世界の深淵を0歳までの退化デバフをかけられた俺が覗くとき

卵くん

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キリの村編 〜クーリエ 30歳〜

X-15話 押し殺す声

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"怪物の狙いは私ではなく、君だ"
"私の部屋のクローゼットの中に置いてある箱を見つけなさい"

 あの場で彼からかけられた言葉が花火のように頭の中で再生されては、記憶という深淵に吸い込まれていく。今にして思えば、確かに彼は奇妙なことを口走っていた。怪物の中には人の言葉を操るものもいるという話は聞くが、それはごく一部の限られたものであって、キリの村のような田舎に現れる怪物ではそんな知性を持ち合わせていたとは考えづらい。俺との戦闘中も奴から人の言葉を耳にすることはなく、耳障りな奇声だけを放っていた。

それにも関わらず、彼はと口にした。それはつまり、天恵の力を以ってようやく理解することができるということの証明であり、怪物にはそれほどの知性は持ち合わせていなかったということを暗に表している。だが、キリの村で奴が襲ってきた時の様子は確かに一味違うものを俺は感じた。それはまるでような違和感。あれは、果たしてただの胸のつっかえとして流していいものなのか。

「はぁ。クーリエさんっていつもそうなの? 私が何か聞いたらまず何かわかんないことまで考えて黙っちゃう。それやめた方がいいと思うわよ? 質問した身としてはずっと答えを待ってるのに一向に返ってこないんだもん」

 コルルはため息を一つつき、心底呆れたというように首を横に振る。途端に思考から現実世界で今自分が置かれている状況を思い出した俺は、そこからコルルの家があった場所までの道のりを歩く間、その全てを彼女に対しての謝罪の時間で埋めることとなった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ここに家があったなんて信じられないでしょう? こんなのただ木材をより集めた場所みたいになっちゃってるもんね」

「そうだな。これは、心に来るものがある」

 屋根まで完全に崩壊した家がそこにあった。いや、コルルのいう通り家と表現するにはいささか無理なところがある。まず、目の前にあるモノは家という機能を全く果たしていない。玄関もなく、部屋もなく、ましてや外と家とを分け隔てる壁というものも存在していない。あるのは、ただの様々な角度に折れ曲がっている木材。それと、なんとか原型を止めている家具がちらほらと積み重なった木材の隙間から顔を出している。

「君は俺が眠っていた時間何をしていたんだい?」

 この景色に絶句していた状態を抜け出して、彼女に尋ねる。だが、視線は目の前のものから離すことはできなかった。

「何も——してないわね。ただここにきてボーってこれを眺めてたら時間が過ぎてアンディー牧師のところに行って寝て、そしてまたここにやってくるの繰り返し。生活する上であらかた必要になってくるものは探したけど、それ以外のものは片付けようっていう気にもならない。なんか、触ったら今までの記憶やら思い出も全部崩れ落ちそうで」

 家から視線を隣に立つ彼女の方に移す。目に涙こそ浮かべてはいなかったが、その表情は哀愁が漂っていた。次の言葉を探すのに苦労する。どのような言葉をかけても、彼女の心の傷を和らげることはできなそうだった。

「君の父さんさ、確かに洞窟で最後に会った時色々なことを俺に話してくれたよ。怪物の話していた内容も然りでね。ただ、そんな命の危機にあっても、君のことを心配していたよ。彼は君のことを心から愛してたんだね。俺にはそれがとても眩しいものに見えたよ」

 彼女はその言葉を聞き終えると両手で自分の顔を覆い隠す。顔が僅かに揺れ始め、次第にその動きは大きくなっていく。指の隙間から溢れる吐息。彼女は立つための力すらも抜き地面に膝から座り込むと、その力を全て感情にぶつけた。周りに人影は見られなかったが、仮にいたとしても今の彼女には対して問題じゃないだろう。指の隙間から溢れるものが一つ増える。それは、嗚咽。必死に押し殺していたがとうとう口からこぼれ落ちた。

俺は、彼女の背中をしゃがんで摩った。これにどのような効果があるのか分からないが、昔自分がよく友人に泣かされた時には必ず親がこうしてくれていた。それだけで気持ちがスッと楽になった記憶がある。その片鱗だけでも、彼女には味わって欲しかった。

「ほっっんとバカなのよ、あの人は。私のことなんか気にせずに——自分の命を大事にしたら良かったのに」

間に嗚咽を挟ませながら、彼女はゆっくりと次の言葉を探しているようであった。誰かに聞いてほしい胸中が、普段なら押し殺している悩みがこの弱っている隙をついて現れようとしているように見てとれた。そして、彼女の口が開いた。

「だって、そうでしょう? 私ってあの人のだから・・・」
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