14 / 64
14)訪問者
今まで丸馬がこの部屋に連れてきたのは、全てがベータ男性だった。
目的は、二つのどちらかを達成することだ。
一つ目は、梓を孕ませ、堕胎できなくなるまで放置すること。こぶ付きの番のいないオメガなど、誰も欲しがる訳がないからだ。梓が誰の子かもわからない子供を育て、世間から冷たくされて生きることを、丸馬は強く願っていた。たとえ梓が好きでもない男と結婚することになっても、それはどうでもよかった。
殺人を犯すのは簡単だが、それではつまらない。生きて苦しむ姿を見たいのだから。
二つ目は、程度の低いアルファを見つけ、強制的に番にさせること。好きでもない相手が番になることは、オメガにとって一生の苦痛となる。番になってしまえば、相手が死なない限り解消されない。どんなに世の中が良い方向に変わり、医療技術が発展したとしても、番というものを解消するには死ぬこと以外に選択肢はないのだ。万が一、事故で番になってしまったとしても、フェロモンで誘ったオメガが悪いと言われ、結局はオメガの責任にされる。
アルファは絶対に守られる世の中なのだ。
お遊びや性処理道具として繋がり、好きでもない相手と番になることで、その後の生活や家庭などがどうなるか、想像することは容易だ。解消できない番というしがらみに苦しみ、アルファに怪訝な視線を向けられながら日々を送る梓の惨めな姿を思い描くだけで、丸馬は満ち足りた気持ちになる。
しかし、状況は思ったようには動いてくれなかった。
妊娠もしなければ、適当なアルファも見つからない。日々はただ過ぎていくだけだった。
玩ばれて壊れていく梓を見つめるのも、次第に飽きが来ていた。
違法薬物に手を出してまで梓を傷つけているのに、自分に運が回ってこない。丸馬の苛立ちが募り始めた頃、ようやくアルファと名乗る男から連絡が入った。
ネットを通して会話をしていると、彼は中小企業で働く冴えないサラリーマンのようだった。良い出会いもなく、好きな人もできずに過ごしているという話の流れで、丸馬が張り付けた画像を見て、梓を番にしたいと申し出てきたのだ。
丸馬は二つ返事で承諾し、飛び跳ねたくなるほどの気持ちを顔に出した。
「今からアルファが来るよ。お前の番を引き受けるってさ」
丸馬は嬉しそうに梓に話しかける。気力を失い、床に横たわっていた梓の体に、恐怖が全身に広がった。
「やだ……」
力なく出た声は、かすれていた。抵抗しようとして口にした声はあまりにも小さく、誰の耳にも届かない。
「へぇ、アルファ様がねぇ」
眼鏡の男が不思議そうな表情を浮かべた。アルファといえば、エリートの道を歩んでおり、苦労なく過ごしているというイメージが強いからだ。アルファというだけで人が寄り集まり、抱く相手なんて、いくらでもいると思われている。
「よっぽど変わった性癖の持ち主かもな」
「なら見物させてもらおうぜ、どんな奴がどう抱くのか」
男たちは興味津々で、楽しそうに笑っていた。
「ダメだ、梓ちゃんに番なんて……」
身体を拭いていた樽体型の男は、身体を震わせていた。しかし、それ以上の行動は何もなく、彼は呪文のように「梓は自分のものだ」と繰り返すばかりだった。
―――コンコンッコンッ。
唯一外に出入りできる、錆びが目立つ鉄製の扉から、人工的なリズムが聞こえてきた。
「早いね、ちょうど近くに居たから良かったよ」
丸馬は小動物のように飛び跳ね、嬉しそうに扉を開ける。
「こんにちは、ここで間違いはないかな?」
爽やかで通る声が部屋に響く。背は男性の平均身長を超え、スラリとした長い足がダメージ加工されたデニムのズボンにぴったりと合っている。茶色の皮ジャケットを着こなし、鍛え上げられた身体を引き立てている。深く被った帽子の下で、顔はよく見えないが、茶色い柴犬のような毛並みがちらりと見えた。
冴えないサラリーマンには到底見えない。顔がよく見えなくても、彼が好青年であり、アルファらしい気品があることはすぐにわかる。故に、性行為をする相手に困ることはないだろうと、すぐに理解できた。
「あー……意外」
丸馬は、想像していた不細工な男とは異なっていたことに少し残念そうな表情を浮かべたが、彼はこの男を自分の計画に利用するチャンスだ思い、逃す訳にはいかなかった。
目的は、二つのどちらかを達成することだ。
一つ目は、梓を孕ませ、堕胎できなくなるまで放置すること。こぶ付きの番のいないオメガなど、誰も欲しがる訳がないからだ。梓が誰の子かもわからない子供を育て、世間から冷たくされて生きることを、丸馬は強く願っていた。たとえ梓が好きでもない男と結婚することになっても、それはどうでもよかった。
殺人を犯すのは簡単だが、それではつまらない。生きて苦しむ姿を見たいのだから。
二つ目は、程度の低いアルファを見つけ、強制的に番にさせること。好きでもない相手が番になることは、オメガにとって一生の苦痛となる。番になってしまえば、相手が死なない限り解消されない。どんなに世の中が良い方向に変わり、医療技術が発展したとしても、番というものを解消するには死ぬこと以外に選択肢はないのだ。万が一、事故で番になってしまったとしても、フェロモンで誘ったオメガが悪いと言われ、結局はオメガの責任にされる。
アルファは絶対に守られる世の中なのだ。
お遊びや性処理道具として繋がり、好きでもない相手と番になることで、その後の生活や家庭などがどうなるか、想像することは容易だ。解消できない番というしがらみに苦しみ、アルファに怪訝な視線を向けられながら日々を送る梓の惨めな姿を思い描くだけで、丸馬は満ち足りた気持ちになる。
しかし、状況は思ったようには動いてくれなかった。
妊娠もしなければ、適当なアルファも見つからない。日々はただ過ぎていくだけだった。
玩ばれて壊れていく梓を見つめるのも、次第に飽きが来ていた。
違法薬物に手を出してまで梓を傷つけているのに、自分に運が回ってこない。丸馬の苛立ちが募り始めた頃、ようやくアルファと名乗る男から連絡が入った。
ネットを通して会話をしていると、彼は中小企業で働く冴えないサラリーマンのようだった。良い出会いもなく、好きな人もできずに過ごしているという話の流れで、丸馬が張り付けた画像を見て、梓を番にしたいと申し出てきたのだ。
丸馬は二つ返事で承諾し、飛び跳ねたくなるほどの気持ちを顔に出した。
「今からアルファが来るよ。お前の番を引き受けるってさ」
丸馬は嬉しそうに梓に話しかける。気力を失い、床に横たわっていた梓の体に、恐怖が全身に広がった。
「やだ……」
力なく出た声は、かすれていた。抵抗しようとして口にした声はあまりにも小さく、誰の耳にも届かない。
「へぇ、アルファ様がねぇ」
眼鏡の男が不思議そうな表情を浮かべた。アルファといえば、エリートの道を歩んでおり、苦労なく過ごしているというイメージが強いからだ。アルファというだけで人が寄り集まり、抱く相手なんて、いくらでもいると思われている。
「よっぽど変わった性癖の持ち主かもな」
「なら見物させてもらおうぜ、どんな奴がどう抱くのか」
男たちは興味津々で、楽しそうに笑っていた。
「ダメだ、梓ちゃんに番なんて……」
身体を拭いていた樽体型の男は、身体を震わせていた。しかし、それ以上の行動は何もなく、彼は呪文のように「梓は自分のものだ」と繰り返すばかりだった。
―――コンコンッコンッ。
唯一外に出入りできる、錆びが目立つ鉄製の扉から、人工的なリズムが聞こえてきた。
「早いね、ちょうど近くに居たから良かったよ」
丸馬は小動物のように飛び跳ね、嬉しそうに扉を開ける。
「こんにちは、ここで間違いはないかな?」
爽やかで通る声が部屋に響く。背は男性の平均身長を超え、スラリとした長い足がダメージ加工されたデニムのズボンにぴったりと合っている。茶色の皮ジャケットを着こなし、鍛え上げられた身体を引き立てている。深く被った帽子の下で、顔はよく見えないが、茶色い柴犬のような毛並みがちらりと見えた。
冴えないサラリーマンには到底見えない。顔がよく見えなくても、彼が好青年であり、アルファらしい気品があることはすぐにわかる。故に、性行為をする相手に困ることはないだろうと、すぐに理解できた。
「あー……意外」
丸馬は、想像していた不細工な男とは異なっていたことに少し残念そうな表情を浮かべたが、彼はこの男を自分の計画に利用するチャンスだ思い、逃す訳にはいかなかった。
あなたにおすすめの小説
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
当たり前の幸せ
ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。
初投稿なので色々矛盾などご容赦を。
ゆっくり更新します。
すみません名前変えました。
魔性の男
久野字
BL
俺はとにかくモテる。学生の頃から、社会人になった今でも、異性問わずにモテてしまう。
最近、さえない同性の先輩に好意を持たれている。いつものことだろう。いい人だから、傷つけたくはないな。
そう、思っていた。
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
保護対象のはずなのに ~過保護なソーシャルワーカーと距離を間違えた関係~
田中 乃那加
BL
それは【保護】であるはずだった。
けれどその距離はいつの間にか踏み越えられていた――。
オメガは保護されるべき存在であり、危険から遠ざけることは社会の義務とされている世界。
そこでのほほんと大学生活を送るオメガ、大西 叶芽は友人や家族に囲まれ幸せだった。
成人を超えた彼につけられた新しい担当ソーシャルワーカー。
それが御影という男だった。
物腰柔らかく親切な彼と同じく、このオメガ守り保護する【制度】も少しずつ叶芽を追い詰めていく。
オメガが希少化して保護されるようになった世界で、自立して生きるのを目指す青年の話。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。