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最終話 晴天の落雷
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ヌナルの迷宮から帰った俺は、予言者ジュロームにだけ、話の一部を伝えた。
この世界のシステムについては創造神様より他言無用とされているので、かなり端折ってね。
「神様が人と語らうための祭壇、とな」
その事にはさすがのジュロームさんも驚いていたけど、
「とは言っても、人間からは話し掛けられないらしい。
そこはあくまで、神託を、神様の言葉を生身で受け止められない人間が、神様の言葉を受け止められるようにするための物だから。
つまり、ジュロームさんみたいに神託を受けられる人にとっては、全然無意味。
ジュロームさんがいつでもどこでも運命神様から神託を受けられる事を、他の人間は祭壇まで行かないと出来ないってだけ。
でもって神託で事が足りるから、神様も人間を祭壇に呼び出すのは数百年ぶりとか言っていた」
「それは……はぁ~、驚天動地の大発見じゃが、役立てる機会は無さそうじゃな」
あまりの使えなさに、落胆していた。
「預言者仲間、そして神託を授かれる者への情報共有、くらいでしょうか?
まあ、同じような事例が次に出てくるのが何年後か判りませんが。
少なくとも寺院とかに報告しても無意味でしょうね」
「そうじゃの」
ちなみにダンジョン探索者ギルドへは、ヌナルの迷宮の地下10階に祭壇のフロアが在ったとだけ報告し、そこが最下層かどうかは言及していない。
俺がダンジョンを踏破した、なんて思われても困るからね。
実際、俺は目的地である祭壇まで行って帰って来たので、地下11階より下が在るか無いかの確認なんてしていないし。
「それで、神様からの話とは何だったのかね?
あ、余人に漏らせない内容であれば、無理には聞かぬが」
「話というよりは、封印処置ですね。
俺には世界を危険に晒す力のカケラ、みたいなものが宿っていたみたいで。
まあ、バラバラにした禁書の一切れみたいなモノを想像して貰えれば。
それのみでは危険は無いけれど、悪用を目論む者が全部のカケラを集めたら世界が危険、という感じで。
その封印を行うために、俺自身があの祭壇に行かないといけなかったそうです」
作り話ではあるけれど、完全な嘘でもない。
実際、俺にはこの世界のワールドシステムに干渉する力があって、それを封じて貰ったわけだから。
「そうか。
急いでいるワケでもなく、しかしお前さん自身が祭壇に赴かねばならなかったのは、そういう事情じゃったか」
禁呪のカケラみたいなモノ、という例えで、納得してくれたようだ。
「話してくれて感謝する。
さて、儂はもう帰るとしよう。
お前さんはこれからどうするのかね?」
「まずは、今回の出費の穴埋めに、金稼ぎダンジョンで稼ごうと思ってますよ。
その後はまあ、気の向くままにという感じですね」
正確には、自分の使っていた『封邪戦鬼-孤独な退魔師』の術式や、『陰妖魔殿-邪忍をもって妖魔を制す』の邪忍術が、どんな風に変わってしまったのかの確認だけど。
今までウェストサイズで消耗度をチェックできていたのが、他の魔法と同じように疲労によって確認する事になるかも知れない。
全く違う物、例えば体温が低下するとかになっているかも知れない。
そうなっていた場合、まだベルトの位置がブルーラインだからと油断していたら、突然ぶっ倒れる事にもなりかねない。
だからまた、ダンジョンモンスター十数匹くらいの群れを見付けて倒して、何を消耗するのか、どこまでなら大丈夫でどこまでから危険なのか、調べ直しである。
「ここ1年近く、この町の周辺にあるダンジョンでしか活動していませんでしたから。
旅費が貯まったら、気分転換に他の町にでも行ってみようかと考えていますよ。
せっかくモンスター除けの機能が付いたテントまで買った事ですし、片道十数日掛かる距離に遠出するのもアリかな、とね」
ここがゲームの世界では無いと判った以上、ダンジョン探索者だけを続けている必要も無い。
地球に帰還、なんて可能性が無かったと判った以上、ダンジョンの町だけで一生を終えるのは勿体ない。
「観光ならギルニディ王都の大魔獣博物館と、ローニーア教国の大聖堂がオススメじゃ。
ただ物価はココの10倍以上なので、行くならそのつもりでの」
「ありがとう、候補に入れておきますよ」
「それでは達者でな、≪黒月の孤僧≫くん」
「そちらもお元気で、≪運命神の代弁者≫さま」
◆
「さて、それじゃあ少しだけ、はっちゃけますか」
あれから3ヶ月ほどが経ち。
ユニークスキルとして再調整された術式や邪忍術の検証を終え。
旅費を貯めて旅の物資を買い込んだ俺は、初めてダンジョン以外の場所に向けて旅立つ事にした。
ちょっと奮発して、しっかり護衛も付いている定期便の乗合馬車で王都へ――
行くはずだったのだが、何やら手強い野生の魔獣に襲われ、護衛が総崩れ状態。
で、仕方がなく俺の出番となったのである。
「ダンジョンモンスター以外と戦うのは初めてだからな。
手加減は、してやれないぞ?」
野生の魔獣は、神が作ったストレス発散用の疑似生命ではない。
正真正銘、この世界に根付いた『生命体』だ。
地球人の記憶が、倫理観が、生き物を殺すことに強い拒否反応を示す。
(でも、呑み込まなきゃな。
俺は、ゲームの中のキャラじゃないんだから。
ダンジョンと、ダンジョンの町だけの、閉じた世界から抜け出すと決めたんだから。
だから、この程度でビビるな)
自分自身を叱咤し、強気の態度を取って逃げ出したくなる気持ちを抑え込む。
(戦闘力は十分なんだ。
信じろ。
死体が残るだけで、戦いそのものは、ダンジョンモンスターを相手にするのと同じだ)
ダンジョンモンスターであれば、コレの同種は20匹以上倒している。
全長が20メートルはありそうな、強固な鱗と甲羅で身を護る魔獣アーマードラゴン。
俺はいつものように、と繰り返しながら一歩を踏み出した。
その日、晴天の街道に落雷があったと、何人もの旅人や商馬車隊が不思議そうに噂していたらしいが、それが俺の耳に届くのは暫く先の話だった。
<完>
この世界のシステムについては創造神様より他言無用とされているので、かなり端折ってね。
「神様が人と語らうための祭壇、とな」
その事にはさすがのジュロームさんも驚いていたけど、
「とは言っても、人間からは話し掛けられないらしい。
そこはあくまで、神託を、神様の言葉を生身で受け止められない人間が、神様の言葉を受け止められるようにするための物だから。
つまり、ジュロームさんみたいに神託を受けられる人にとっては、全然無意味。
ジュロームさんがいつでもどこでも運命神様から神託を受けられる事を、他の人間は祭壇まで行かないと出来ないってだけ。
でもって神託で事が足りるから、神様も人間を祭壇に呼び出すのは数百年ぶりとか言っていた」
「それは……はぁ~、驚天動地の大発見じゃが、役立てる機会は無さそうじゃな」
あまりの使えなさに、落胆していた。
「預言者仲間、そして神託を授かれる者への情報共有、くらいでしょうか?
まあ、同じような事例が次に出てくるのが何年後か判りませんが。
少なくとも寺院とかに報告しても無意味でしょうね」
「そうじゃの」
ちなみにダンジョン探索者ギルドへは、ヌナルの迷宮の地下10階に祭壇のフロアが在ったとだけ報告し、そこが最下層かどうかは言及していない。
俺がダンジョンを踏破した、なんて思われても困るからね。
実際、俺は目的地である祭壇まで行って帰って来たので、地下11階より下が在るか無いかの確認なんてしていないし。
「それで、神様からの話とは何だったのかね?
あ、余人に漏らせない内容であれば、無理には聞かぬが」
「話というよりは、封印処置ですね。
俺には世界を危険に晒す力のカケラ、みたいなものが宿っていたみたいで。
まあ、バラバラにした禁書の一切れみたいなモノを想像して貰えれば。
それのみでは危険は無いけれど、悪用を目論む者が全部のカケラを集めたら世界が危険、という感じで。
その封印を行うために、俺自身があの祭壇に行かないといけなかったそうです」
作り話ではあるけれど、完全な嘘でもない。
実際、俺にはこの世界のワールドシステムに干渉する力があって、それを封じて貰ったわけだから。
「そうか。
急いでいるワケでもなく、しかしお前さん自身が祭壇に赴かねばならなかったのは、そういう事情じゃったか」
禁呪のカケラみたいなモノ、という例えで、納得してくれたようだ。
「話してくれて感謝する。
さて、儂はもう帰るとしよう。
お前さんはこれからどうするのかね?」
「まずは、今回の出費の穴埋めに、金稼ぎダンジョンで稼ごうと思ってますよ。
その後はまあ、気の向くままにという感じですね」
正確には、自分の使っていた『封邪戦鬼-孤独な退魔師』の術式や、『陰妖魔殿-邪忍をもって妖魔を制す』の邪忍術が、どんな風に変わってしまったのかの確認だけど。
今までウェストサイズで消耗度をチェックできていたのが、他の魔法と同じように疲労によって確認する事になるかも知れない。
全く違う物、例えば体温が低下するとかになっているかも知れない。
そうなっていた場合、まだベルトの位置がブルーラインだからと油断していたら、突然ぶっ倒れる事にもなりかねない。
だからまた、ダンジョンモンスター十数匹くらいの群れを見付けて倒して、何を消耗するのか、どこまでなら大丈夫でどこまでから危険なのか、調べ直しである。
「ここ1年近く、この町の周辺にあるダンジョンでしか活動していませんでしたから。
旅費が貯まったら、気分転換に他の町にでも行ってみようかと考えていますよ。
せっかくモンスター除けの機能が付いたテントまで買った事ですし、片道十数日掛かる距離に遠出するのもアリかな、とね」
ここがゲームの世界では無いと判った以上、ダンジョン探索者だけを続けている必要も無い。
地球に帰還、なんて可能性が無かったと判った以上、ダンジョンの町だけで一生を終えるのは勿体ない。
「観光ならギルニディ王都の大魔獣博物館と、ローニーア教国の大聖堂がオススメじゃ。
ただ物価はココの10倍以上なので、行くならそのつもりでの」
「ありがとう、候補に入れておきますよ」
「それでは達者でな、≪黒月の孤僧≫くん」
「そちらもお元気で、≪運命神の代弁者≫さま」
◆
「さて、それじゃあ少しだけ、はっちゃけますか」
あれから3ヶ月ほどが経ち。
ユニークスキルとして再調整された術式や邪忍術の検証を終え。
旅費を貯めて旅の物資を買い込んだ俺は、初めてダンジョン以外の場所に向けて旅立つ事にした。
ちょっと奮発して、しっかり護衛も付いている定期便の乗合馬車で王都へ――
行くはずだったのだが、何やら手強い野生の魔獣に襲われ、護衛が総崩れ状態。
で、仕方がなく俺の出番となったのである。
「ダンジョンモンスター以外と戦うのは初めてだからな。
手加減は、してやれないぞ?」
野生の魔獣は、神が作ったストレス発散用の疑似生命ではない。
正真正銘、この世界に根付いた『生命体』だ。
地球人の記憶が、倫理観が、生き物を殺すことに強い拒否反応を示す。
(でも、呑み込まなきゃな。
俺は、ゲームの中のキャラじゃないんだから。
ダンジョンと、ダンジョンの町だけの、閉じた世界から抜け出すと決めたんだから。
だから、この程度でビビるな)
自分自身を叱咤し、強気の態度を取って逃げ出したくなる気持ちを抑え込む。
(戦闘力は十分なんだ。
信じろ。
死体が残るだけで、戦いそのものは、ダンジョンモンスターを相手にするのと同じだ)
ダンジョンモンスターであれば、コレの同種は20匹以上倒している。
全長が20メートルはありそうな、強固な鱗と甲羅で身を護る魔獣アーマードラゴン。
俺はいつものように、と繰り返しながら一歩を踏み出した。
その日、晴天の街道に落雷があったと、何人もの旅人や商馬車隊が不思議そうに噂していたらしいが、それが俺の耳に届くのは暫く先の話だった。
<完>
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