転生したペットに求愛されています!

柴楽 松

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10)成長しても見た目は子供

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 あの頃の少年は、十八歳という大人の一歩手前になった。
……のはずなのだが。

「信夫ぉぉ!久しぶり!」

 突然、元気な声が響き渡った。
その声の主は、十八歳には到底見えないほど小柄な身体とあどけない顔を持つ男だった。
だが、宮登はしっかりと十八歳の高校三年生、立派な大人の仲間入りを果たしているのだ。
いや、外見だけはその限りではないが。

「オッサンと並ぶと、ミースケが小学生にしか見えねぇな」
「みーは童顔だから」

 宮登の軽口に続いて、低い声で言葉が返される。

「ああ、そうだな……」

 その声も、また宮登と一緒にいる、もう一人の男のものだった。
男たちがいつも宮登についてきている。
最早、宮登の影のように。

「三人とも、申し訳ないっすね。助かるっす」

 明美がいつもの可笑しな口調で三人に挨拶した。

飛び跳ねるように、バスケットが得意そうな高身長の男、麻見田俊まみだしゅん
もう一人は、あまりにも表情筋を使わないため、顔が硬直しているんじゃないかと思うくらいに真面目な顔をした、湖沢圭太こさわけいた

「おい、圭太、顔が硬すぎだろ。そのまま表情筋固まっちまうぞ」

 宮登の言葉を耳にしても、無表情の湖沢はまるで何も感じていないかのように静かに周囲を見渡している。

「いやぁ、こいつは別に固まってない。とても柔らかい表情を今しているんだ」

 そう言って麻見田が慣れた様子で湖沢の無表情な顔を見ながら、片手で両頬を軽く摘まんでみせた。

宮登と麻見田が冗談を交わす中、湖沢は何も言わずに信夫に目を向けた。
信夫はあまりにも直球な姿勢で、湖沢に向かってしれっと「どうも」だけを返す。

この二人、実はどちらも宮登の小学生からの同級生で、無理矢理この場に引きずり込まれたようなものだった。

「んー、ミースケ!これ取れるか?俺らの手だとデカくて無理なんだよぉ!手伝って!」

 麻見田が狭い場所に入ってしまった何かが取り出せず、宮登に頼んだ。

「あー?んー、いいよー。つか、何それ?」

 宮登は軽い調子で答えながら、呼ばれた方へと足を向ける。

八年前は、何を言われても無邪気に反応していたが、高校に上がってからはその反応もだいぶ変わった。
今や、あの頃の子供っぽい口調が嘘のように、すっかり年齢相応の言葉遣いになった。

あの頃の宮登は、ギャップが大きすぎて、周りの大人たちをよく困らせていた。
子供のくせに、まるで小説の登場人物のように年寄り臭い言葉を使うのが特徴的だったのだ。だが、今ではそれもすっかり消え、若者らしい言葉遣いをしている。

そして何より、宮登はもう転生のことを口にしない。
言わなくなったというより、もう自分でもそのことを意識しなくなったのだろう。

『忘れたんじゃないんだろうけど…』信夫は心の中で呟く。

そう、宮登は転生してきた自分のことを忘れたわけではない。ただ、人間として少しずつ常識を身につけ、他の人たちと同じように過ごすうちに、その存在が自然と日常に溶け込んでいったのだ。

人間らしい心を、少しずつ育んでいる。それが、ここ最近、信夫の中で強く感じられる。

その成長を見守ることは、信夫にとって嬉しいことだった。だが、同時に、なぜかすっきりしない気持ちが胸に湧き上がる。

『なんだろうな、この感じ』

 嬉しいのでも、悲しいのでもない。むしろ、言葉にするのが難しい感情が、心の奥底で何かを引っかかせている。

『――――宮登は、このまま時間が経つと、どんどん変わっていっちゃうのかな』

 その思いが、信夫の中でぐるぐると渦巻いていた。
彼が宮登の成長を喜んでいることには間違いない。でも、その成長がちょっとした寂しさを引き起こしているのも事実だ。

「……まあ、変わっていくのは仕方ないよな」

 そんな風に、自分に言い聞かせることしかできない自分に、少し腹が立った。

でも、信夫はその感情をどこかで受け入れなければならないことを感じていた。時間が経つことで、二人の関係も変わる。それを避けることはできない。だからこそ、変わらない今を大切にしなければと、心の中で静かに誓うのだった。

 信夫は宮登と麻見田のやりとりをぼんやり見ていた。
まるでじゃれ合っているかのようなその光景を目の当たりにし、信夫は思わず苦笑を漏らした。

 ああ、もう、こいつら、本当に無駄に仲が良いな。

「お前ら、さっきから手伝いに来たのか、ただ遊びに来たのか、分からん」

 信夫は思わず呟いた。

「いや、俺たちは遊びに来たわけじゃないよ。ちゃんと明美の手伝いにきたんだ」

宮登がきっぱりと言い放った。
そんなことは分かっている。ただ、口にしてしまっただけで、それが大人げなかったことを反省している。

麻見田は明るく、おっとりした性格で、常に周囲に気を使いすぎる。だから、気が付けば面倒ごとに巻き込まれ、結局何でもやらされている。
湖沢は真面目すぎて、「それやっとくよ」と言ってしまうタイプだ。要するに、二人とも宮登の影響下で、意図せず「お手伝い隊」と化していた。だからこそ、この場に居るのだ。

「そういや、俊と圭太って、どうしてそんなに仲良いんだ?」

 信夫がぼやいた。宮登と並んでいる二人は、なぜか妙に息が合っていて、よく見るとその距離感も絶妙に心地よさそうだ。

「それはもう、付き合い長いからな」
「こいつ、無駄に面倒くさいんだけど、いい奴なんですよ」

 麻見田が笑いながら言う。視線を湖沢に向けると、湖沢は黙ってうなずいた。

「俺が引っ張り回してやってるんだよ。こいつ、マジで面倒くさいけど、頼むと必ずやってくれるから」
「……お前、俺が面倒くさいって言いたいだけだろ」

 湖沢は静かに反論する。その返答に宮登は大笑いしながら、すかさず言った。

「二人とも、昔から知ってるけど、ほんとに無駄に仲がいいな」

 その言葉を聞いて、信夫は苦笑しながらもそのやりとりを黙って見守った。
彼らの関係は、確かに何とも言えず自然で、無理に距離を置こうとしても、どうしてもほっこりしてしまう。

 彼らは小学校からの付き合いだ。
宮登が転校生として入ってきたことをきっかけに、三人は自然と一緒にいることが多くなり、高校に進学したとき、偶然にも三人は同じクラスになった。それがきっかけで、さらに仲が深まった。

信夫はその関係に、何となく妙な感覚を抱きつつも、自分から面倒をかけたくはなかったので、黙って彼らの会話を見守っていた。

さて、どうしてこんなに無駄に仲が良い三人が、明美の引っ越しの手伝いに来たのか。それは、八年前に宮登と明美が交流を持つようになり、次第にこのメンバーとも関わるようになったからだ。

「来てもらってすぐで申し訳ないっすけど、この荷物二階に運んでほしいっす」

 明美が笑いながら指示を出す。

一階のキッチン周りの荷物を取り出し、食器を拭くことを頼まれた信夫は、まるで命令されたような気分で宮登とペアを組むことになった。

「お前、ワザとだろ」

 信夫は明美を睨んだ。

「えー?何のことっすか?」
「じゃないと、こんな役割分担にならないはずだ」

「みやっちゃんは先輩と居たいみたいっすよ?」

 明美が「てへっ」と笑いながら無邪気に言い放った。信夫はその無駄に素直な言葉にまたイラっとしたが、どうにもその素直さには敵わないと感じることにした。

「ほんと、どうしようもないな」

 そんなやり取りをしながら、信夫は宮登と食器を拭きつつ、他の二人を見守ることに。平和すぎて少しだらけた空気が流れている。思わず心の中で「このままでいいのか?」と疑問を抱きながらも、結局のところ、こういう平穏な時間こそが一番大事だと実感する瞬間だった。
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