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かずくんと服

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かずくんは4歳。
かずくんはいつも、おなじ黄色の服を着る。
ぼくたちは、かずくんの引き出しでいつも待ってる。
今日こそは、着てくれるかなって。
でも、なかなかその日はやって来ない。

「なんでぼくは着てくれないのかなー。青い、戦隊ものの顔が書いてあるのに。カッコいいのに。」
「ぼくだって、あこがれの、あのキャラクターがついてるよ!ステキなのに。」
「わたしだって!ほら、しましま柄よ。すばらしいのに。」
「「「はー。なんでだろ。」」」

引き出しの中で、今日も残った服たちが話しています。

「ねぇ、今日かずくんに聞いてみよ。」
「そうだよ。かずくんに着てほしいのに、いつもしまわれたままだって。」
「ほんとよね。かずくんと一緒にお出かけしたいわって。」

あるとき、服たちが話し合って、かずくんに直接聞いてみることに決めました。

その日の夜、服たちがパジャマを着てベッドに入ったかずくんに声を掛けました。

「かずくん。どうして僕たちを着てくれないの?」
「えっ!?」
かずくんは僕たちを見てびっくりして飛び起きました。
「かずくんと一緒に出かけたいわ。明日は私を着てほしいの。」
「ぼくだって、ステキだろ?着てほしいんだ。」
かずくんは、しばらく考えて言いました。

「だってぼく、いつもの黄色の服、好きだもん!」
「えっぼくたちは?好きじゃないの?」
「ええとね。きらいじゃないよ。でもあの服が一番好き!」
そう答えをもらって、服たちは淋しくなりました。

「じゃあ、ぼくさよならする。」
「ぼくも。」
「わたしだって!」
そう言って、服たちは部屋を出て行きました。


○●○●○●
次の日、かずくんはいつもの黄色の服を着て公園で遊んでいました。
すると、砂場で転んで、汚れてしまいました。
かずくんは、一番好きな服だったので残念に思ったけれど、帰ったら着替えればいいかと思って家に帰りました。


家につくと着替えをするために、引き出しを開けました。
すると引き出しは空っぽです。かずくんはびっくりして言いました。

「お母さん!ぼくの服がない!」

「えっどうして?かずくんいつも黄色の服しか着てなかったわよね。」
「うん。でも引き出しには入ってたよ。昨日、着てねって言われた。」
かずくんは、昨日の出来事をお母さんに話しました。そして、かずくんは、
「お母さん、僕の服は?」
と再び聞き返しました。

「うーん。昨日かずくんがそう答えて、服も淋しかったんじゃないかしら。毎日おなじ服しか着てなかったものね。他の服たちも、かずくんと一緒に出かけたかったのよきっと。」
そう言われ、かずくんは再び引き出しを見ました。けれど、昨日まであった服はありません。かずくんもだんだんと悲しくなりました。

「ごめんなさい。ぼく、他のふくも着るよ。だから、出てきて!」


少しすると、出て行った服たちが部屋に入ってきました。

「かずくん、着てくれるの?」
「かずくん、着てくれるならうれしいな。」
「かずくん、ほんとよね?着てくれるわよね?」

かずくんは、目にじわじわと溜まってきた涙を手で拭いて、
「うん!順番に着るから、消えないで!」



○●○●○●
それから、かずくんは選んで服を着るようになりました。もう、引き出しで悲しがってる服はいません。順番に着てくれるからです。
服たちも、かずくんと一緒で嬉しそうです。
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