もう一度だけ

clear

文字の大きさ
上 下
5 / 5

感情

しおりを挟む
「幽霊って腹とかへるんすか?」

「へらない。んーとねぇ?生理現象は、おきないらしいぜ」

「へー…便利ですね」

「なにが便利だ」

そう言って先輩は笑う。

「なに? 一緒に食べたかった??」

きっと笑かしてくれているのだろう。でも、素直に笑うことができるはずがない。

「別にっ……」

食べたいに決まっている。先輩のために料理を作って、そして先輩においしいって言ってもらえて、先輩と一緒ににご飯を食べる。どれだけ待ち望んだことだろうか。
あの頃はまだ0.01%あったその可能性さえも、今や0だ。そんな妄想を抱くことさえ胸が苦しくなる。

「つばさーーっ」

不意にそんな声が聞こえた。。今は一人で(二人で)晩御飯の買い出しにきている。大きなお店のため、同じ学校の奴がいてもおかしくない。

「翼!! どうしたんだ!? 怪我治ったのか?」

その声の主は、葉山 叶(ハヤマ カナウ)。同じ大学でバレーをしている。気のあうヤツだ。
そんなことよりも__。

「葉山、ちょっと悪ぃ。また今度」

事態がまずくなる前に……。

「え?お…おう」

聞かれてしまっただろうか。後ろめたい気持ちが体中を駆け巡る。

……………………。沈黙が続く。この気まずいくれて雰囲気から脱しようと、口を開こうと試みたその時だった。 先に口を開いたのは先輩だった。

「怪我……してんのか?」

「あぁ、軽くひねってしまっただけですよ。なんでもありませんから」

先輩が厳しい目でこちらをにらむ。俺と先輩はずっと一緒にいたのだ。俺は先輩に嘘をつくことができたことがない。バレたか、とひと息つくと、

「実は、腰をやったんです。ヘルニアだって。バレー続けるんだったら、2年くらいのリハビリが必要なんです」

「行ってるのか?」

「いや、もういいかなーって。勉強に専念しようと思ってます。別にバレーが人生の全てじゃないですしね」

「…いいのか? 本当に?」

(俺のバレーをやる意味は先輩だったんですよ)

なんてことは言えない。

「別に…」

適当に流すと、また再び沈黙に陥った。



買い物から家に帰ってきても、沈黙は続いたままだった。

先輩がお目の前に現れてから、明後日で2週間になる。先輩が見える状態が続くのもあと2日だ。


しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...