アステラ教団

アの人

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アステラ教団最終入団試験

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「さて………諸君。最終入団試験にようこそ。まずはここまでやって来たことに賞賛を送ろう。」

静かに、ただ一人、
上級聴罪司祭試験監督が手を叩く。

一定の、緩やかなリズムにのって。

拍手。普通のそれとは似ても似つかない、心臓の拍動に似たリズムだ。
パチドクンパチドクンパチドクン
たった二人になった入団候補生の緊張を高めるには十分な音色だ。

唐突に拍手がピタリと止む。上級聴罪司祭がギロリと睨む。

「君達はこれまでの試験において
十分な才覚を発揮したように思う。
しかし、我らは未だ危惧しているのだ。」

「汚らわしい異教徒、狂神、凶神を
崇める愚者、裏切り者、穢らわしき者が居ることを!」

ゴクリと唾を飲み込む。
上級聴罪司祭が静かに分厚い本を取り出し、机の上に慎重に置いた。
ドス黒い表紙のカビ臭い本だ。
しかし、入団候補生ならこれがどれ程の価値を持つかは知っている。
我らをお救いになった大聖人様の言葉が書かれた”聖書”の原本だ。
上級聴罪司祭は静かに言葉を並べる。

「諸君。終焉紀、第二節。
小聖人様は偉大なるこの書物を掲げ、何とおっしゃられたか!」

「「”救いはこの中に”!」」

「如何にも!

救いは………この!」

聖書に手を置く。
そして、

「…………中に!」

開く。
中には文字などひとつもなく、
ただひたすらにドス黒い空間が広がっていた。
真ん中はくり貫かれ、そこに…………矢が置いてあった。
金色の矢軸、鏃は色褪せぬ紅に染まっている。
大聖人様の最期を知っているものは、
皆、これが何かを知っている。

「何人にも縛られぬ、己が信仰を大聖人様に示せ!」

何も考えない。一気に足を踏み込み、加速する。
相手も同様だ。極限まで手を伸ばす。
だが....遅い。
右手に矢が深々と突き刺さる。

苦痛で思わず叫ぶ。
しかし、愚かだ。手の甲など
勝負を焦ったのだろうが、手の甲に深々と刺さったそれは、
追撃せんとする相手の勢いをただただ阻害する。
右腕を無理矢理動かし、相手の手から黄金の矢を無理矢理に奪う。
そして右手に刺さったその矢を引き抜き、相手の顔に振り下ろおろす。

血液が舞う。相手が暴れる。
押し倒す。相手は頭を打ち、物も言わなくなる。
引き抜き、また振り下ろす。
ガラス体が破られる。気絶を破られた手足が目的もなく宙を蹴る。
引き抜き、また振り下ろす。
また血液が舞う。手足も何もかもが動かなくなる。
引き抜き、また振り下ろす。
引き抜き、また振り下ろす。
引き抜き、また振り下ろす.....。


そして立ち上がる。紅く光る矢をフラフラとした手取り足取りで聖書に納める。
眩暈がする。右手から流れ落ちる血液が冷たく指先から流れ落ちる。
膝をつき、地に伏す。
目を閉じる前、最後に見えたのは、誰の血かも何かもわからない赤い色を踏みにじる靴だけだ。

『救いは、確かに、この中に。祝福しよう。我が兄弟。
我と我が教団は君の信仰を、歓迎する。』
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