TAXIM

マルエージング鋼

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Presentiment

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 あれから1年以上の時間が経った。もうそんなに時間が経ったのかと言われたらピンとこないけれども、今の現状を見ている限り無情にも時が進んだことを感じさせられる。

 まず、自分がTAXIMと公言して嗅ぎつけたのは軍部の関係者。あのパワードスーツには兵器運用を検討してはいるものの莫大な予算と無理難題な電力効率が問題となっている電磁砲レールガンを、それも小型でスーツに内蔵させた状態で確保している。更に質量弾頭までも自分が作ったもの、兵器としての運用を考えるのは必然的だ。

 また鎮圧用の武装も施させているために暴徒鎮圧、テロリストの制圧などにも検討されている。オマケに人が着用するだけですぐに兵器に早変わり、動いてくるのは当たり前だった。けど、このスーツはまずもって軍への配備はさせない。

 貴重な動力源の真実を知られたくないこと。コイツが兵器として運用させられれば世界は米国一強になるのも踏まえて、自分以外にキチンと管理できる者はAIであるSOPHIAしか居ないと自負しているからだ。ボブの上司が来た時も受け渡しは拒否させてもらった。まぁ着たら着たで認証システムが作動して重い鉄の塊になるから意味がないのだが。

 次にマスコミ。自分が作ったこのスーツと自分のことが報道されるようになったが、かなり言いたい放題。評論家がこぞって自分の批判やらスーツの批判やら、毎日毎日飽きないものだと思っている。別にマスコミ云々は特に問題ない、時間が経てば別の話題に切り替わっていったから。確か当時は人を助ける、仮面を付けた人物のこと。

 SOPHIAが調べる限りでは何らかの要因によって肉体に変性が組み込まれた状態であって、その変性は任意的に作用されるものだとか。絶対ナーディクの野郎が目をつけてそうだが。

 その次だが、新しいスーツが幾つか完成した。前回のTAXIM、ここでは‪α‬シリーズというふうに名称しよう。その‪α‬シリーズの二型、‪α‬シリーズツヴァイはハーバスとの戦闘にて反省し、最低でも1つは致死性が多い武器を導入せざるを得なかった。

 とは言うものの、何を施せば良いのかが全く検討がつかずSOPHIAとあれこれ話して出力の増加と、電磁砲弾頭の素材変更。あとはスーツにサーマルブランケットを使用するものにした。

 サーマルブランケットというとは人工衛星に貼り付けられる断熱機能などを発生させるもの。よく見る金色のあの部分、あれがそうだ。あれによって宇宙での活動が可能となっているのだから、よく考えたものだ。

 宇宙航行でもするのかと思われるが実際は違う。空気の摩擦熱によるスーツの融解を防ぐためだ。電磁砲弾頭はウィディアと呼ばれる合金を使用し、あとは補強と出力増強を兼ねて完成したのが【βシリーズ】。‪α‬シリーズのスーツの色合いに、胸部装甲の一部と第二両腕部を全部赤色に、股関節部位は全部紫に変更した。特に色合いが変わってないって? 今更だよそんなこと。

 また、新しいスーツは他にもある。昔見ていたアメコミ映画でバッグタイプの携帯型スーツが好きなので、自分も携帯型スーツを制作しようとしたのが発端。

 そんでトランクケースタイプの携帯型スーツは完成している。ただ自分はその映画へのリスペクトはしているものの、全く同じものにしたくないので着用ギミックは別物である。が、やはり両腕部と両脚部を蛇腹にしなきゃこのコンパクト性は実現しなかったとだけ。何とか胸部装甲と頭部は蛇腹ではない状態だ、それに武装もガルヴ・バスターだけ。しかも超々ジュラルミンが主だからなぁ。

 でも良いものに仕上がったのは確かだ。それに、もう1つ変形ギミックを搭載したスーツも現在制作中だ。こればっかりは浪漫追求したらSOPHIAに引かれたけども、イイじゃんこれ。完成したら最高だよ。

 さて最後に。これは保険として必要なことだ。兵器運用されたらたまったもんじゃない、でももしかすれば大統領関係者のお偉いさん方が強行して押収する可能性だって否めない。ガキ大将かっての、規模のデカいガキ大将みたいなモンだけどあの大統領。

 だから、自分が信頼出来る人間に試作機である‪α‬シリーズⅠをアイツに渡すことを決めた。といってもすぐに渡すのではなく、運用方法や機体使用の認証登録などの工程を幾つか行わなければならない。

 で、その当人と言えば────


「Oh…… .」
Here you areほら水.」
「Thanks…… .」


 酔っている最中です。前回の教訓を活かしてVRでのバランス調整の練習をしたものの、空軍所属なのに酔ってるのだから驚いてる。なんで自分は酔ってないんだろうか。


Even though the flight was premised on wearing a suitスーツの着用を前提とした飛行とはいえit seems that he could not keep up視覚から得られる情報量の多さと with the change in visual balance due to the large僅かな調整ミスによる amount of information obtained from vision and視覚バランスの変化に付いていけ a slight adjustment errorなかったのだと思われます.』
Why am I alrightなんで自分は平気なんだ?」
Habituation慣れかと.』
Will it explain by habituation慣れで説明がつくのか……?」
To be honest正直に申し上げますとin the case of the sirトーマス様の場合it is excited by the action飛行中に交感 of the sympathetic nerve during the flight神経の作用によって興奮しand as a result結果的に酔わないit may be in a non-intoxicated state状態になっている可能性がありますThe rest seems to be relatedあとは情報処理能力の速さ to the speed of information processing abilityが関係しているのかと思われます.』
「I see.」
Another reason is私の補助に慣れて that he is not used to my assistanceいないのも理由として挙げられますね.』


 それもあるか。けど飛行時の空軍パイロットって常人と比べて情報処理能力に長けているのが普通だと思ったけど……ボブ、自分より低いのか。いや自分と他人を比べたらそこで終わりなんだけど。

 というか暫く満足に体が動かせなさそうだな。休暇の最中にこれをやってくれと言われて、嫌な顔ひとつせずに付いてきてくれたから罪悪感が募る。せめて無理にさせようとは思ってないし、場合によっては泊まらせた方が良いのかもしれない。

 と、思い立った矢先に社内からの通信が入ってくる。こんな時に誰だよ全く……ん、医薬開発担当部の局長からか。一体なんだろ。


Connect繋げろ.」

President, I am sorry for the holidays社長、休暇中のところ申し訳ございませんI would like to get some advice少しばかり助言を頂けないかと.』
You have most of the authority医薬品開発に携わる to engage in drug development権限の殆どはそちらにあるWhy do you want my adviceなのに助言が欲しいと?」
『Yes. It is a project that I can not afford私では手に余る案件でして.』


 この人がこうも言うってことは、相当なものなんだろうな。ふむ、聞く必要があるか。


「Okay. So what is the content of the caseそれで、その案件はどんなのだ?」
That is the issue of new medicines from private researchersそれが、民間の研究者からの新薬となりまして…… the effect of the new medicine is not very believableその新薬の効果がとても信じられるものでは無いのです.』


 民間の研究者から? 新薬……何故ここに?いやしかも、ホイホイと自分の研究成果を見せるのか普通? なーんか裏があるとしか思えないぞこれは。そも研究者なんて自分の研究成果が結果次第で世に知られるとは言えども、おいそれと大切なものを渡す必要性がない。

 新薬という点では研究成果を出して世に知らしめることで、1つの歴史が覆されることだって有り得る。……その新薬の効果がとても気になる。


Could you send data onその新薬の効果の the effects of the new medicineデータをこちらに送れるか?」
Please wait a moment少々お待ちください.』


 一、二分もしない内にその効果についてのデータが表示されていく。……何だこれは? 新薬どころか殆ど別物みたいだ。まるで活性剤、いや……これは最早ドーピングされた選手云々にさせる薬じゃないか。

 身体機能の復元と改善? たった数日でか? 自分が言える立場でも無いとは思うが、これでは医学界に喧嘩を売ってるようなものではないか。それにこれ、ラットなどの実験シミュレーションが異常過ぎる。


「SOPHIA, find out more about the records in this data andこのデータの記録の詳細な情報と、 what you expect from this new medicineお前が予想するこの新薬の影響を調べてくれ.」
『Roger.』

How is it如何でしょうか?』


 局長の不安そうな声が聞こえる。それもそうだ、こんなデタラメにも似た薬はハッキリ言って普通からすれば馬鹿げてるものにしか思えない。おそらく目的はこの新薬を使用することで、筋ジストロフィーなどの病症を回復させることが目的なんだろう。

 でもどうにもきな臭い。確かにその病気が回復されていくのは歴史的大発見で、これは開発が急かされていって世界に配備される薬にもなる。が、このデータを見る限り日にちが経つ事にその効果が顕著に現れている。しかも短期で終わらせられることを踏まえても、人間の限界を考慮しているのか怪しすぎる。

 例え救えるはずの命があろうとも、その人間の限界を越えたものは薬ではなく、毒だ。毒になりうる可能性のものを大々的に発表させる訳にはいかない。


『Sir, the survey has been completed調査を終了致しましたFrom thisこれよりI would like to say the results and forecasts結果と予想を申し上げます.』

First of all先ずthere is no evidence of falsification in the dataデータに改竄などの形跡はありませんでしたAlthough there is no precedent前例がないためit will be judged only on this dataこのデータ上のみの判断になりますが.』
So what happens to SOPHIA's expectationsそれで、ソフィアの予想はどうなる?」
Although it is a revolutionary new medicine画期的な新薬ではありますがit may be used for remodeling ofこの情報から察するに the human body as understood from this information人体改造に利用される恐れがありますIf you give permission and deploy it to a hospital下手に許可を出して病院に配備した場合the patient may die患者が死亡するかと.』





◇ ◇ ◇ ◇ ◇





The judgment from me is above自分の判断は以上だTell the researcherその研究者に伝えてくれ.」
UnderstandわかりましたI am sorry for taking your timeお時間を取らせてしまい、申し訳ございません.』
I'm fine, you told me well大丈夫だ、よく伝えてくれたな.」


 通話を切ってソファに座る。こればっかりはどうしようもない、これを理解出来る輩は居たとしても、これを配備しようなんて考える輩は悪事のことしか考えてない奴だ。本当にその人には悪いが、自分でも手に負えない案件だった。

 出来ることなら、これが何かに利用されない日が訪れることを祈ろう。もしも、万が一が起きてしまえば……その時は。
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