ぷちラブ、とラブる~臨床検査技師は辛いよ~

今晩葉ミチル

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新たに覚える事

頑張る!

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 光輝と話していると職場に着くのはあっという間だった。
「もう着いちゃった」
 梨花が残念そうに言うと、光輝も溜め息を吐いた。
「会話をしていると早いね。時間が経つのを忘れたよ」
「そうだね、楽しかったね!」
 梨花が笑顔を見せると、光輝はいぶかしげに首を傾げた。
「本当に楽しかった? 僕が勉強した内容を語っただけだった気がするけど」
「そ、それはそうだけど……光輝君の熱心さが分かって良かったわ」
「そんなに良い事を言ったっけ?」
 光輝がとぼけた口調になると、梨花は思わず笑ってしまった。

「未来の患者さんのために頑張りたいとか言っていたでしょ」

「ああ、そういえば! 梨花の前だとついつい熱くなる」

 光輝は頬を赤らめながら頭をかいていた。照れ隠しだろう。
「日頃語る場がないのもあるけど、自分の気持ちを口にできて嬉しかったんだ。ありがとう」
「こちらこそ、いろいろ教えてくれてありがとう。またお話したいわ」
「そうだね。一緒に喫茶店に行きたいし!」
 思わず笑いがこみあげたのは同時だった。
 互いに相手が笑うから、さらに幸せな気持ちになる。
 しかし、仕事の事を忘れてはいけないだろう。
「じゃあね、梨花。今日は泣かされないようにね」
「う、うん。頑張る!」
 光輝は爽やかな笑顔で、梨花は耳まで真っ赤になりながら、病院の出入り口で手を振って互いの持ち場に行く。


 時間に余裕を持って出発したつもりだったが、更衣室の時計を見ると、始業時間までギリギリだ。
 慌てて着替えてMRI検査室に行くと、すでに樹と技師長がいた。
 樹は椅子に座り、技師長はMRI操作画面の前に座っていた。
 梨花は荒い息でMRI検査室の時計を見る。
「なんとか間に合いましたか!?」
「俺に聞くな」
 技師長がつっけんどんに言った。
「昨日は遅刻して、今日もギリギリで。社会人としての自覚があるのか疑う」
「す、すみません」
「それと、昨日俺が貸したおやつ代は払ってもらえるのか?」
「あ……」
 梨花は呆然とした。
 昨日の昼休憩時はご飯が食べられなかった。技師長の特別な厚意でコンビニに行って抹茶ティラミスを買う事ができたのだ。
 その時におごりじゃないと言われたが、すっかり忘れていた。
「……お昼休みの時に渡してもいいですか?」
「また忘れないか?」
「えっと……」
 梨花はどもった。
 忘れない自信は無かった。
 困り果てていると、樹が紙キレとペンを差し出す。
「覚えるのが大変ならメモを取ればいいと思う」
「ありがとう!」

 梨花は紙キレにでかでかとおやつ代を返す! と書き込んだ。

「これはこれで恥ずかしいな」
 技師長は溜め息を吐く。
「朝から異常所見が見つかるし、最悪だ」
「異常所見だったのですね!」
 樹が立ち上がって画面を凝視する。
 梨花も黒縁眼鏡を整えて画面を見た。
 そこには、血管の画像が出ていた。前大脳動脈が上部に描出される角度で表示されていた。前大脳動脈から徐々に下方を見ていくと、横には左右に中大脳動脈が広がり、縦には左右それぞれの内頚動脈につながっている。左右の内頚動脈の間に脳底動脈がある。脳底動脈は枝分かれしている。
 画像を凝視すると、枝分かれした右側に膨らみがあった。
「椎骨動脈ね。光輝君が教えてくれたわ」
 梨花は手に汗を握りながら膨らみを見つめた。
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