2 / 41
プロローグ
プロローグ2~王子、倒れる~
しおりを挟む
メリッサはブレイブを引いて走る。できるだけ戦場から離れるように、アリアと一緒にいたい気持ちを振り切るように。
ブレイブは泣き叫んでいた。
「ねぇアリアは!? 助けないのか!?」
「こうするしかありません。お願いです、聞き分けてください!」
メリッサは吐き捨てるように言っていた。
ブレイブはわめく。
「僕は軍事国家サンライト王国の王子なのに何もできないのか!?」
「あなたはみんなの希望の光となります。今はどうか生き延びて……!?」
生き延びてください。
そう言いかけたメリッサの口から悲鳴があがる。
ブレイブの喉にナイフが貫通していた。ダークが投擲したものだ。
ブレイブは両目を見開いたまま倒れた。
メリッサはしゃがみ、急いで止血したが、ブレイブの呼吸は戻らなかった。
メリッサは両肩を震わせた。
「ひどすぎます……こんなに幼い子供を」
「生きていると反乱の旗頭に使われる危険があったからな。ルドルフ皇帝の命令もあったし、殺すしかなかったぜ」
ダークはゆったりと歩きながら、何の気もなく言っていた。
「アリアという女が倒れている。そっちはまだ殺していないぜ」
「……私たちをどうするつもりですか?」
「表立って逆らわないなら、どうもしないぜ。ここで敵討ちをするつもりなら仕留めるだけだ」
ダークは足を止めて、口の端を上げる。
「すぐに敵討ちを試みるか、別の機会を窺うか。てめぇらに心からの忠誠なんて期待しねぇから、好きな方を選べよ」
「さすがは悪逆皇帝ルドルフの部下、ローズ・マリオネットですね。おっしゃる事が冷酷すぎます」
メリッサは、皮肉を込めた言葉を返すのが精いっぱいだった。
ダークは腹を抱えて笑った。
「悪逆皇帝か! いい二つ名だ、よく考えたな!」
「……皆さんそう呼んでいますよ」
メリッサは震えながら、冷たくなったブレイブを抱える。
「本当に、おいたわしい……」
「戦場なんてこんなもんだ」
ダークは二ヤついていた。
メリッサの瞳から涙がこぼれる。
「私があなたと戦っても、無駄に死ぬだけでしょう。逆らいません。どうかブレイブ王子のお墓を作らせてください」
「いいぜ。手短にな」
一国の王子の葬儀もまともにできない。
メリッサは悔しくて言葉が出なかった。
辺りはいつの間にか静かになっていた。王城を飲み込んでいた漆黒の地獄も、消えていた。
この時に、ブレイブの亡き骸から白い靄が出ていた。靄が月明りに導かれるように浮かんでいったのを、誰も気づいていなかった。
その靄がブレイブの魂などとは、誰も考えつきもしなかった。
ブレイブは泣き叫んでいた。
「ねぇアリアは!? 助けないのか!?」
「こうするしかありません。お願いです、聞き分けてください!」
メリッサは吐き捨てるように言っていた。
ブレイブはわめく。
「僕は軍事国家サンライト王国の王子なのに何もできないのか!?」
「あなたはみんなの希望の光となります。今はどうか生き延びて……!?」
生き延びてください。
そう言いかけたメリッサの口から悲鳴があがる。
ブレイブの喉にナイフが貫通していた。ダークが投擲したものだ。
ブレイブは両目を見開いたまま倒れた。
メリッサはしゃがみ、急いで止血したが、ブレイブの呼吸は戻らなかった。
メリッサは両肩を震わせた。
「ひどすぎます……こんなに幼い子供を」
「生きていると反乱の旗頭に使われる危険があったからな。ルドルフ皇帝の命令もあったし、殺すしかなかったぜ」
ダークはゆったりと歩きながら、何の気もなく言っていた。
「アリアという女が倒れている。そっちはまだ殺していないぜ」
「……私たちをどうするつもりですか?」
「表立って逆らわないなら、どうもしないぜ。ここで敵討ちをするつもりなら仕留めるだけだ」
ダークは足を止めて、口の端を上げる。
「すぐに敵討ちを試みるか、別の機会を窺うか。てめぇらに心からの忠誠なんて期待しねぇから、好きな方を選べよ」
「さすがは悪逆皇帝ルドルフの部下、ローズ・マリオネットですね。おっしゃる事が冷酷すぎます」
メリッサは、皮肉を込めた言葉を返すのが精いっぱいだった。
ダークは腹を抱えて笑った。
「悪逆皇帝か! いい二つ名だ、よく考えたな!」
「……皆さんそう呼んでいますよ」
メリッサは震えながら、冷たくなったブレイブを抱える。
「本当に、おいたわしい……」
「戦場なんてこんなもんだ」
ダークは二ヤついていた。
メリッサの瞳から涙がこぼれる。
「私があなたと戦っても、無駄に死ぬだけでしょう。逆らいません。どうかブレイブ王子のお墓を作らせてください」
「いいぜ。手短にな」
一国の王子の葬儀もまともにできない。
メリッサは悔しくて言葉が出なかった。
辺りはいつの間にか静かになっていた。王城を飲み込んでいた漆黒の地獄も、消えていた。
この時に、ブレイブの亡き骸から白い靄が出ていた。靄が月明りに導かれるように浮かんでいったのを、誰も気づいていなかった。
その靄がブレイブの魂などとは、誰も考えつきもしなかった。
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜
仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。
森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。
その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。
これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語
今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ!
競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。
まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
転生したら人気アイドルグループの美人マネージャーになって百合百合しい展開に悩まされている件
きんちゃん
ファンタジー
アイドル、それも国民的人気グループともなれば、毎日楽しく活動して、周りからもチヤホヤされて無敵の日々でしょ?ルックスだけで勝ち組の彼女たちに悩みなんてあるわけがない!
……そんな風に思っていた時期が俺にもありました。いざ内部に入ってみると、結構……いや、かなり大変です。
松島寛太。地味ながらも人のために一生懸命働いてきた彼だけれど、結局それが報われることはなかった。
しかし哀れに思った天使が生まれ変わることを認めてくれるかもしれない?認められた条件は「大人気のアイドルグループのために人生を捧げる」ということだった。……自分自身いまいちピンと来ていない条件だったが……いや、捧げるってのはどういう意味なの?
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる