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27)現実社会
「え?」
予想していた言葉ではあったが、そのタイミングにはまったく心の準備ができていなかった。
梓はしばらく、言葉が喉の奥で引っかかるような感覚に陥り、ただ困惑するしかなかった。
「梓ちゃん、精神薬を飲んでいるんでしょ?その前には、大量の制欲剤も飲んでたって?」
「……はい」
「それじゃ、もう子供が望めないって話よね」
梓が不妊であることが明らかになったのは、今回の入院がきっかけだった。数週間にわたり、不特定多数の男性と関係を持ったが、一度も妊娠の兆しは見られなかった。解放された監禁生活から病院に運ばれた際、医師から告げられた言葉は今も頭の中で響き続けている。
『子宮が機能していませんね。大量の制欲剤の影響かもしれませんが、この状態では排卵すらできません。不妊症です。ですが念のため、アフターピルを服用しておきましょう』
その言葉に、梓は茫然となり、息が詰まった。
現実が、あまりにも残酷だった。
妊娠すらできないオメガに、何の価値があるのだろうか。
自分の愚かだった行動が、激しい後悔となって梓を包み込む。
希清はその事実を知っていた。
清武から聞いたのだろう。精神薬を服用していることも、制欲剤のことも、わずかな言葉の端々から察して迫ったに違いない。
その問い詰めには、清武を責める理由は見当たらない。
「あのね、本当に梓ちゃんは良い子だと思ってるの。でもね、私は孫の顔が見たいのよ。兄弟二人いるけれど、どっちかの子供が欲しいと思ってるの」
親として、ごく当たり前の願いだ。
梓は黙って、その言葉を聞くしかなかった。
「嫌いだからじゃないの。むしろ、今まで辛かっただろうと思うわ。でも、ね……」
言葉が続く。
並べられる言葉の一つ一つに、決して美しい感情が込められているわけではないのだと、梓は痛感する。
結論から言えば、この言葉は梓に「別れを告げろ」という圧力だ。
別れ話は、これまで何度も繰り返されてきた。
そのたびに梓は引き止められ、言葉に甘えたまま、ずるずると一緒に過ごしてきた自分を強く嫌悪する。
自分の弱さ、半端な行動が招いた結果だと、梓は心の底で強く思う。
「すみません……何度か、別れ話は出したんですが……」
「うちの子が、そんなに聞き分けがないの?」
「いえ……そうじゃなくて、俺が弱くて……すみません」
梓は頭を深く下げ、悔しさと後悔に胸が締めつけられる。
「梓ちゃん、あなた男のオメガでしょう?番になる前に、子宮摘出してベータとして生きるべきだと思うの。男なら、女と付き合えば子供ができるじゃない?」
思いもよらない言葉が、梓の耳に届いた。
驚きと恐怖が同時に襲う。
男のオメガには、都市伝説のように「ベータになることができる」という話があった。
男オメガは、確かに両方の生殖機能を持っている。
妊娠することもできるし、男性としての役目を果たすこともできる。
だが、それはあくまで身体の特性であり、誤解が広まっていた。
子宮摘出をすることで、男性機能が発達し、まるでベータ男性のように妊娠させることができると――。
そのような誤解が社会に広がっていた。
男オメガの身体には、妊娠能力もあるが、妊娠させる能力があるわけではない。
男性としての生殖機能は、実際のところほとんどないに等しい。
それでも、あたかも男性オメガが子宮摘出によって完全にベータ化し、妊娠させる力を手に入れることができるという都市伝説のような話が広まっていた。
だが、事実は違う。
男性オメガは男性としての役割を担うことはできても、あくまでオメガであり、その身体の限界は越えられない。
それはただの都市伝説に過ぎないのだ。
医学的には証明されていない。
オメガが番になるためには、単に子宮を摘出したからといって解決するわけではない。
それでも昔の知識に囚われた人々には、それが現実だと思われている。
希清が言ったことは、そんな無知から来た言葉だ。
その言葉に、梓は愕然とする。
「まだ番が成立してないんだから、手術を受けた方がいいわ。番になってから取るより、先に取った方がいいんじゃないかしら」
その言葉を、希清は躊躇なく吐き出す。
その瞬間、梓は耐えきれなくなり、テーブルを両手で叩いた。
「あなたが……!希清さんが、俺の生き方を決める権利はない!」
怒りが、梓の心を支配した。
梓は椅子から立ち上がり、自分のコートを掴むと、足早に部屋を出ようとした。
「梓ちゃん!」
「しばらく一人にしておいてください!帰ってこなくても探さないでください!希清さんには都合がいいでしょう!」
怒りをこめて言葉を投げつけると、梓は勢いよく部屋を飛び出した。
予想していた言葉ではあったが、そのタイミングにはまったく心の準備ができていなかった。
梓はしばらく、言葉が喉の奥で引っかかるような感覚に陥り、ただ困惑するしかなかった。
「梓ちゃん、精神薬を飲んでいるんでしょ?その前には、大量の制欲剤も飲んでたって?」
「……はい」
「それじゃ、もう子供が望めないって話よね」
梓が不妊であることが明らかになったのは、今回の入院がきっかけだった。数週間にわたり、不特定多数の男性と関係を持ったが、一度も妊娠の兆しは見られなかった。解放された監禁生活から病院に運ばれた際、医師から告げられた言葉は今も頭の中で響き続けている。
『子宮が機能していませんね。大量の制欲剤の影響かもしれませんが、この状態では排卵すらできません。不妊症です。ですが念のため、アフターピルを服用しておきましょう』
その言葉に、梓は茫然となり、息が詰まった。
現実が、あまりにも残酷だった。
妊娠すらできないオメガに、何の価値があるのだろうか。
自分の愚かだった行動が、激しい後悔となって梓を包み込む。
希清はその事実を知っていた。
清武から聞いたのだろう。精神薬を服用していることも、制欲剤のことも、わずかな言葉の端々から察して迫ったに違いない。
その問い詰めには、清武を責める理由は見当たらない。
「あのね、本当に梓ちゃんは良い子だと思ってるの。でもね、私は孫の顔が見たいのよ。兄弟二人いるけれど、どっちかの子供が欲しいと思ってるの」
親として、ごく当たり前の願いだ。
梓は黙って、その言葉を聞くしかなかった。
「嫌いだからじゃないの。むしろ、今まで辛かっただろうと思うわ。でも、ね……」
言葉が続く。
並べられる言葉の一つ一つに、決して美しい感情が込められているわけではないのだと、梓は痛感する。
結論から言えば、この言葉は梓に「別れを告げろ」という圧力だ。
別れ話は、これまで何度も繰り返されてきた。
そのたびに梓は引き止められ、言葉に甘えたまま、ずるずると一緒に過ごしてきた自分を強く嫌悪する。
自分の弱さ、半端な行動が招いた結果だと、梓は心の底で強く思う。
「すみません……何度か、別れ話は出したんですが……」
「うちの子が、そんなに聞き分けがないの?」
「いえ……そうじゃなくて、俺が弱くて……すみません」
梓は頭を深く下げ、悔しさと後悔に胸が締めつけられる。
「梓ちゃん、あなた男のオメガでしょう?番になる前に、子宮摘出してベータとして生きるべきだと思うの。男なら、女と付き合えば子供ができるじゃない?」
思いもよらない言葉が、梓の耳に届いた。
驚きと恐怖が同時に襲う。
男のオメガには、都市伝説のように「ベータになることができる」という話があった。
男オメガは、確かに両方の生殖機能を持っている。
妊娠することもできるし、男性としての役目を果たすこともできる。
だが、それはあくまで身体の特性であり、誤解が広まっていた。
子宮摘出をすることで、男性機能が発達し、まるでベータ男性のように妊娠させることができると――。
そのような誤解が社会に広がっていた。
男オメガの身体には、妊娠能力もあるが、妊娠させる能力があるわけではない。
男性としての生殖機能は、実際のところほとんどないに等しい。
それでも、あたかも男性オメガが子宮摘出によって完全にベータ化し、妊娠させる力を手に入れることができるという都市伝説のような話が広まっていた。
だが、事実は違う。
男性オメガは男性としての役割を担うことはできても、あくまでオメガであり、その身体の限界は越えられない。
それはただの都市伝説に過ぎないのだ。
医学的には証明されていない。
オメガが番になるためには、単に子宮を摘出したからといって解決するわけではない。
それでも昔の知識に囚われた人々には、それが現実だと思われている。
希清が言ったことは、そんな無知から来た言葉だ。
その言葉に、梓は愕然とする。
「まだ番が成立してないんだから、手術を受けた方がいいわ。番になってから取るより、先に取った方がいいんじゃないかしら」
その言葉を、希清は躊躇なく吐き出す。
その瞬間、梓は耐えきれなくなり、テーブルを両手で叩いた。
「あなたが……!希清さんが、俺の生き方を決める権利はない!」
怒りが、梓の心を支配した。
梓は椅子から立ち上がり、自分のコートを掴むと、足早に部屋を出ようとした。
「梓ちゃん!」
「しばらく一人にしておいてください!帰ってこなくても探さないでください!希清さんには都合がいいでしょう!」
怒りをこめて言葉を投げつけると、梓は勢いよく部屋を飛び出した。
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