殺し屋 オブ バタフライエフェクト

会川 明

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狂ってる

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「ガムテープ取りますね」

 公園の椅子に座らせて、クルスは女性の手首に巻き付いたガムテープをとった。

 女性はすぐに自分の口に巻き付いたガムテープをはがしにかかった。

 その間、クルスは足首のガムテープをはがした。

 女性は口に巻き付いたガムテープに悪戦苦闘している。
 無理もない。目も見えないし、ムリに引っ張っても何重にも巻かれたガムテープはそう簡単に切れるものではない。

「やります」

 クルスは女性に代わって、口に巻き付いたガムテープをはがしにかかった。

 ふわふわで飴細工のように繊細な髪の毛が、強引にガムテープに巻き込まれている様は痛々しかった。

 なるべく髪の毛が抜けることのないよう、頭を押さえてはがした。

 女性の口があらわになる。

 女性は慌てて言った。

「他にも捕まっている人がいます!」

 クルスは目にも巻き付いているガムテープをはがしにかかった。

「さっき、車の中で男たちが『これで今日のノルマ達成』って話してました!」

 頭を押さえて、一巻き、二巻きとはがす。

「きっと、他にも捕まっている娘たちがいるんです!」

 はがし終わった。

 その手を女性はつかむ。

「お願いします!一緒に助けに行って下さい!」

 彼女の見開かれた瞳がまっすぐにクルスを見つめていた。テープをはがされた直後だから、何度も瞬きする。それでも、瞳をそらさずに、クルスを射抜くように見つめていた。

 クルスはあまりのことに体が硬直した。 

 自分のことを警察だと思っているからこんなことを言うのだろうか?いや、だとしてもこのご時世に警察を信じ切るわけがあるまい。まさにこの件自体に警察の関与があるのだ。彼女にはそのことは聞こえていなかったとしても、一縷の望みが過ぎるだろう。

 また、ついさっき自身が恐ろしい目にあった直後にもかかわらず、他人の心配をし、なおかつ助けて来てくれと依頼するのではなく、協力してくれと言うのだ。

 ここで断っても、おそらく彼女は一人きりでもなんとかしようとするだろう。そんな真剣味が感じられた。

 ふと、彼女の様子に気づく。

 手が震えている。

 唇は真っ青だ。

 まだ恐怖から覚めていないのだ。

 それなのに。

 クルスは自分の唇が歪んでいることに気づいた。


 ーー狂ってる。

 
「わかった」

 クルスは我知らず、応えていた。
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