形而上√独白論争

蔡 玲琳

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覚醒の徴候

彼女のこと

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憧憬、といえば大げさかもしれないけれど、私の彼女への思いを文字にするならば、これが最も相応しいと思う。窓際で退屈そうに肘をついたまま、黒板を怪訝に睨む彼女。きっといつものように、教師の話なんて微塵も聞いてはいないだろうけれど、見てくれだけは優等生。初夏の風が揺らす肩まで伸びた褐色の髪が眩しくて、私は目をそばめる。
今日も教室で私、一人ぼっち。友人がいないわけじゃ、ないの。と、自己正当化。ほんとうに。だけど最近は、誰と話すにつけても、相手の悪いところばかりが気にかかり、キツくあたってしまうことが増えたのだ。何度も回旋し、意味もなく笑い、結論というものを一抹も持たない不毛な会話は、不時着する。その雰囲気に嫌気が差したのだ。優しく穏やかに、そうなりたいといつも思っているけれど、簡単なことではない。そこまで韜晦してまで好かれたくはないし、きっといずれ気が違ってしまうだろう。だから私はあえて、一人という道を選択したのだ。【誰も傷つけないために、】

ーーーー「それは逃げているだけでしょう。君は弱いだけで、自分の本心を晒すことを、自分の醜さを知ることを、忌避しているだけでしょう?」
夕暮れ迫る土手で、川面に反射する光を背に受けて、なんともなく、彼女は言った。初めて本心を、自分の感情を打ち明けたその人から受けたのは、慰めでも共感でも叱責でもなかった。それは俯瞰した、客観性だけの平坦な世界から見た、揺るぎない事実。ただ、それだけ。だけどそれは、私の心に何よりも響いた。彼女の、内奥と深淵を見つめる空虚な瞳の奥に、私は恋をしたのかもしれない。いや、この感情さえも、虚構か?いずれにせよ、ここまでの経緯を、話さねばならない。さあ、物語をはじめよう。
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