時には仕事優先で、ゆっくりと食事をしていなかったのだと。警備塔にいる時には周りと共に食べているのだろうと思うが、なかなかそれが見えずやきもきしていたと教えてもらった。
「奥様と共に食事して下されば、ヴァルト様の健康も保たれるという事ですな。」
夜も、共に食べる為、規則正しくなったとラウノは喜んでいる。
「仕事や体を鍛える為だと理由をつけ、こちらでは決まった時間に食べていなかったのです。酷い時には深夜まで食べない事も。
リューリ様、これからもヴァルト様をよろしくお願い致します。」
そうは言われても、今度は逆に今までやっていた仕事の時間を、減らしてしまっているのではないかと問えば、否と言われた。
「今までがし過ぎでしたのです。辺境伯という爵位を受け継ぎ、気を張って努力されていたのでしょうが、そんな不規則な生活をいつまでも続けていては体を壊してしまいます。ですので奥様のお仕事は、ヴァルト様を適度に休ませる事でございますよ。」
「そうそう、僕らもその間、ゆっくり出来るという事です。」
「こら、カッレ!」
そう言われれば、リューリは納得する他無かった。元々、オークランスの家では賑やかに食事をしていたのだ。一人で食べるのは淋しいと思っていたから。
「リューリ、この後も少し一緒にどうだ?」
その日も夕食が終わると、ヴァルトは声を掛けた。
「もちろん!」
「よし、じゃあ一時間ほど話そうか。マイサ、談話室にお茶を。」
「承知致しました。」
☆★
談話室は、食堂から二つ並んだ隣の部屋であった。小さな部屋で、中央に長机と布張りのソファがあり、壁際には小さな机と木製の椅子が向かい合って置かれている。その机にはボードゲームが置いてある。
今日もソファに対面で座り、少し話す時間を設けた。すでに長机の上には飲み物と簡単なつまみが置いてある。
「リューリとの時間を作るとラウノやカッレが喜ぶんだ。だが、別に奴らを喜ばせる為にしているんじゃないからな。」
「ウフフ、そうね。私もマイサにいつも『良かったですね』って言われるのよ。まぁ、確かに嬉しいけど。」
「俺達はいきなり夫婦となってしまった。だが、知らない事ばかりだからな、話をしなければ互いの事が分からん。食事の時間だけでは足りないからな。」
「そう言ってくれて、嬉しいわ!でも、お仕事の時間減ってしまわない?私も手伝える事があればいいのだけれど…」
「そうだな、そのうち頼むよ。今は好きな事をして過ごせばいい。
リューリは本、好きだったか。書庫の本は好きに読めばいいから。」
「ありがとう!でも私、そろそろこの生活に慣れて来たのよ?その内って、いつなのかしら。」
「本当か?だがもう少しすると、朝晩の気温がぐっと下がってくる。昼間もそんなに気温が上がらないから、体調を崩すといけないぞ?」
そう言って、ヴァルトは紅茶にブランデーを少し入れてから口に運んだ。
リューリも、紅茶にハチミツを少し入れ、口に運ぶ。
「そういえばリューリは甘いものが好きなのか?」
「え?…そう言われてみればそうね。ここに来て、紅茶にハチミツを入れる事を知ったの。オークランスではジャムを入れていたのよ。」
「ジャムを?そうなのか。…そういえばエリヤスも王立学院時代、考えが煮詰まった時に紅茶にジャムを入れていた気がするな。普段は入れないから珍しいと思ったものだ。」
「あらエリヤス兄様が!?私の前ではあまりされないのに。あぁ、でも疲れた時にはしていたかも。」
「甘いものは疲れた体にはいいからな。体も温まる。
…そのハチミツは、ノルドランデル産だぞ。」
リューリが使った小瓶を見て、ヴァルトはそう言う。
「ええ、マイサから聞いたわ。とても美味しいのよね。色も、いつも見ていたハチミツより少し黄色かかっていて綺麗だわ。」
「絶賛してくれるとは作った甲斐があるな。養蜂家が喜ぶ。」
「まぁ!ヴァルトだって、嬉しそうよ?」
「…まぁな。」
「もう!正直になればいいのに。だって領主様なのだもの、もっと自慢していいものだわ。」
「…そうだな。」
はにかんだヴァルトも素敵だと思いながらリューリは紅茶をもう一口含んだ。
「そうだ、あと三日ほどしたら屋敷の敷地内に業者が入るから、暫くは騒がしくなる。屋敷の中には入って来ないだろうが気をつけてくれ。皆にも言ってはおくが、リューリにも伝えてとく。」
「業者…?」
「あぁ。空いている場所に、そんなに広くはないが鍛錬場のようなものを作らせる。遅くなってすまないな。」
「え!本当に!?遅くなんてないわ!ありがとう!でも…良かったの?新しく造るなんて……」
「あぁ。その方がリューリがすぐに使えるだろう?警備塔にわざわざ向かわなくて済む。
だが、別の使い方もさせてもらうがな。」
「別の?」
「以前有事の際、領民をこの屋敷内を避難場所にさせると言っただろう?
屋敷は広いとは言え、全員を入れられるわけではないし、これからはリューリがいるからな。あまり大勢が屋敷内にいても気が休まらないだろ?だから、その際少しはそちらに避難してもらえるようにする。」
「まぁ!そんなの…ありがとう、私の事を考えてくれて。」
リューリは、自分の為に建物を造る事に抵抗があったが、ヴァルトが他の利用もすると言い、それなら素直に従った方が良いだろうと微笑みながらお礼を述べた。
そんな笑顔を可愛いと思いながら、ヴァルトは声を返す。
「当たり前だ。リューリは俺の大切な奥さんだからな。」
ヴァルトもまた、少し冗談っぽくそう言って笑う。
二人は仲睦まじく、今日も会話を楽しんでいた。
ヴァルトとリューリは、共に過ごす時間がある時には一緒にいようとどちらからともなく声を掛けるようになった。
ヴァルトは朝、食事をしてから執務室に籠もったり、警備塔へと行き、帰ってこれる時には屋敷でリューリと共に昼食を摂るようになった。
「こちらで昼食を摂ってくださるのはありがたい限りでございます。」
ラウノも心なしか嬉しそうで、リューリが疑問に思って聞けば、それまでは昼食はほとんど適当で、執務室で仕事をしている時には仕事優先で、ゆっくりと食事をしていなかったのだと。警備塔にいる時には周りと共に食べているのだろうと思うが、なかなかそれが見えずやきもきしていたと教えてもらった。
「奥様と共に食事して下されば、ヴァルト様の健康も保たれるという事ですな。」
夜も、共に食べる為、規則正しくなったとラウノは喜んでいる。
「仕事や体を鍛える為だと理由をつけ、こちらでは決まった時間に食べていなかったのです。酷い時には深夜まで食べない事も。
リューリ様、これからもヴァルト様をよろしくお願い致します。」
そうは言われても、今度は逆に今までやっていた仕事の時間を、減らしてしまっているのではないかと問えば、否と言われた。
「今までがし過ぎでしたのです。辺境伯という爵位を受け継ぎ、気を張って努力されていたのでしょうが、そんな不規則な生活をいつまでも続けていては体を壊してしまいます。ですので奥様のお仕事は、ヴァルト様を適度に休ませる事でございますよ。」
「そうそう、僕らもその間、ゆっくり出来るという事です。」
「こら、カッレ!」
そう言われれば、リューリは納得する他無かった。元々、オークランスの家では賑やかに食事をしていたのだ。一人で食べるのは淋しいと思っていたから。
「リューリ、この後も少し一緒にどうだ?」
その日も夕食が終わると、ヴァルトは声を掛けた。
「もちろん!」
「よし、じゃあ一時間ほど話そうか。マイサ、談話室にお茶を。」
「承知致しました。」
☆★
談話室は、食堂から二つ並んだ隣の部屋であった。小さな部屋で、中央に長机と布張りのソファがあり、壁際には小さな机と木製の椅子が向かい合って置かれている。その机にはボードゲームが置いてある。
今日もソファに対面で座り、少し話す時間を設けた。すでに長机の上には飲み物と簡単なつまみが置いてある。
「リューリとの時間を作るとラウノやカッレが喜ぶんだ。だが、別に奴らを喜ばせる為にしているんじゃないからな。」
「ウフフ、そうね。私もマイサにいつも『良かったですね』って言われるのよ。まぁ、確かに嬉しいけど。」
「俺達はいきなり夫婦となってしまった。だが、知らない事ばかりだからな、話をしなければ互いの事が分からん。食事の時間だけでは足りないからな。」
「そう言ってくれて、嬉しいわ!でも、お仕事の時間減ってしまわない?私も手伝える事があればいいのだけれど…」
「そうだな、そのうち頼むよ。今は好きな事をして過ごせばいい。
リューリは本、好きだったか。書庫の本は好きに読めばいいから。」
「ありがとう!でも私、そろそろこの生活に慣れて来たのよ?その内って、いつなのかしら。」
「本当か?だがもう少しすると、朝晩の気温がぐっと下がってくる。昼間もそんなに気温が上がらないから、体調を崩すといけないぞ?」
そう言って、ヴァルトは紅茶にブランデーを少し入れてから口に運んだ。
リューリも、紅茶にハチミツを少し入れ、口に運ぶ。
「そういえばリューリは甘いものが好きなのか?」
「え?…そう言われてみればそうね。ここに来て、紅茶にハチミツを入れる事を知ったの。オークランスではジャムを入れていたのよ。」
「ジャムを?そうなのか。…そういえばエリヤスも王立学院時代、考えが煮詰まった時に紅茶にジャムを入れていた気がするな。普段は入れないから珍しいと思ったものだ。」
「あらエリヤス兄様が!?私の前ではあまりされないのに。あぁ、でも疲れた時にはしていたかも。」
「甘いものは疲れた体にはいいからな。体も温まる。
…そのハチミツは、ノルドランデル産だぞ。」
リューリが使った小瓶を見て、ヴァルトはそう言う。
「ええ、マイサから聞いたわ。とても美味しいのよね。色も、いつも見ていたハチミツより少し黄色かかっていて綺麗だわ。」
「絶賛してくれるとは作った甲斐があるな。養蜂家が喜ぶ。」
「まぁ!ヴァルトだって、嬉しそうよ?」
「…まぁな。」
「もう!正直になればいいのに。だって領主様なのだもの、もっと自慢していいものだわ。」
「…そうだな。」
はにかんだヴァルトも素敵だと思いながらリューリは紅茶をもう一口含んだ。
「そうだ、あと三日ほどしたら屋敷の敷地内に業者が入るから、暫くは騒がしくなる。屋敷の中には入って来ないだろうが気をつけてくれ。皆にも言ってはおくが、リューリにも伝えてとく。」
「業者…?」
「あぁ。空いている場所に、そんなに広くはないが鍛錬場のようなものを作らせる。遅くなってすまないな。」
「え!本当に!?遅くなんてないわ!ありがとう!でも…良かったの?新しく造るなんて……」
「あぁ。その方がリューリがすぐに使えるだろう?警備塔にわざわざ向かわなくて済む。
だが、別の使い方もさせてもらうがな。」
「別の?」
「以前有事の際、領民をこの屋敷内を避難場所にさせると言っただろう?
屋敷は広いとは言え、全員を入れられるわけではないし、これからはリューリがいるからな。あまり大勢が屋敷内にいても気が休まらないだろ?だから、その際少しはそちらに避難してもらえるようにする。」
「まぁ!そんなの…ありがとう、私の事を考えてくれて。」
リューリは、自分の為に建物を造る事に抵抗があったが、ヴァルトが他の利用もすると言い、それなら素直に従った方が良いだろうと微笑みながらお礼を述べた。
そんな笑顔を可愛いと思いながら、ヴァルトは声を返す。
「当たり前だ。リューリは俺の大切な奥さんだからな。」
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二人は仲睦まじく、今日も会話を楽しんでいた。
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