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027 実力を披露! 前半

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 どうしてここまで面倒事が嫌いな俺が積極的なのか。それはこの世界を理解する為の鍵となる情報なのかも知れないからだ。どう見てもあの"神器"は俺が居た世界にしかない物だし、気になる。それに何もかもやらなくても、どうせ暇なままだしな。

 「ありがとうございます。良い話を聞きました。食事前にお時間を取らせてしまいすみません」

 デレシは一礼すると、そのままマールに運ばれ俺たちと反対側の真ん中の席に車椅子のまま着く。
 車椅子から席に着くのは難しいのだろう。マールが運べば良いと思ったのだが、色々と事情があるのだろう。
 そして、何故かデレシが席に着いた事でぞろぞろと人が集まっていき、あっという間に満席になる。デレシより先に来るのは失礼と考えているのか。それとも、この城に掟なのか。

 デレシの隣に座っているマールが全員席に着いた事を確認すると、俺達を紹介してくれた。

 「今回デレシ様の病を治してくださるコウ様です。隣に居る方はリュー様です。私はこの方に全ての希望を託す事にしました。その理由は他の者とは違い、デレシ様を本気で救おうとしてくれる気持ちが強く、治せる薬を作れる可能性が高いからです」

 それを聞いた者は俺に目線を送る。
 今まで数え切れない程依頼を受けた薬師が諦めたのに、こんな若造が出来るわけがない。と言っているような視線だ。
 そして、当然のように反対の意見を持つ人も居る。

 「おいおい! こんなガキにやらせても良いのかよ! それなら、国専属の薬師に研究してしっかり作ってもらうべきだろ!」

 反論したのは、デレシの部屋に繋がる扉で立っていた警備兵の男性だった。
 その言葉は正論でしかない。それに、1番最初に依頼したのは国専属の薬師だろうし。あそこはエリートの中のエリートしか集まっていないはずだから、あそこに時間は掛かるが依頼した方が確実性が増す。
 だけど、そんな事をしていたら病でデレシが死んでしまう。そう考えたマールは他の薬師に依頼をしたのだろう。

 「国専属の薬師に頼んでいたら、デレシ様がどうなるかお解かりですよね?」
 「それはそうだけど……」
 「それにコウ様はこの歳で回復薬を作れます」

 それを聞いた者は再び俺に視線を送る。
 絶対に疑っている目だ。

 「嘘だ嘘だ。それなら明日にでも回復薬の1個や2個作ってみろってだよ!」

 外には薬草が沢山生えていたから、別に食後でも作れるけどな。

 「何なら明日ではなく、今日。今夜作りましょうか?」
 「は?」

 俺が放った事はよっぽどの衝撃発言だったらしく、ざわつく。
 そりゃそうだろうな。
 
 「コウ様本当に良いのですか?」
 「はい。大丈夫ですので安心してさい」 
 
 普通の薬師なら数時間で作る事は不可能。だが、俺はその不可能の中には属さない。この万能薬(ゼーラ)がある限り。

 「まあ無理だろうけど」

 警備兵の態度には苦笑いをするしかなかった。
 そして居心地の悪い雰囲気をデレシが手を叩いたことで、全て払われた。
 『もう、おしましです』と言っている様な雰囲気を出していたデレシの力は強く、従われているものであった。流石王族の血を継いでいるだけはある。

 俺達は皆が食事に手をつけたところで、食べ始めた。
 隣のリューはそれはもう、美味しそうに、幸せそうにご馳走を食べている。
 
 まずはコーンスープなものに手をつける。
 スプーンで液体をすくい、口に入れる。
 ……やっぱりコーンスープだ。普通に美味しい。それに懐かしい感じの味だ。自分の家でも作ってみたいものだ。
 そして、パンと一緒に食べたら絶対美味いに決まっている。

 パンの山から一つ手に取り、1口サイズに千切りコーンスープに浸す。
 やっぱり美味い。そして手が無意識に動いていたからか、既に手に取っていたパンは無くなっている。
 このままコーンスープ全部飲み干そうかと考えたが、ステーキが冷めてしまう。
 ステーキはナイフで食べやすいサイズに全て切り分け、フォークで食べる。
 うわ! 柔らかくて食べやすい! これ絶対高いお肉じゃん!
 こんなのをいつも食べていると考えると、羨ましいな。
 
 「リュー美味しいか?」

 リューは俺の問いかけに手を止め、満面の笑みで応える。

 「はい! とっても美味しいです!」

 うん。実に幸せそうだ。
 竜になって体力の消費が激しいせいか、食べる量がとっても多かった。家に帰ったときの食費が少し怖い。

 俺はてっきりデレシのような王族が居るから、食事は静かなものかと思っていたが、それはただの想像だった。
 俺の隣に居る人は、上品にお酒を飲みながら流暢話している。耳を傾けると、世間話で政治と治安とか色々と楽しそうに語っている。警備兵達が座っている場所では、豪快にお酒を飲みこの場を明るく盛り上げてくれている。その話を聞きながらデレシは笑みを浮かべたり、会話には参加できないが楽しそうだった。

 デレシは病気の進行は進んでるそうだが、まだ食欲はありそうだ。これが悪化したら、食事も取れなくなってしまうんだな……早く薬を作ってあげないと。手遅れになる前に。

 夕ご飯は宴のように盛り上がり、王族が居る城の食事とは思えなかった。
 あっという間に楽しい食事の時間は終わり、話題は俺が回復薬を今夜中に作れるのかになった。

 「それで、お前は今から回復薬を作らなくて良いのかよ」
 「そうですね。せっかく皆さん揃っている様なので、作りましょうか」
 「それじゃあ皆賭けをしようぜ。こいつが回復薬を作れるかどうかを」
 
 お酒が回っているのか、賭けとかいう意味の無いことをし始めた。
 
 「おお! 良いね~それじゃあ俺は作れないに1票!」
 「俺も」
 「私も。やっぱり作れなさそうだし」

 2人を除いてこの場の全員が作れないに賭けを入れていた。
 そして、2人はデレシとマールだった。

 「私は作れる方に。……デレシ様も作れる方に賭けるそうです」
 
 俺は信じてたぞ! 信じてたよ!
 誰も作れるに賭けてくれなかったたら、俺悲しんで泣くところだったよ。

 「コウさん! 私も作れると思います! 頑張って下さい!」

 確かリューの目の前で回復薬を作ったことは無かったっけ? 見ても無いのに、信じてくれるのは本当に嬉しい。
 
 「ありがとう。それじゃあ薬草を採りに行ってきますね」
 「どうせ薬草も見極めれずに終わるんだろうな」

 警備兵以外にも嫌がらせにしか聞こえないヤジは沢山聞こえていたが、それに対してリューは我慢無からなかったのか。竜独特の濃厚な殺気は放ったことで、途端にヤジは無くなった。身の危険を感じたのだろう。
 俺はリューを安心させるために頭をぽんぽんと叩き、採取へ向かう。

 ここに着た時に回復薬に必要な薬草は沢山あったのを確認できているので、大丈夫。だが、問題はそこではなかった。

 夜の森が怖い。

 迷宮の暗黒階層の怖さとは違う怖さ。
 鳥達が鳴くたびに背筋がビクン! ビクン! と跳ね上がる。
 マジで不気味過ぎでしょ……。
 松明を持っているが、足元しか照らすことが出来ない。この世界には懐中電灯と言う革命的な道具が無い限り、先を照らすことは無理。
 
 お願いだから幽霊とか出てこないでね。本当にお願いね? マジでお願いね?
 呪文を詠唱するようにずっと口に出しながら回復薬に必要な薬草を採取。
 そして、1分、1秒より早く森から出る為に必死に走った。
 人生で1、2を争うほど全力疾走で走った。
 途中で木の根っこに躓くが、四つん這いになってでも必死に走った。
 薬草を落とさないように、頑張って走った。

 「やっと、やっと城の中に入れた。良かった」

 頑張った俺。良くぞ怖さに勝った! と自分を褒め称えている場合ではない。
 早く客間で回復薬を作らないと。
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