【完結】気味が悪い子、と呼ばれた私が嫁ぐ事になりまして

まりぃべる

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3. 道中

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「姉上…どうぞお気を付けて。お幸せに!!」

「アーレントありがとう。アーレントもね。
 フェベ、ブレフト、今まで本当にありがとう。行ってきます!」


 簡素な馬車は、フレイチェと少ない荷物を乗せるといささか狭くは感じたが、フレイチェは文句を言う事なく見送りをしてくれた三人に手を振る。この馬車は、ボーハールツ家のではなくアーレントとブレフトが町の貸切馬車を手配した。

 両親はフレイチェの為に準備しなかったのだ。

 歩いて行けという事か、とアーレントは憤慨しブレフトとフェベと相談し、それぞれの主要な町にある、依頼すれば希望の場所まで乗せてくれる貸切馬車を昨日急いで手配した。その為信頼の置けるような熟練の御者が居なかったが、若くても居ないよりは良かったと三人は胸をなで下ろした。


 御者台に乗った若い御者は、緊張した面持ちですぐに手綱を振って出発した。


 ガタゴトと音を立てて進むその馬車の小窓から外を眺めながらフレイチェは、目的地へと思いを馳せる。


(休憩を挟みつつ行くなら、夕方には着くわよね。)


 それほど距離があるのだと、朝食の時にフェベは憂いを滲ませた表情を浮かべながら教えてくれた。
 両親のあの言い方ではフェベとブレフトはフレイチェと共について行く事は許されず、アーレントと別邸を片付けてから本邸へと戻ると言っていた。
 フレイチェは淋しく思ったが、それは仕方ない事だと頷く。未知なる土地へ向かうのは戸惑いもあったが、初めての旅路に少しだけ胸が高鳴ってもいた。


(わぁ…!こんなに素敵な景色……!)


 湖を背に走る馬車は、木々に囲まれた道を抜けるとやがて見渡す限りの金色の小麦畑の中を駆け抜けている。


(なんて美しいの!…お尻と腰は痛いけれど。)


 簡素な馬車は、木で囲っただけのような馬車。それに、気休めではあるが今まで使っていたフレイチェのクッションを置いた。だがやはり、体は正直であった。

 昨日両親が乗っていた馬車には、乗り込む箱型の外側の部分に装飾が描かれていたが、飾り気は全くない。中の乗り心地も当然、違っているのだがあまり乗った事も無いフレイチェにはそれに小言を言う事も無く、小窓から流れるような景色を物珍しそうに見ていた。





ーーー
ーー



 やがて、日も傾き夜の帳が下り始めた頃。
 馬車の走る速度が少しだけ緩くなった。


(もうすぐ着くのかしら?)


「うーん…」


 フレイチェは、馬車の速度が緩くなった事で聞こえてきた御者の声に耳を澄ました。しかし、話しかけられているわけではなく、何やら呟いているようだ。


「どうされたの?」


 フレイチェは気になり声を上げる。


「いえ、こちらだと思うのですがどこから入るのかと…うわ!」


 ヒヒーン!


「きゃ…!」


 フレイチェは、いきなり停まったので座席から前に押し出されるように飛び上がった。

 その時、外で聞き慣れない声がフレイチェの耳に入ってきた。


「やべ…おい、行くぞ!!早くしろよカーリン、立て!」
「痛っ…痛いわよ、無理!」

「も、申し訳ありません!お怪我は…」

「ああ、いい!怪我なんてしていない!ここの事は忘れてくれ!
 おい!!」
「痛いってば!カスペル強く引っ張らないでっ!もう!分かったってば!」


(いたた…事故…?)


 速度は出ていなかったがそれなりの衝撃がありフレイチェも、向かいの座席へと押し出される形になり、慌てて手をついた拍子に少しだけ手首に軽くだが痛みを感じた。
 起き上がって御者台側の小窓を覗くと、男女が二人、馬車の前から走って去って行くのが見えた。男性が女性の腕を引っ張り、女性は文句を言いつつ足を引きずっていた。


(大丈夫なのかしら…?)


 フレイチェはそう思うと、御者台側についている小窓から御者へと声を掛ける。


「どうしたの?あなたは大丈夫?」

「!は、はい!申し訳ありませんでした!!お怪我は?」

「いいのよ、それより今の人達は?」

「申し訳ありません、分かりません…その…そこの柵の間からいきなり飛び出てきたように見えまして。」

「柵?」

「はい、お屋敷の塀というか。…もう少し進みましょう。申し訳ありません、この辺りは初めて来まして、入り口となる門が分からず…」

「そうなのね。良いのよ、このお屋敷がオルストールン家なら、ここで降ろしてくれていいわ。囲い沿いに歩けば門へと着くでしょうから。」

「い、いえ!…あ、灯りが見えます!きっとあちらが入り口かもしれません。…ああ!」


 パキッと音がしたと思うと、御者は大きな声を出す。


「今度はどうされたの?」

「…先ほどの方が落とされたのでしょうか。万年筆です。どうしよう…踏んで壊れて…」


 フレイチェが小窓から食い入るように見れば、御者は地面に跪いている。落ちていたのだろう万年筆を手にしているのか、そこを一点に見つめ、今にも消え入りそうな声を出している。先ほど出てきた男女は、不審ではあったものの、身なりは庶民から見ればかなり上等であった。それもありその万年筆も庶民から見れば、かなり根の張るものだと考えたのだろう。


「ここ、開けて下さる?それを見せてもらえるかしら。」

「は、はい…。」


 フレイチェは外側から掛けられた鍵を開けるように言うと、ややもして御者の手で箱馬車の扉が開けられ、潰れた万年筆を差し出された。


「これ、私が預かるわ。ここのお屋敷の方であれば謝っておくから。」

「しかし…」

「いいのよ。
 こんな所から人が出てくるなんて思わないものね、驚いたでしょう。」


 そういうとフレイチェは手荷物からハンカチを出し、形の曲がった万年筆をそれに包んだ。


「さぁ、早くお願いね。でないと真っ暗になってしまうでしょう?あなたが大変だわ。」


 フレイチェよりも若く見える御者に、そのように言葉を掛ける。


「…ありがとうございます。では。」


 そう頭を下げた御者は扉を閉め、屋敷の出入り口を探す為に走らせた。






「着きました!準備致しますので、少々お待ち下さい。」


 今度こそ馬車はゆっくり停まると御者がそのようにフレイチェへと声をかける。ドタガチャと音がするのでフレイチェは大人しく座っていると、やがて扉が開き、下りるようにと声を掛けられた。


「ありがとう。」


 下りて周りを見渡すと、馬車の小窓から見えていたよりもかなり大きな屋敷と、それを囲むように黒い柵が身長よりも遥かに高く屋敷の周りを囲んでいる。


「まぁ…!すごいのね。これでは入り口も分からないわ。」

「お待たせしました。では参りましょうか。」


 両開きの開かれている門を抜けると建物の屋敷までは、長さが短く切り揃えられた芝生の間に敷かれている石畳の細い道を歩くようで、御者がフレイチェの隣の座席に置いてある鞄とクッションを持ち、建物の玄関まで共に向かった。
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