ひのあたらない部屋

河上光伸

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はじまりの朝

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暗闇のなかで小さな緑色の光が点滅する。聞き慣れた電子音。何の曲かは知らない。緑色の光に照らされて暗闇の中から白い手がにょきりと出てくる。慣れた手つきでスマホのホームボタンを、押した。
AM6時。金井桜子の毎朝決まった起床時間だ。
はぁと大きなため息を一つ吐いてゆっくりと立ち上がる。
布団の隣にはある遮光カーテンを勢いよく開ける。眩しいあさひと共に冷たく湿った、そして少しカビ臭い空気がいっきに胸に入り込み大きく咳をした。
隣に寝る両親を起こさないように桜子は静かに扉を開け階段を降りていく。桜子は子供の頃から摺り足で歩く癖で静かに歩くのは得意だ。
とりあえず歯磨きをしてからシャワー。その順番がいつもの朝だ。
10月29日。土曜日。田舎の工事現場の事務員である桜子の会社は土日休み。ボーナスなしのサービス残業も含めて手取りは13万円。両親と住むには問題ないがとても貯金して独り暮らしするには心もとない給料だ。大学を出て、最初は大手の小売りに勤めていた桜子だったが煩わしい人間関係の中で会社に行けなくなりうつ病と診断された。
給料はそこそこよかった。ボーナスもでた。しかし会社には行けなかった。一時はメンタルクリニックの運営する職業訓練所に通うなどしたものの桜子には訓練があまりにも子供じみてつまらないという理由で訓練所にもあまり通わず新たな職場へ復帰した。給料は安いものの、血走った上司に怒鳴られることもない今の職場には感謝さえしている。
今日は電車に乗り都内の婚カツパーティーへ参加する予定だ。桜子は今年27歳。一昔前ならもう子供の一人でもいていいとしかもしれない。絶対結婚したい訳でもない。でもなんとなく、クリスマスが近づき肌寒くなる季節になるとどこか人恋しくなり、昨夜なにげなく見かけた婚カツパーティーの参加ボタンを押してしまった。参加費2000円。20~35歳限定。無料ではないところになんとなくパーティーに誠実性を感じた。


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