オメガのホストはベータとして生きる

宮路 明

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 今まで丸馬がこの部屋に連れてきたのは、全てがベータ男性だった。

 目的は、二つのどちらかを達成することだ。

 一つ目は、梓を孕ませ、堕胎できなくなるまで放置すること。こぶ付きの番のいないオメガなど、誰も欲しがる訳がないからだ。梓が誰の子かもわからない子供を育て、世間から冷たくされて生きることを、丸馬は強く願っていた。たとえ梓が好きでもない男と結婚することになっても、それはどうでもよかった。
殺人を犯すのは簡単だが、それではつまらない。生きて苦しむ姿を見たいのだから。

 二つ目は、程度の低いアルファを見つけ、強制的に番にさせること。好きでもない相手が番になることは、オメガにとって一生の苦痛となる。番になってしまえば、相手が死なない限り解消されない。どんなに世の中が良い方向に変わり、医療技術が発展したとしても、番というものを解消するには死ぬこと以外に選択肢はないのだ。万が一、事故で番になってしまったとしても、フェロモンで誘ったオメガが悪いと言われ、結局はオメガの責任にされる。

 アルファは絶対に守られる世の中なのだ。

 お遊びや性処理道具として繋がり、好きでもない相手と番になることで、その後の生活や家庭などがどうなるか、想像することは容易だ。解消できない番というしがらみに苦しみ、アルファに怪訝な視線を向けられながら日々を送る梓の惨めな姿を思い描くだけで、丸馬は満ち足りた気持ちになる。

 しかし、状況は思ったようには動いてくれなかった。

 妊娠もしなければ、適当なアルファも見つからない。日々はただ過ぎていくだけだった。

 玩ばれて壊れていく梓を見つめるのも、次第に飽きが来ていた。

 違法薬物に手を出してまで梓を傷つけているのに、自分に運が回ってこない。丸馬の苛立ちが募り始めた頃、ようやくアルファと名乗る男から連絡が入った。

 ネットを通して会話をしていると、彼は中小企業で働く冴えないサラリーマンのようだった。良い出会いもなく、好きな人もできずに過ごしているという話の流れで、丸馬が張り付けた画像を見て、梓を番にしたいと申し出てきたのだ。

 丸馬は二つ返事で承諾し、飛び跳ねたくなるほどの気持ちを顔に出した。

「今からアルファが来るよ。お前の番を引き受けるってさ」

 丸馬は嬉しそうに梓に話しかける。気力を失い、床に横たわっていた梓の体に、恐怖が全身に広がった。

「やだ……」

 力なく出た声は、かすれていた。抵抗しようとして口にした声はあまりにも小さく、誰の耳にも届かない。

「へぇ、アルファ様がねぇ」

 眼鏡の男が不思議そうな表情を浮かべた。アルファといえば、エリートの道を歩んでおり、苦労なく過ごしているというイメージが強いからだ。アルファというだけで人が寄り集まり、抱く相手なんて、いくらでもいると思われている。

「よっぽど変わった性癖の持ち主かもな」
「なら見物させてもらおうぜ、どんな奴がどう抱くのか」

 男たちは興味津々で、楽しそうに笑っていた。

「ダメだ、梓ちゃんに番なんて……」

 身体を拭いていた樽体型の男は、身体を震わせていた。しかし、それ以上の行動は何もなく、彼は呪文のように「梓は自分のものだ」と繰り返すばかりだった。

 ―――コンコンッコンッ。

 唯一外に出入りできる、錆びが目立つ鉄製の扉から、人工的なリズムが聞こえてきた。

「早いね、ちょうど近くに居たから良かったよ」

 丸馬は小動物のように飛び跳ね、嬉しそうに扉を開ける。

「こんにちは、ここで間違いはないかな?」

 爽やかで通る声が部屋に響く。背は男性の平均身長を超え、スラリとした長い足がダメージ加工されたデニムのズボンにぴったりと合っている。茶色の皮ジャケットを着こなし、鍛え上げられた身体を引き立てている。深く被った帽子の下で、顔はよく見えないが、茶色い柴犬のような毛並みがちらりと見えた。

 冴えないサラリーマンには到底見えない。顔がよく見えなくても、彼が好青年であり、アルファらしい気品があることはすぐにわかる。故に、性行為をする相手に困ることはないだろうと、すぐに理解できた。

「あー……意外」

 丸馬は、想像していた不細工な男とは異なっていたことに少し残念そうな表情を浮かべたが、彼はこの男を自分の計画に利用するチャンスだ思い、逃す訳にはいかなかった。
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