48 / 48
Presentiment
幕間
しおりを挟む
あれから1年以上の時間が経った。もうそんなに時間が経ったのかと言われたらピンとこないけれども、今の現状を見ている限り無情にも時が進んだことを感じさせられる。
まず、自分がTAXIMと公言して嗅ぎつけたのは軍部の関係者。あのパワードスーツには兵器運用を検討してはいるものの莫大な予算と無理難題な電力効率が問題となっている電磁砲を、それも小型でスーツに内蔵させた状態で確保している。更に質量弾頭までも自分が作ったもの、兵器としての運用を考えるのは必然的だ。
また鎮圧用の武装も施させているために暴徒鎮圧、テロリストの制圧などにも検討されている。オマケに人が着用するだけですぐに兵器に早変わり、動いてくるのは当たり前だった。けど、このスーツはまずもって軍への配備はさせない。
貴重な動力源の真実を知られたくないこと。コイツが兵器として運用させられれば世界は米国一強になるのも踏まえて、自分以外にキチンと管理できる者はAIであるSOPHIAしか居ないと自負しているからだ。ボブの上司が来た時も受け渡しは拒否させてもらった。まぁ着たら着たで認証システムが作動して重い鉄の塊になるから意味がないのだが。
次にマスコミ。自分が作ったこのスーツと自分のことが報道されるようになったが、かなり言いたい放題。評論家がこぞって自分の批判やらスーツの批判やら、毎日毎日飽きないものだと思っている。別にマスコミ云々は特に問題ない、時間が経てば別の話題に切り替わっていったから。確か当時は人を助ける、仮面を付けた人物のこと。
SOPHIAが調べる限りでは何らかの要因によって肉体に変性が組み込まれた状態であって、その変性は任意的に作用されるものだとか。絶対ナーディクの野郎が目をつけてそうだが。
その次だが、新しいスーツが幾つか完成した。前回のTAXIM、ここではαシリーズというふうに名称しよう。そのαシリーズの二型、αシリーズⅡはハーバスとの戦闘にて反省し、最低でも1つは致死性が多い武器を導入せざるを得なかった。
とは言うものの、何を施せば良いのかが全く検討がつかずSOPHIAとあれこれ話して出力の増加と、電磁砲弾頭の素材変更。あとはスーツにサーマルブランケットを使用するものにした。
サーマルブランケットというとは人工衛星に貼り付けられる断熱機能などを発生させるもの。よく見る金色のあの部分、あれがそうだ。あれによって宇宙での活動が可能となっているのだから、よく考えたものだ。
宇宙航行でもするのかと思われるが実際は違う。空気の摩擦熱によるスーツの融解を防ぐためだ。電磁砲弾頭はウィディアと呼ばれる合金を使用し、あとは補強と出力増強を兼ねて完成したのが【βシリーズ】。αシリーズのスーツの色合いに、胸部装甲の一部と第二両腕部を全部赤色に、股関節部位は全部紫に変更した。特に色合いが変わってないって? 今更だよそんなこと。
また、新しいスーツは他にもある。昔見ていたアメコミ映画でバッグタイプの携帯型スーツが好きなので、自分も携帯型スーツを制作しようとしたのが発端。
そんでトランクケースタイプの携帯型スーツは完成している。ただ自分はその映画へのリスペクトはしているものの、全く同じものにしたくないので着用ギミックは別物である。が、やはり両腕部と両脚部を蛇腹にしなきゃこのコンパクト性は実現しなかったとだけ。何とか胸部装甲と頭部は蛇腹ではない状態だ、それに武装もガルヴ・バスターだけ。しかも超々ジュラルミンが主だからなぁ。
でも良いものに仕上がったのは確かだ。それに、もう1つ変形ギミックを搭載したスーツも現在制作中だ。こればっかりは浪漫追求したらSOPHIAに引かれたけども、イイじゃんこれ。完成したら最高だよ。
さて最後に。これは保険として必要なことだ。兵器運用されたらたまったもんじゃない、でももしかすれば大統領関係者のお偉いさん方が強行して押収する可能性だって否めない。ガキ大将かっての、規模のデカいガキ大将みたいなモンだけどあの大統領。
だから、自分が信頼出来る人間に試作機であるαシリーズⅠをアイツに渡すことを決めた。といってもすぐに渡すのではなく、運用方法や機体使用の認証登録などの工程を幾つか行わなければならない。
で、その当人と言えば────
「Oh…… .」
「Here you are.」
「Thanks…… .」
酔っている最中です。前回の教訓を活かしてVRでのバランス調整の練習をしたものの、空軍所属なのに酔ってるのだから驚いてる。なんで自分は酔ってないんだろうか。
『Even though the flight was premised on wearing a suit, it seems that he could not keep up with the change in visual balance due to the large amount of information obtained from vision and a slight adjustment error.』
「Why am I alright?」
『Habituation.』
「Will it explain by habituation……?」
『To be honest, in the case of the sir, it is excited by the action of the sympathetic nerve during the flight, and as a result, it may be in a non-intoxicated state. The rest seems to be related to the speed of information processing ability.』
「I see.」
『Another reason is that he is not used to my assistance.』
それもあるか。けど飛行時の空軍パイロットって常人と比べて情報処理能力に長けているのが普通だと思ったけど……ボブ、自分より低いのか。いや自分と他人を比べたらそこで終わりなんだけど。
というか暫く満足に体が動かせなさそうだな。休暇の最中にこれをやってくれと言われて、嫌な顔ひとつせずに付いてきてくれたから罪悪感が募る。せめて無理にさせようとは思ってないし、場合によっては泊まらせた方が良いのかもしれない。
と、思い立った矢先に社内からの通信が入ってくる。こんな時に誰だよ全く……ん、医薬開発担当部の局長からか。一体なんだろ。
「Connect.」
『President, I am sorry for the holidays. I would like to get some advice.』
「You have most of the authority to engage in drug development. Why do you want my advice?」
『Yes. It is a project that I can not afford.』
この人がこうも言うってことは、相当なものなんだろうな。ふむ、聞く必要があるか。
「Okay. So what is the content of the case?」
『That is the issue of new medicines from private researchers…… the effect of the new medicine is not very believable.』
民間の研究者から? 新薬……何故ここに?いやしかも、ホイホイと自分の研究成果を見せるのか普通? なーんか裏があるとしか思えないぞこれは。そも研究者なんて自分の研究成果が結果次第で世に知られるとは言えども、おいそれと大切なものを渡す必要性がない。
新薬という点では研究成果を出して世に知らしめることで、1つの歴史が覆されることだって有り得る。……その新薬の効果がとても気になる。
「Could you send data on the effects of the new medicine?」
『Please wait a moment.』
一、二分もしない内にその効果についてのデータが表示されていく。……何だこれは? 新薬どころか殆ど別物みたいだ。まるで活性剤、いや……これは最早ドーピングされた選手云々にさせる薬じゃないか。
身体機能の復元と改善? たった数日でか? 自分が言える立場でも無いとは思うが、これでは医学界に喧嘩を売ってるようなものではないか。それにこれ、ラットなどの実験シミュレーションが異常過ぎる。
「SOPHIA, find out more about the records in this data and what you expect from this new medicine.」
『Roger.』
『How is it?』
局長の不安そうな声が聞こえる。それもそうだ、こんなデタラメにも似た薬はハッキリ言って普通からすれば馬鹿げてるものにしか思えない。おそらく目的はこの新薬を使用することで、筋ジストロフィーなどの病症を回復させることが目的なんだろう。
でもどうにもきな臭い。確かにその病気が回復されていくのは歴史的大発見で、これは開発が急かされていって世界に配備される薬にもなる。が、このデータを見る限り日にちが経つ事にその効果が顕著に現れている。しかも短期で終わらせられることを踏まえても、人間の限界を考慮しているのか怪しすぎる。
例え救えるはずの命があろうとも、その人間の限界を越えたものは薬ではなく、毒だ。毒になりうる可能性のものを大々的に発表させる訳にはいかない。
『Sir, the survey has been completed. From this, I would like to say the results and forecasts.』
『First of all, there is no evidence of falsification in the data. Although there is no precedent, it will be judged only on this data.』
「So what happens to SOPHIA's expectations?」
『Although it is a revolutionary new medicine, it may be used for remodeling of the human body as understood from this information. If you give permission and deploy it to a hospital, the patient may die.』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「The judgment from me is above. Tell the researcher.」
『Understand. I am sorry for taking your time.』
「I'm fine, you told me well.」
通話を切ってソファに座る。こればっかりはどうしようもない、これを理解出来る輩は居たとしても、これを配備しようなんて考える輩は悪事のことしか考えてない奴だ。本当にその人には悪いが、自分でも手に負えない案件だった。
出来ることなら、これが何かに利用されない日が訪れることを祈ろう。もしも、万が一が起きてしまえば……その時は。
まず、自分がTAXIMと公言して嗅ぎつけたのは軍部の関係者。あのパワードスーツには兵器運用を検討してはいるものの莫大な予算と無理難題な電力効率が問題となっている電磁砲を、それも小型でスーツに内蔵させた状態で確保している。更に質量弾頭までも自分が作ったもの、兵器としての運用を考えるのは必然的だ。
また鎮圧用の武装も施させているために暴徒鎮圧、テロリストの制圧などにも検討されている。オマケに人が着用するだけですぐに兵器に早変わり、動いてくるのは当たり前だった。けど、このスーツはまずもって軍への配備はさせない。
貴重な動力源の真実を知られたくないこと。コイツが兵器として運用させられれば世界は米国一強になるのも踏まえて、自分以外にキチンと管理できる者はAIであるSOPHIAしか居ないと自負しているからだ。ボブの上司が来た時も受け渡しは拒否させてもらった。まぁ着たら着たで認証システムが作動して重い鉄の塊になるから意味がないのだが。
次にマスコミ。自分が作ったこのスーツと自分のことが報道されるようになったが、かなり言いたい放題。評論家がこぞって自分の批判やらスーツの批判やら、毎日毎日飽きないものだと思っている。別にマスコミ云々は特に問題ない、時間が経てば別の話題に切り替わっていったから。確か当時は人を助ける、仮面を付けた人物のこと。
SOPHIAが調べる限りでは何らかの要因によって肉体に変性が組み込まれた状態であって、その変性は任意的に作用されるものだとか。絶対ナーディクの野郎が目をつけてそうだが。
その次だが、新しいスーツが幾つか完成した。前回のTAXIM、ここではαシリーズというふうに名称しよう。そのαシリーズの二型、αシリーズⅡはハーバスとの戦闘にて反省し、最低でも1つは致死性が多い武器を導入せざるを得なかった。
とは言うものの、何を施せば良いのかが全く検討がつかずSOPHIAとあれこれ話して出力の増加と、電磁砲弾頭の素材変更。あとはスーツにサーマルブランケットを使用するものにした。
サーマルブランケットというとは人工衛星に貼り付けられる断熱機能などを発生させるもの。よく見る金色のあの部分、あれがそうだ。あれによって宇宙での活動が可能となっているのだから、よく考えたものだ。
宇宙航行でもするのかと思われるが実際は違う。空気の摩擦熱によるスーツの融解を防ぐためだ。電磁砲弾頭はウィディアと呼ばれる合金を使用し、あとは補強と出力増強を兼ねて完成したのが【βシリーズ】。αシリーズのスーツの色合いに、胸部装甲の一部と第二両腕部を全部赤色に、股関節部位は全部紫に変更した。特に色合いが変わってないって? 今更だよそんなこと。
また、新しいスーツは他にもある。昔見ていたアメコミ映画でバッグタイプの携帯型スーツが好きなので、自分も携帯型スーツを制作しようとしたのが発端。
そんでトランクケースタイプの携帯型スーツは完成している。ただ自分はその映画へのリスペクトはしているものの、全く同じものにしたくないので着用ギミックは別物である。が、やはり両腕部と両脚部を蛇腹にしなきゃこのコンパクト性は実現しなかったとだけ。何とか胸部装甲と頭部は蛇腹ではない状態だ、それに武装もガルヴ・バスターだけ。しかも超々ジュラルミンが主だからなぁ。
でも良いものに仕上がったのは確かだ。それに、もう1つ変形ギミックを搭載したスーツも現在制作中だ。こればっかりは浪漫追求したらSOPHIAに引かれたけども、イイじゃんこれ。完成したら最高だよ。
さて最後に。これは保険として必要なことだ。兵器運用されたらたまったもんじゃない、でももしかすれば大統領関係者のお偉いさん方が強行して押収する可能性だって否めない。ガキ大将かっての、規模のデカいガキ大将みたいなモンだけどあの大統領。
だから、自分が信頼出来る人間に試作機であるαシリーズⅠをアイツに渡すことを決めた。といってもすぐに渡すのではなく、運用方法や機体使用の認証登録などの工程を幾つか行わなければならない。
で、その当人と言えば────
「Oh…… .」
「Here you are.」
「Thanks…… .」
酔っている最中です。前回の教訓を活かしてVRでのバランス調整の練習をしたものの、空軍所属なのに酔ってるのだから驚いてる。なんで自分は酔ってないんだろうか。
『Even though the flight was premised on wearing a suit, it seems that he could not keep up with the change in visual balance due to the large amount of information obtained from vision and a slight adjustment error.』
「Why am I alright?」
『Habituation.』
「Will it explain by habituation……?」
『To be honest, in the case of the sir, it is excited by the action of the sympathetic nerve during the flight, and as a result, it may be in a non-intoxicated state. The rest seems to be related to the speed of information processing ability.』
「I see.」
『Another reason is that he is not used to my assistance.』
それもあるか。けど飛行時の空軍パイロットって常人と比べて情報処理能力に長けているのが普通だと思ったけど……ボブ、自分より低いのか。いや自分と他人を比べたらそこで終わりなんだけど。
というか暫く満足に体が動かせなさそうだな。休暇の最中にこれをやってくれと言われて、嫌な顔ひとつせずに付いてきてくれたから罪悪感が募る。せめて無理にさせようとは思ってないし、場合によっては泊まらせた方が良いのかもしれない。
と、思い立った矢先に社内からの通信が入ってくる。こんな時に誰だよ全く……ん、医薬開発担当部の局長からか。一体なんだろ。
「Connect.」
『President, I am sorry for the holidays. I would like to get some advice.』
「You have most of the authority to engage in drug development. Why do you want my advice?」
『Yes. It is a project that I can not afford.』
この人がこうも言うってことは、相当なものなんだろうな。ふむ、聞く必要があるか。
「Okay. So what is the content of the case?」
『That is the issue of new medicines from private researchers…… the effect of the new medicine is not very believable.』
民間の研究者から? 新薬……何故ここに?いやしかも、ホイホイと自分の研究成果を見せるのか普通? なーんか裏があるとしか思えないぞこれは。そも研究者なんて自分の研究成果が結果次第で世に知られるとは言えども、おいそれと大切なものを渡す必要性がない。
新薬という点では研究成果を出して世に知らしめることで、1つの歴史が覆されることだって有り得る。……その新薬の効果がとても気になる。
「Could you send data on the effects of the new medicine?」
『Please wait a moment.』
一、二分もしない内にその効果についてのデータが表示されていく。……何だこれは? 新薬どころか殆ど別物みたいだ。まるで活性剤、いや……これは最早ドーピングされた選手云々にさせる薬じゃないか。
身体機能の復元と改善? たった数日でか? 自分が言える立場でも無いとは思うが、これでは医学界に喧嘩を売ってるようなものではないか。それにこれ、ラットなどの実験シミュレーションが異常過ぎる。
「SOPHIA, find out more about the records in this data and what you expect from this new medicine.」
『Roger.』
『How is it?』
局長の不安そうな声が聞こえる。それもそうだ、こんなデタラメにも似た薬はハッキリ言って普通からすれば馬鹿げてるものにしか思えない。おそらく目的はこの新薬を使用することで、筋ジストロフィーなどの病症を回復させることが目的なんだろう。
でもどうにもきな臭い。確かにその病気が回復されていくのは歴史的大発見で、これは開発が急かされていって世界に配備される薬にもなる。が、このデータを見る限り日にちが経つ事にその効果が顕著に現れている。しかも短期で終わらせられることを踏まえても、人間の限界を考慮しているのか怪しすぎる。
例え救えるはずの命があろうとも、その人間の限界を越えたものは薬ではなく、毒だ。毒になりうる可能性のものを大々的に発表させる訳にはいかない。
『Sir, the survey has been completed. From this, I would like to say the results and forecasts.』
『First of all, there is no evidence of falsification in the data. Although there is no precedent, it will be judged only on this data.』
「So what happens to SOPHIA's expectations?」
『Although it is a revolutionary new medicine, it may be used for remodeling of the human body as understood from this information. If you give permission and deploy it to a hospital, the patient may die.』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「The judgment from me is above. Tell the researcher.」
『Understand. I am sorry for taking your time.』
「I'm fine, you told me well.」
通話を切ってソファに座る。こればっかりはどうしようもない、これを理解出来る輩は居たとしても、これを配備しようなんて考える輩は悪事のことしか考えてない奴だ。本当にその人には悪いが、自分でも手に負えない案件だった。
出来ることなら、これが何かに利用されない日が訪れることを祈ろう。もしも、万が一が起きてしまえば……その時は。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
7
この作品の感想を投稿する
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる