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本編
危険な人物
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黒い薔薇のブローチが淡く輝く。連絡がついた証だ。
ダークが口を開く。
「グレイ、時間はあるか?」
「ああ、ダークさん。ちょうど良かったです。僕からお話ししたい事があります」
ダークは僕に視線を向ける。
僕は頷いた。
「いいよ。先にグレイの話を聞こう」
「おや? そばにどなたかいらっしゃるのですか?」
小声のつもりだったけど、僕の声がグレイに聞こえたのだろう。
ブローチの音を拾う能力は、かなり優秀なようだ。
ダークが促す。
「まずはグレイから話していいらしいぜ。何があった?」
「ミーティア地方の領主だったカインを逃しました」
グレイの報告を受けて、ダークの表情が見る間に険しくなる。切れ長の瞳はギラつき、殺気を放っている。
ダークの声が一段と低くなる。
「詳しく聞かせろ」
「リベリオン帝国の南西部でカインを発見し、捕まえようとしたのですが、ワールド・スピリットの使用を控えて他の人間たちに任せた所、取り逃しました」
「どの方向に行った?」
「南部地方に向かったと思われます。エリックさんには伝達済みです」
ダークは溜め息を吐いた。
「緊急事態だな」
「カインはそんなに危険な人物なのか?」
僕が尋ねると、ダークは舌打ちをした。
「リベリオン帝国に力がなかった頃に、散々引っ掻き回してくれました。あの恨みは一生忘れません」
「ダークさん、僕からの報告は以上です。そちらからお話しがあるようですが、どうしましたか?」
グレイが僕たちを気遣っている。
僕は迷った。
ローズ・マリオネットたちには、戦いや奴隷に頼る産業をやめてほしいと思う。しかし、カインという人物は放っておけないようだ。
「君とはいつかお話ししたいけど、カインの事を優先してくれ」
「ありがたきお言葉ですが、どなたでしょうか?」
そういえば名乗り忘れていた。
「シリウスだよ。リベリオン帝国の皇子だよ」
サンライト王国の王子ブレイブ・サンライトの記憶があるけど。
グレイは、え!? と一瞬だけ驚いたようだが、すぐに元の穏やかな口調に戻る。
「光栄です。名乗り遅れましたが、リベリオン帝国北西部担当者グレイ・ウィンドです。ローズ・マリオネットの一員を務めております」
「同じくリベリオン帝国北西部担当者ナイト・ブルー。ローズ・マリオネットの一員」
抑揚のない少女の声もした。ナイトはグレイのそばにいるようだ。
ローズベルは深々と頷いた。
「いつかみんなで直接会いたいわね。さぁ、今はカインを捕まえる事に集中しましょう。グレイ、ナイト、よろしくね」
「承知しました」
グレイとナイトの声が重なった。
ダークは僕に視線を向ける。
「連絡を切ってもよろしいですか?」
「うん、ありがとう」
ダークはブローチから手を放した。ブローチの光は消えた。
僕は早速問いかける。
「カインってどんな人なの?」
「もとはミーティア地方を治める家系の人間でした。ミーティア地方は、現在のリベリオン帝国北部に位置しますが……かつてリベリオン帝国の中央部まで軍を率いて攻め込んできました」
「ええ!?」
リベリオン帝国の中央部が攻め込まれたのか!?
ダークは苦々しい表情になる。
「ルドルフ皇帝がご両親のワールド・スピリットで蘇生された事はお話ししましたね?」
「うん。パパは雪崩に巻き込まれて死んだけど、奇跡的に生き返ったんだよね。その時に、多くの人が犠牲になったのも聞いているよ」
ダークは瞳をギラつかせて頷いた。
「その数日後の事です。カインがリベリオン帝国の中央部に、軍隊を引き連れてきました。中央部の知識と資源を自由に使わせるように要求してきました。世界を混乱に陥れた償いをしてほしいという言葉と共に」
「足元を見られたんだね」
なんとも気の毒な話だ。
ダークは両肩を震わせた。
「ルドルフ皇帝は中央部でなく、ルドルフ皇帝自身を自由に使ってほしいと要求しましたが、受け入れられませんでした。当時はルドルフ皇帝のご両親を含めて、闇の眷属の要人の多くが命を落としていました。戦える人間はごく僅かでした。多勢に無勢を食らい、ルドルフ皇帝も敗走を余儀なくされました」
「敗走って……パパは中央部から離れたのか?」
僕の疑問に、ダークは頷いた。
「俺が無理矢理連れ出しました。散々文句を言われましたが、その場にいても無駄に殺されるのが分かりきっていました。その後の日々は語りたくないほどの地獄でした」
「……君もその地獄にいたんだね。詳しく話さなくていいけど、気の毒に」
「お気遣い感謝いたします」
ダークは恭しく礼をした。
「カインは、中央部に伝わる知識や資源をうまく使いこなせなかったようです。腹いせに闇の眷属を虐げたとも聞いています。いっそ雪崩に巻き込まれてくれれば良かったのですけどね」
「そんな人がいるのか……早く捕まえたいね」
「カインを捕まえるまで、ワールド・スピリットを解禁した方が良いかもしれません」
ダークの提案に、僕は頷いた。
「分かったよ。ワールド・スピリットの使用を認めるよ。ただ、人々を恐怖に陥れるような使い方はしないでね」
ローズベルも頷いた。
「地方担当者たちにも連絡しておいて」
「承知しました。エリックとグレナイ、念のためにシルバーに伝えておきます。お時間を割いてくださりありがとうございました」
ダークは深々と一礼して、歩き去る。
ローズ・マリオネットの有り様を話し合うのは、また今度にしよう。
ダークが口を開く。
「グレイ、時間はあるか?」
「ああ、ダークさん。ちょうど良かったです。僕からお話ししたい事があります」
ダークは僕に視線を向ける。
僕は頷いた。
「いいよ。先にグレイの話を聞こう」
「おや? そばにどなたかいらっしゃるのですか?」
小声のつもりだったけど、僕の声がグレイに聞こえたのだろう。
ブローチの音を拾う能力は、かなり優秀なようだ。
ダークが促す。
「まずはグレイから話していいらしいぜ。何があった?」
「ミーティア地方の領主だったカインを逃しました」
グレイの報告を受けて、ダークの表情が見る間に険しくなる。切れ長の瞳はギラつき、殺気を放っている。
ダークの声が一段と低くなる。
「詳しく聞かせろ」
「リベリオン帝国の南西部でカインを発見し、捕まえようとしたのですが、ワールド・スピリットの使用を控えて他の人間たちに任せた所、取り逃しました」
「どの方向に行った?」
「南部地方に向かったと思われます。エリックさんには伝達済みです」
ダークは溜め息を吐いた。
「緊急事態だな」
「カインはそんなに危険な人物なのか?」
僕が尋ねると、ダークは舌打ちをした。
「リベリオン帝国に力がなかった頃に、散々引っ掻き回してくれました。あの恨みは一生忘れません」
「ダークさん、僕からの報告は以上です。そちらからお話しがあるようですが、どうしましたか?」
グレイが僕たちを気遣っている。
僕は迷った。
ローズ・マリオネットたちには、戦いや奴隷に頼る産業をやめてほしいと思う。しかし、カインという人物は放っておけないようだ。
「君とはいつかお話ししたいけど、カインの事を優先してくれ」
「ありがたきお言葉ですが、どなたでしょうか?」
そういえば名乗り忘れていた。
「シリウスだよ。リベリオン帝国の皇子だよ」
サンライト王国の王子ブレイブ・サンライトの記憶があるけど。
グレイは、え!? と一瞬だけ驚いたようだが、すぐに元の穏やかな口調に戻る。
「光栄です。名乗り遅れましたが、リベリオン帝国北西部担当者グレイ・ウィンドです。ローズ・マリオネットの一員を務めております」
「同じくリベリオン帝国北西部担当者ナイト・ブルー。ローズ・マリオネットの一員」
抑揚のない少女の声もした。ナイトはグレイのそばにいるようだ。
ローズベルは深々と頷いた。
「いつかみんなで直接会いたいわね。さぁ、今はカインを捕まえる事に集中しましょう。グレイ、ナイト、よろしくね」
「承知しました」
グレイとナイトの声が重なった。
ダークは僕に視線を向ける。
「連絡を切ってもよろしいですか?」
「うん、ありがとう」
ダークはブローチから手を放した。ブローチの光は消えた。
僕は早速問いかける。
「カインってどんな人なの?」
「もとはミーティア地方を治める家系の人間でした。ミーティア地方は、現在のリベリオン帝国北部に位置しますが……かつてリベリオン帝国の中央部まで軍を率いて攻め込んできました」
「ええ!?」
リベリオン帝国の中央部が攻め込まれたのか!?
ダークは苦々しい表情になる。
「ルドルフ皇帝がご両親のワールド・スピリットで蘇生された事はお話ししましたね?」
「うん。パパは雪崩に巻き込まれて死んだけど、奇跡的に生き返ったんだよね。その時に、多くの人が犠牲になったのも聞いているよ」
ダークは瞳をギラつかせて頷いた。
「その数日後の事です。カインがリベリオン帝国の中央部に、軍隊を引き連れてきました。中央部の知識と資源を自由に使わせるように要求してきました。世界を混乱に陥れた償いをしてほしいという言葉と共に」
「足元を見られたんだね」
なんとも気の毒な話だ。
ダークは両肩を震わせた。
「ルドルフ皇帝は中央部でなく、ルドルフ皇帝自身を自由に使ってほしいと要求しましたが、受け入れられませんでした。当時はルドルフ皇帝のご両親を含めて、闇の眷属の要人の多くが命を落としていました。戦える人間はごく僅かでした。多勢に無勢を食らい、ルドルフ皇帝も敗走を余儀なくされました」
「敗走って……パパは中央部から離れたのか?」
僕の疑問に、ダークは頷いた。
「俺が無理矢理連れ出しました。散々文句を言われましたが、その場にいても無駄に殺されるのが分かりきっていました。その後の日々は語りたくないほどの地獄でした」
「……君もその地獄にいたんだね。詳しく話さなくていいけど、気の毒に」
「お気遣い感謝いたします」
ダークは恭しく礼をした。
「カインは、中央部に伝わる知識や資源をうまく使いこなせなかったようです。腹いせに闇の眷属を虐げたとも聞いています。いっそ雪崩に巻き込まれてくれれば良かったのですけどね」
「そんな人がいるのか……早く捕まえたいね」
「カインを捕まえるまで、ワールド・スピリットを解禁した方が良いかもしれません」
ダークの提案に、僕は頷いた。
「分かったよ。ワールド・スピリットの使用を認めるよ。ただ、人々を恐怖に陥れるような使い方はしないでね」
ローズベルも頷いた。
「地方担当者たちにも連絡しておいて」
「承知しました。エリックとグレナイ、念のためにシルバーに伝えておきます。お時間を割いてくださりありがとうございました」
ダークは深々と一礼して、歩き去る。
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