TAXIM

マルエージング鋼

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降臨

20話

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 帰国してから2ヶ月ほど経って、高校2年に飛び級していた自分は普段と変わらず過ごしていた。普段と変わらず世間からの声を聞き、批判や誹謗中傷に近いことは見てはいるものの“またか”と思って少しため息が出て。

 ただそれを見ている自分も自分なのだろうけど、ともかく自分は今にでもやれることをやるだけ。ホログラム開発の方は何とか映像に触れることは成功したものの姿が歪んでしまう問題も確認出来た。超音波で形を整えれば良いものでは無く、この場合ぶつかったのは予想外の壁。やはりというか早々上手くいくつもりは無いことは予想していたけどね。

 そんな問題を、今現在通っている高校の屋上で延々と考え続けている。センサーを新たに作り替えるべきか、超音波を低周波振動または高周波振動にするべきか。1番確実そうなのは新センサーの開発をすれば良いが、センサーの反応精度を良くするにはどうすれば良いのか分からなくなってくる。

 にしても頭が痛くなるのって久々だな。ここまで悩みに悩みまくるのは初めてだし、何より答えが出ないもどかしさが歯痒く感じる。前はスパイ事件の前日にニャルラトホテプとご対面した時に頭痛を感じた。そういえばずっと人間小4男子の姿を取っているみたいだが……いや流石にガチモン見せられたら失神するかもしれない。だって人間だもの。


「Hey TomboyWe will have lunch now昼飯食うぞ!」
Go back帰れ.」
「OK. ……wait wait wait.」


 またか……この陽気な黒人男子学生は『Bob・Martin』 一応友人関係に当たる奴なんだが、先程のように冗談めかしく自分の見た目で気にしていることをさらりと言うのだ。因みにボブの言ってるトムボーイはフランス映画である、うるせぇ誰が男女おとこおんなだオイ。


Please stop joke冗談止してくれよEven though I came all the wayせっかく来たのにさぁ.」
Every time thing TomBoy TomBoy saying you毎度のことトムボーイトムボーイって言うだろI'm not a female自分は女じゃねぇ.」
Something else is good別にいいじゃん.」
Not good良くない.」


 いつもこんな調子だ。自分とは違い普通のジョークだし、どちらかといえばムードメーカー気質の奴。グイグイとパーソナルスペースに入り込んでベラベラ喋って緊張感が失せてしまう。良い意味で言うなら誰とでも仲良くなれる、悪い意味で言えば鬱陶しい。

 まぁ鬱陶しいと思ったのも最初だけだが。今ではボブはこういう人間性だと割り切れているので、たまにウザったく思うところもあるが普段では許容している。

 こう見えて空軍に所属したいと将来設計を立てている奴で、そのための勉強と筋トレを中3からやっている辺り努力家でもある。自分とは目的が違って筋トレしているが、時たま一緒に筋トレやCQCをやっているぐらいだ。ただ微妙に勘違いして覚える癖があるから治すのに時間がかかるものの、キチンと覚えれば軍人1人や2人なら今ぐらいでも打ち勝てるぐらいだ。

 空軍だから要らない、というわけではなく覚えておけば護身術代わりにもなる。軍人が狙われるなんて有り得なくはないことだし、そもそも訓練にも使用されるから決して無駄にはならない。何で自分がCQC使えるのかとか、なぜCQCの動画があるのかは聞かれたが。

 個人的には空軍への所属を望んでるボブに対して良い感情なんてのは勿論のこと持っていなかった。今だから分かるが、ビニガンが行っている軍需産業と昔あったスパイ事件を思い出すから。完全にボブはトバッチリを受けたようなものだろうな。


Oh, can you ask me to practice CQC againあ、またCQCの練習頼めるか?」
You are good良いぞI wish you gave me that garlic toastそのガーリックトーストくれたらな.」
You told me to buy this, are youこれ買ってこいって言ったのお前だろ.」
I don’t know知ーらね.」


 ホント、何でこんな奴と仲良くしてんだろ。正反対なのに、ここまで自分と接してくれる奴なんて紗希ちゃん以外に……いや紗希ちゃん以上にグイグイと来るな。というかコイツと紗希ちゃんを比べたらダメだ、そもそもの差が有りすぎる。


Did you think about strange things変なこと考えてねぇかお前?」
Is it a matter of mind気の所為じゃね?」






◇ ◇ ◇ ◇ ◇





 そして1年の月日が経ちまして。いや特に伝えるようなことなんて無かったかな、強いて言えば飛び級をまたして高校3年に上がって後9ヶ月すれば大学1回生になるぐらいだし。

 ホログラムの方は前回まで使用していたミストより微妙に重いものを使用すれば上手くいった。どうせならと思い触覚センサーを新しく一新してみたところ、映像のズレが0.005秒にまで減っていたから良くなったと言える。偶然の産物ってヤツになるのかなこれは。

 時折デリバリーピザを頼んで開発部内で皆で食べていることは1つの進歩だろう。日本食の素材も入ってきたから覚えている限りの日本食を作ってご馳走したら全員ほっこりしていたんだ。日本の味ってスゲーなオイ。

 そして今は補助スーツではなく、新しく環境問題を解決する為の物作りをも行うことになった。身近な問題といえば排気ガスの影響による酸性雨やスモッグ、太陽光の遮断がこちらの提示した問題だ。もっと多くあるが、まずは自国の環境を整えなければならない。手始めにこれ、というわけだ。考えている中ではマサチューセッツ州市長と対談して排気ガスを抑えるフィルター、または小型の空気清浄機を取り付けた車の販売を検討している。

 下請け企業に相談する予定だし、それを取り付ければ大幅に空気が変わる。そのために必要なのは取り付ける場所であったり、その場所の面積であったり。塵や埃を別に凝縮させて保管し、交換期間を長くさせることが第一。場所は排気パイプの中にして、保存タンクを車体の下に取り付ければ良い……という構想は練っている。

 そんな自分ではあるが、なぜか7月26日に父さん……社長に呼び出された。何だろうと思ってかなりビクビクしながら社長室に向かっているが、正直何を話すのかさっぱり検討がつかない。急に呼び出されるのは前からあったけど検討が予想できないのは初めてなのだ。

 そんな思いの中、最上階に到着し社長室へと向かう。ここまで緊張するの初めて補助スーツを発表した時以来かも、こうやって考えなきゃ落ち着きもしないってね。そうして運命の時が……。


「……Excuse me.」
Enter here入りなさい.」


 ドアを開けてみれば、応接用のソファに座って朗らかな笑みで自分を見ている父さんとすぐ隣に副社長さんが居た。


Come over hereこっちに来なさい.」


 そうは言っても緊張するものは緊張するって。なので静かに、そして早いペースで歩いて父さん達の近くに来ると椅子を指して座れと言われる。そのまま指示通りに座ると、話しを切り出してきた。


I called others today今日呼んだのは他でもないIt is related to Thomasトーマスに関わることなんだ.」
To me自分に?」
That's itそうさBy the way, now Cole Corp is considering entering Japanところでなんだが、Cole Corpは現在日本進出を考えていてねI was talking to that vice president Sergioそのことを副社長のセルジオ君と話していたんだ.」
I heard it for the first time今初めて聞きましたよ.」
I didn’t say that言ってなかったからね.」


 いや本当に初耳なんだけど、というか日本進出ってことは今の波に乗ろうというわけか。家族の間でも話題に出なかったのに、そんなことを副社長にだけ話すのは何故だろうか? 別に食卓だと普通に仕事のことを話し合ってるのに。


So I needed the president of the Japanese branch of Cole CorpそこでCole Corp日本支部の社長が必要になったんだが…… Thomas, are you willing to become a CEOトーマス、社長になってみないか?」


 …………へっ? 待って社長? 自分が、社長に?あれ、どっちか区別が付かなくなってきた。社長は父さんで、その父さんは自分に対して社長になってみないかと訊いて、そして自分は社長になる……待って最後完結してない?


「Ah……can I tell you the reason理由を教えてもらっても?」
「OK. Recently you will be making inventions in various fields最近様々な分野で発明品を作っているだろうYou should have chosen you considering its high influenceその影響力の高さを考えてトーマスを選んだわけだOf course there are other reasons, would you like to ask勿論他の理由もあるが、聞きたいか?」
No, it's enoughいえ、もう十分です.」


 影響力って……及ぼしてるのって何も良いことだけじゃないんだけど。というより自分には研究があるから社長なんて考えたことないし、断るかと言えば答えが出しづらい。父さんが直々に選んでくれて、そこで日本支部を担当することを期待してくれているからだ。流石に父さんの期待を無下にはしたくないし、かといって社長という重苦しい肩書きは自分にとってはどうでも良い。……どうすれば良いわけ?


But I don’t think the answer will come out soonでも、すぐに答えは出ないと思うYou only have to reply by next February来年の2月までに返事をくれれば良いよ.」
「……I understand.」
You can go backもう戻っていいよ.」


 取り敢えず期間は空いたわけだ。返事は早めに決めておくことに越したことは無いが、本当にそれで良いのか悩む。自分はそのまま悩み続けながら社長室を出ていった。恐らく、足取りは少しだけ重く感じていたと思う。
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