上 下
7 / 42

7日目 壇上から無視される言葉達

しおりを挟む
「「「「キャァァァァ!!!!」」」」

 ステージ上からはよく見えないが、奥の方で新入生が並んでいる場所から悲鳴が沸き起こる。何も珍しいことではない。貧血で式中に倒れる人は多くいるし、最近だとインターネット上におもしろ動画として投稿するためにわざとこのような静粛を求められる場面で羽目を外す行為をして楽しむ人もいるという。

そういう時に壇上で話をしている人が取るべき行動は一つ。気にしないことだ。ここであえて触れることなく、話を進める。そして、少し間を空けてからこのことに触れるのだ。そうすると、もし悪ふざけであった場合でも適した対応が取れる上に、体調が悪い場合でも無視をしたという汚名を課せられることはない。

 私は何事もなかったように話を少し進めた。眼下に広がる景色は今まで見たことのなかったものだ。誰も私の話を聞いてはいない。今年から新たにこの学園の仲間に加わった男子生徒。朝も少し話した彼がどうやら倒れたようだ。彼はこの学園創立以来初めての男子生徒という肩書きだけでも注目を浴びていた。その彼が、式中に倒れたというだけでも多少は生徒の気を引くだろう。

だが、今は全生徒の気を引いている。朝から緊張して壇上に上がってマイク越しに拡大される声を体育館に響かせているのがバカに思えるほどに。いとも容易く全生徒の目を集めている。

「そちらで倒れた方、大丈夫ですか?」

 私はここにきてようやくその話題に本来の話をひとまずおいて触れた。

「大丈夫じゃないです!! ただの貧血じゃないようで、強く頭を押さえ込んでいます! 救急の手当を必要している可能性があるかも!!」

 倒れ込んでよく見えないが、恐らく彼の近くにいた生徒だろう。彼に起きている事象を事細やかに説明してくれる。その説明の後、ようやく事態の深刻さに気づいた先生たちが生徒の列に乱入していき、整えられていた列を激しく乱していく。上から見ているとそれは異物が混入した清流の流れのようにも見て取れた。

 先生が入って行ったことにより、彼の周りには少しの空間が生まれた。どうやら、本当に苦しんで倒れ込んだようで、いまだに強く頭を押さえ込んでいるのが壇上からでも見て取れる。そして、彼が全生徒から注目される理由が分かった。声を上げた新入生の女子生徒。ショートヘアーに赤い色を染み込ませ、これぞ美少女と言った整えられた容姿。大きな目に、キリッとした目鼻立ち。唇は僅かに水分を含み、男どもを惑わせる妖艶すら無意識に放っており、、吉良 一美。彼女の膝下に寝転がるようにして正しく高校生の男女が羨ましがられる青春をその場で見せつけている形をしていたのだ。
しおりを挟む

処理中です...