オメガのホストはベータとして生きる

宮路 明

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24)後悔

 梓は、自分の気持ちを抑えることができなかった。

「あなたが好きです」

 その言葉は、震える声で和司に渡された。

「……」

 沈黙が流れる。思いを告げて、和司を困らせてしまうことは分かっていた。それでも、和司の優しさを好意だと信じたかった。そして、これが勘違いではないことを、心のどこかで確かめたかった。だから、思わずその言葉を口にしてしまった。

「……村上君の気持ちは嬉しいが……違うよ。君は、自分の気持ちに嘘をついている」

 和司から返ってきたのは、優しさの中に隠された否定の言葉だった。

「嘘って……?」
「君は辛い環境から抜け出すキッカケが俺だったから、安心感を恋と勘違いしているだけだよ」

 和司は触れていた手をそっと離し、穏やかな声でそう告げた。だが、その声が梓の心に冷たい風を吹き込むようだった。

「これは、恋心じゃない」

 和司の言葉は、冷徹な現実を突きつけるものだった。

「どう……して……どうして!そんなこと言うんですか!」

 突き放すなら、もう少し優しい言葉を選んで欲しかった。梓は思いもよらない返答に胸が締め付けられた。

「俺の気持ちは俺にしか解らないのに!清武も斎藤さんも……なんで他の人が俺の気持ちを決めつけるんですか!」

 梓の胸の内で、甘い感情が怒りに変わっていく。涙がにじみ出てきて、視界がぼやける。

「俺が、汚れてるからですか?!色んな男に抱かれた身体だから!そうやって優しいふりして引き離すんですか!」
「違う!」
「ならどうして!」

 和司は沈黙し、答えを避けるように黙り込んだ。梓は堪えきれずに和司のジャケットの衿を掴み、強く引き寄せた。
 その力は強くないが、突然の行動に和司の身体が自然と引き寄せられ、唇が軽く重なる。

 合意ではない、一方的な口づけ。
和司はすぐにその行動を止めようとしたが、身体が思うように動かない。
理性が今にも引き裂かれそうなほどだった。

 梓の唇が必死に深さを求め、和司の唇に押し付けられてくるのを感じる。
ぎこちない口づけの中に、どこか安心感さえ見出す和司。
それでも無意識に、彼は梓の腰に手を回し、自分の方へと身体を引き寄せた。

 それは短い一瞬ではなかった。
唇が離れず、深さを求め、絡み合っていく。
その瞬間、二人の理性は簡単に壊れた。

「さい……と……ぅさん」

 深い口づけが終わり、わずかに離れた唇から、梓の求める声が漏れる。
甘くとろけた感覚に、梓は身を任せそうになる。

「もっと……」

 怒りも、恥ずかしさも忘れ、梓はただ和司を求めた。
彼の熱い手のひらに触れ、視線は和司にだけ向けられていた。

 求められ、拒むことのできない和司の心は、後悔よりも梓を欲しているという現実に逆らえなかった。

 再び重なる唇は、さらに深く、さらに熱く。
梓の小さく開いた唇の隙間を、和司の舌が割り、滑らかな歯列をなぞっていく。
和司の舌に、梓の舌が絡みつく。

 梓は舌を軽く噛まれ、吸われる感覚に息が苦しくなっても、求め続ける。
その荒い息すらも、甘さを増すための一部となっていった。

 突き放されることを覚悟していた梓は、今、求め返されるその感覚に溺れそうになっている。

 梓は、和司の肩に腕を回し、離れられないように強く引き寄せる。

「んっ……」

 堪えきれずに漏れた艶のある声に、和司はもはや歯止めが効かなくなっていた。

「ダメだ……」

 理性を保たなければならない。しかし、和司は梓から引き離すことができない。

「なんで……?斎藤さんからもキスしてくれるのに……」

 息を呑むほど色っぽい声で問いかけられ、和司はその甘美な声に酔いしれそうになる。
オメガの香りが、梓の身体から漂ってきて、彼を迷わせていた。

 梓もまた、和司のアルファの香りに酔いしれ、自分では信じられないほど大胆に振る舞っていた。

「斎藤さん……好きです」

 抑えきれない感情が溢れ、梓は何度も和司の耳元で囁いた。

 返事はない。和司が言葉に詰まっていることが、腕に感じる力で伝わってきた。

「何してんだよ!」

 完全に二人だけの世界に浸っていた病室に、清武の怒鳴り声が響いた。
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