Venus And The SAKURA

魔王国編

0064 ムッタ・ゴランの弟子入り志願①

ハロウィンも終わり、今日から日本は１１月。それでも、お祭りの余韻はなかなか冷めない。
「今日は、何処に連れて行ってくれるの？ごしゅじんさまぁ～」とリリアがねだるのだが・・・。
「すまん、今日は玲子に色々連れて行って貰え。俺の代わりはコピーに任せる！」
「何処に行くの？行き場所ぐらい言いなさいよね！」玲子が聞いてくる。
「ああ、実家に帰ろうかと思うんだ。」
「あれ？異世界に行ってホームシックになっちゃった？」玲子のいたずら顔が可愛い。
「違うよ。棟梁との約束を果たすために行くんだよ。」
「約束って、お義父さんの弟子入りの事？」
「ああ、これでもウチの親父は日本で一番の刀匠だからな！その点は満点だ！」
「そもそも、お義父さんは承諾してくれるかしら？」
「ん～、そこは棟梁に頑張って貰わないとね。」

「サリーナ、どこだ？」
「ここだ・・・。」ソファーの裏に積み上げたクッションの中からサリーナが這い出して来る。
「よく、眠れたな。」いくらオウカの家が広いと言っても、５０人も入ればというよりも、ここは、広さを称えないといけない部分なのかもしれない。

「途中までは覚えていたのだ。いたのだが、痛！」サリーナが頭を抱えてうずくまる。
「誰かに殴られたんだよ、この女神が！ここにいる誰かにな！」

オウカはㇲっと手を上げ、「スマン、それ俺だわ。」
「何だとー！お前、わらわが全回復させてやった恩義を感じとらんのかぁー！」
「恩義を体で返してもらおうとするな！日本の夜ぐらい、静かに寝させろ！」
「オウカと会えるのは、日本だけだと言うのに・・・オウカのバカー！」
「ゴメン、殴るのはやりすぎた、これからはちゃんとするからさ怒らないでよ。」
「じゃあ、許してあげる」サリーナが目を閉じ唇を差し出してきた・・・。
「れ、玲子。しばらくあっち向いてて。」
「あら、いいじゃない！私は気にしないわよ！」
「正妻の目の前で、別の女？女の子とキスできるか！」
「はいはい。」玲子はキッチンに消えた。

俺は恐る恐る、サリーナの唇に顔を寄せる。唇は半開きになり、オウカを待っている。
唇が触れそうになった瞬間、パチッとサリーナが目を開けた！
俺は、慌てて後ずさり、手を当てなくても分かるぐらいに顔が熱いことを感じ取る。
「ギャハハハ！オウカのキス顔、見てやったぞ！」サリーナがオウカの顔真似をしている。
「わらわの唇は安くはないぞ！どうしてもしたければ、わらわの足にキスをするんだな！痛！」
「テメー！もう、キスしてやらんからな！」と握りこぶしを硬くする。
「あら、今まではしてたんだ。」と玲子が顔をだす。
「「お、おう・・・。」」俺とサリーナは少し照れくさくなってしまった・・・。

「そんな事よりもだ！サリーナ、頼みがある！」
「解っとるよ。ドワーフに日本語を話せるようにすればいいんだろ。」
「話が早くて、助かるぜ！」

俺と棟梁は新幹線に乗っていた。馬よりも速い馬車があるのか！と棟梁は子供のように大はしゃぎ。気持ちは解らんでもないけど。

最寄り駅で降り、タクシーで移動。これも棟梁からすれば、どうやって動くのか？疑問らしい。それも気持ちは解らんでもないけど。

実家に帰って、棟梁を紹介する。
「ほら、さっき言った通りにやるんだよ！」
「そんな事、言われても、正座ってやったことがないんだぜ、兄ちゃん。」
「刀の打ち方を勉強したいんでしょう！頑張りなよ！」
「う、うむ。そうだな・・・。やるしかないか。」
「それとな棟梁。」
「なんだ？」
「俺の親父は頑固なうえに超が付くほどの怖い人だから、失礼のないようにね。」
「わ、解っとる！」

廊下を歩く足音が響いてくる。
「桜花、お帰り。」親父だ。
「お帰りなさい。」母親はスマイルだ。
「・・・・」棟梁は親父の迫力にすでに負けている！このままでは、まずい！
「ほら、自己紹介をして！」俺が棟梁に耳打ちをする。
「は、はじめ、まし、て・・おれ、いや、私はムッタ・ゴランと申します。」
「まぁ、外国の方なのね！」と母親は、場の空気を和らげようとしてくれている。
「はら、お茶菓子を渡して！」またもや俺の耳打ち。
「これは、つまらん物ですが・・・どうぞ、お納めください。」
「日本語、お上手ですのね！それに礼儀正しいわ～ねぇ、あなた！」
「・・・・」親父は表情ひとつ変えない。
「ほら、言いたいことを言わないと・・・」
「私を弟子に・・」
「断る。」親父は即答した。