悪逆皇帝の息子に転生した亡国の王子、パパの権力とママの溺愛でいつの間にか世界を救う!?

今晩葉ミチル

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本編

昼食のひと時

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 従者たちに見守られながら、僕たち皇帝一家はトマトソースで味付けしたペンネを口にする。薄味だけど、トマトのうま味がよく分かる。
 完食すると、先に食べ終えたローズベルが拍手をした。
「シリウスちゃんは、いつも食事を残さないから偉いわ!」
「大げさだよ、ママ。出されたものはちゃんと食べなくちゃ」
「まぁ! 素晴らしい心がけね! 感動して涙が出るわ」
 ローズベルはハンカチを取り出して、目元を拭いている。
 本当に涙が出たんだ。
 僕は笑顔を見せるべきんだろうけど、不器用に笑う事しかできない。
 そんな僕たちの会話を聞きながら、ルドルフは鷹揚に頷いていた。
「そうだよな。出されたものはしっかりと食べなければならない。ゆっくり味わうのが、食事に対する最大の礼儀だ」
「あなたはもっと早く召し上がってください。シリウスちゃんを待たせていますよ」
 ローズベルにせかされるが、ルドルフが急ぐ様子はない。ペンネを鼻に近づけて香りを楽しみ、ゆっくりと口に運ぶ。口に入れた後も、ゆっくりと嚙んでいた。
 僕は苦笑する。

 思えば不思議なものだ。

 サンライト王国がダーク・スカイに滅ぼされた日に、僕はサンライト王国の王子ブレイブ・サンライトから、悪逆皇帝の息子シリウスに生まれ変わった。

 ダークは恐ろしい相手だった。しかし、意外と根はいい人なのかもしれない。彼の処刑を防げたのは、心底嬉しくなった。
 本当は敵なのだろうけど……いつか戦うかもしれないと思うと、油断ならない。
 それに、サンライト王国がどうなっているのか心配である。今はエリックという人が担当しているらしいけど。
 僕が知る方法は限られている。
 一か八か聞いてみよう。

「そういえば、ママ。サンライト王国の奴隷たちはどうなったのかな?」

 前世の僕を守ってくれていたアリアもメリッサも、奴隷にされたと聞いた。解放するように言ったけど、続報を聞いていない。
 まだ奴隷にされていたらどうしよう。
 そんな僕の心配をよそに、ローズベルは胸を張った。

「シリウスちゃんの言うとおり、ちゃんと解放したわ。彼らは自由を手に入れたのよ」

「そうなんだ、ありがとう! ママ大好き!」

 良かった、本当に良かった!
 僕が感激して万歳をすると、ローズベルは歓声をあげて万歳をした。
「大好きだなんて! 嬉しくて天にのぼりそうだわ、もう死んでもいいわ!」
 ローズベルのテンションがいつもより高い気がする。心なしか、輝いて見える。
 ルドルフは笑った。
「俺だって大好きだぞ」
「あら、ありがとうございます。早くペンネを食べ終えてください」
 ローズベルのテンションは戻ったようだ。
 僕もローズベルも万歳をやめていた。
 ルドルフは苦笑して、ペンネを平らげた。
 ローズベルは悩まし気に溜め息を吐く。
「ルドルフ皇帝、お食事の後で申し上げるべき案件ではありませんが、早急にお伝えしたい事があります」
「食後だとまずい話題……下ネタか」
「下ネタなんてお伝えしません」
 ローズベルは呆れ顔になった。
「会議に持ち込むべき案件という意味合いです。南部地方の生産性が落ちたせいで、産業の滞りが見られるようです」
「そりゃ大量の奴隷を解放したからな。エリックだけのせいじゃないだろう」
「一時的なものと考えて、私からエリックに無理しないように伝えましたが、新たな奴隷を確保するべきでしょうか?」
「そうだな、人手は欲しい」
 え?
 多くの人をまた奴隷にするのか?
「それは良くないよ、きっと他に方法があるよ!」
 冷静に言うつもりだったのに、僕の口調は激しくなっていた。
 ローズベルは困り果てているようだけど、僕が譲る気はない。
「産業を奴隷任せにするのはマズイよ!」
「でもね、シリウスちゃん。リベリオン帝国の産業が滞って、様々な問題が出ているの。国民の服や家が足りなくなっているのよ。食事だって満足にできない人もいるし」
「それは……新たな資金源や労働力ができればいいと思う」
 言ってみたものの、具体的な案は浮かばない。
 ルドルフは両手を組んで、顎を乗せていた。

「リベリオン帝国を手助けしてくれる人が増えて、労働力になってくれるといいけどな」

「そうだ、それだよ。それで考えようよ!」

 僕の声は明るくなった。
「ローズ・マリオネットたちにも相談しようよ!」
「シリウスちゃんが言うのなら、やってみようかしら」
 言ってるそばから、ローズベルは左胸の赤い薔薇のブローチに触れる。
 ブローチは淡く輝く。
「ダーク・スカイ、リベリオン帝国に新たな手助けが増えるように手配しなさい」
「どういう事ですか?」
「そのままの意味よ。じゃあお願いね」

 どう考えてもダークが納得したとは思えないけど、ローズベルは一方的に連絡を切っていた。

「シリウスちゃん、たまにはママと遊びましょう」
「う、うん」
 僕は笑顔を作るけど、ぎこちない返事をするしかなかった。
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