転校生

奈落

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転校生

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転げ落ちてゆく…

何がどうなった?
気が付くと目の前に「僕」がいた!?
「どうやらあたし達入れ替わっちゃったみたいね。」
そう「僕」が言った。
「入れ替わり?映画やマンガじゃないんだから…」
そう言った僕の声は本来の僕の声とはまったく違って聞こえた。
「現実を良く見て。」
そう、目の前には「僕」がいる。
そして僕は…
「鞄に鏡が入ってるから。」
と「僕」は僕が手にしていた鞄を取り上げると、手際よくその中から鏡を取出し、僕に差し出した。
鏡の中には女の子の顔が映っていた。
それは昨日、転校してきた女の子の顔だった。
「ようやくあたし…僕の身体に戻れたよ。」
と「僕」…
「戻れた?」
「覚えてない?10年前のこの場所。二人で階段から転げ落ちたこと。」
僕には「僕」が何を言っているのか理解ができなかった。
確かに、昔、この階段から落ちたと言われた事がある。
昔の事で記憶が曖昧だったが、そんな事があったらしい。
「その時、僕達は入れ替わってしまったんだ。でも、お前の意識が回復するのを待たずにパパの転勤でこの土地を離れることになってしまったんだ。」
「そんな事言われても僕には…」
「『元の身体に戻れた』それだけの事さ。深く考えなくても良い。」
考えるも何も、今の僕の頭の中はぐちゃぐちゃになっていた。
そこに、彼が手を差し出してきた。
立てということなのだろう。
僕がその手を掴んてで立ち上がると、足許に違和感があった。
スカートの裾が脚に触れた感触だった。
胸元にも違和感がある。
胸の周りを締め付ける下着の存在…
「細かな確認は家に戻ってからにするんだな。先ずはスカートの汚れを叩いて。」
僕は言われるがまま、お尻を叩きスカートを揺らした…
「ほら、身体は覚えてるたろ?」
僕はスカートなど穿いたことないのに、違和感なく汚れを叩いていた。
「さあ、『君の家』に帰るんだ。10年ぶりのママとの再会だ。嬉しいだろ?」
そんな事を言われても何もピンとはこない。
「じゃあ、また明日。学校で会おう♪」
と言って彼は「僕」の家の方に向かって行ってしまった…

「どういうこと?」
階段の上を見上げると、懐かしい神社の鳥居がそこにあった…

「懐かしい」と思ったのは「僕」ではない。
10年振りにこの街に戻ってきた懐しさを感じているのは…

あたしは鏡を鞄に戻すと「あたし」の家に向かって歩き出していた。
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