ラトビア転生記 ~TSしたミリオタが第2次世界大戦を生きる~

雪楽党

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第1章 統一戦争

23話

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 1936年の8月。
 我々は敵の撃退に成功したが、反撃を許可されずにいる。
 というのも、司令部が本国にご執心でアフリカの植民地に注力できずにいるというのと、アフリカにはドイツやその同盟国から派遣されたイタリアの師団などが入り乱れているため指揮系統がはっきりしていないことがある。
 そもそも現在アフリカには前線が構築できていない。
 各部隊がそれぞれの拠点に野戦築城を行い、第1次世界大戦でおきたような塹壕戦とは程遠い。
 それに対して敵は一つの拠点を中心に各部隊が能動的に機動し、こちらに攻撃を仕掛けてくる。
「少佐、我々はどうするべきだと思うかい?」
 わが軍団の団長、フーゴ少将が私に尋ねてくる、
 思わず私に聞くなと答えそうになるが呑み込む。
 つまりは現在、我々には上級部隊が存在せず、自由に行動することができるのだが、我々だけでは攻撃することは不可能、しかし他部隊に協力を要請するのは難しい。
 そもそも、言語が通じない。
 こんなのでまともな行動がとれるのかと甚だ疑問である。
「いままで通り、偵察と妨害に努めるべきであるかと具申いたします」
 故に今まで我々コンドル軍団は偵察及び小規模部隊による奇襲による妨害に努めてきた。
 結果として敵の前進と戦力集中の阻害に成功しているが、いつまでこれが続くかはわからない。
「総統閣下は戦果を求めていらっしゃる」
 私の意見にとある佐官が異議を唱える。
 ならば自分で出撃してみろと言いかける言葉を呑み込む。
「大規模攻勢でもしかけられないのかね? 君たちの練度と火力、そして我々の支援があれば不可能ではないだろう」
 参謀将校まで言葉を続ける。
 そう、不可能ではない不可能ではないが
「占領地の維持はいかがなさるおつもりですか?」
 彼らは共産主義者の恐ろしさを知らない。
「敵は兵士だけではないのですよ。敵の大部分は武器を持った市民です。占領地統治を少しでも間違えればすぐさまに残党が周辺の市民を煽動し、蜂起を起こされます」
 一つの都市を制圧するには少なくとも1個大隊が必要だ。
 戦車などを用いて威圧を行えば不可能でもないが、我々は歩兵部隊だ。
「どうぞ、目の前の都市を落とせと命令されるのならして見せましょう、しかしその後、次の都市に行く余力は全く残されませんが」
 私はそう冷たく言い放つ。
 机上で考えるのは簡単なのだ。
 ただ敵をたたき出すだけなのだから。
 だが、現実はそうもいかない。
 たたき出した後、自分たちはそこに拠点を構えなければならない。
「私はラトビアの番犬であり、忠実なる下僕であります。その母国が友とした貴国が命じられるならば我々は盟友のために死をも厭いません。やれと言われれば皆が死ぬまで私が先頭に立ち続けましょう」
 私はコイツらとは違うのだ。
 ただ後ろで胡坐をかいて盤面を見るだけの人間にはなり下がりたくない。
「……了解した。貴官の言う通り本隊は偵察活動を実施し続ける」
 渋々、といったように少将は言う。

「大隊長、我々はいつ頃奴らに報復することができるのでしょうか」
 私がデスクワークを黙々とこなしていると、ロレンス大尉がそう尋ねてきた。
「……大尉。我々は戦争をしているのよ、冷静さを欠いては勝てないわよ」
 彼の気持ちはよくわかる。
 私だって同期がエストニアの地で死んだとき、報復がしたくてしょうがなかった。
 だが、戦争とはそういうものなのだ。
 殺し、殺される。
 どこにも不公平などない、平等に死ぬのだ。
「しかし……このようなどことも知れぬ地で死んだ彼らを……」
 彼らの亡骸をここに置いていかねばならないのは非常に悔やまれる。
 だが、仕方ないのだ。
 わが部隊がここにいることは秘匿されており、親族も知らない。
 恐らく戦死した彼らは洋上訓練中に転落とでもされるのだろう。
 気の毒で仕方がない。
「明日は我が身よ、大尉」
 いつこの間のような夜襲があるかわからない。
 その時に一寸でも迷いがあれば次は自らがこの地で骨を埋める運命になるのだ。
「私たちは生きねばならないの」
 私はそう言ってロレンス大尉に向けていた視線を書類に戻した。

 だが、敵は我々に安息の暇を与えなかった。
 その日は珍しく雨が降っていた。

「少佐殿、訓練はすべて中止でよろしいでしょうか?」
「えぇ、かまわないわ。それと、濡れた隊員がシャワーを浴びれるように準備してあげて」
 私はテントの中で外を眺めながら合羽を着たロレンス大尉に命令を下す。
 砂漠では貴重な雨だ。
 無駄にするわけにはいかない。
「大隊長殿!」
 ロレンス大尉がテントを出ようとフードに手をかけた瞬間、通信兵が駆け込んできた。
「イタリア第73連隊が敵の攻撃を受けております!」
「なんですって?!」 
 イタリア第73連隊。
 我々と最も近い部隊で、前回の夜襲の際には間に合いこそしなかったものの、援軍を差し向けてくれた部隊だ。
 恩を返すほかあるまい。
「大尉! 各中隊に出撃準備を下令! 司厨員には早めの昼食を用意させて!」
「ハッ!」
「私は本部に行くわ!」
 それとと言い、私は外套を羽織りながら通信兵に声をかける。
「貴様は情報収集に努めるように!」
「了解です!」と答えた彼は足早に通信所に戻っていった。

 急いで軍団本部に向かうとそこは騒然としていた。
 あわただしく行きかう伝令兵、私はその合間を縫いながら軍団長の部屋に向かう。
 手早くその場所にたどり着くと扉をノックする。
「バルトニア大隊、大隊長リューイ・ルーカスであります!」
 私が声を張り上げると中から「入りたまえ」と返答が返ってきた、
 私は遠慮なく戸を開けると一目散に少将の前に向かう。
「どうしたんだね」
 悠然と尋ねてくる彼に私はいら立ちを覚えながらも
「出撃の許可をください」と提言する。
 それに彼は顎髭をいじりながら「許可できない」と答えた。
 私は頭に血が上るのを感じた。
 恩を仇で返すというのか。
「なぜです! 73連隊は同盟国の部隊ではないですか?!」
「君は73連隊だけが奇襲を受けていると思っているのかね?」
 少将はそうゆっくりと尋ねた。
「私は君よりも多くの情報を持っている。イタリア68連隊、324独立大隊、115同、スペイン54大隊、51大隊。多くの部隊が小規模部隊による奇襲を受けているのだよ。我々もいつ受けるかわからない状態なのだ」
「自らの命惜しさに目の前の命を見捨てると? そういうことですか?!」
 私の言葉に溜息を吐く少将。
 私は拳を握りしめる。
「いいかね、イタリアもスペインも友好国ではあるが、我が国の民ではない。彼らが死のうと我々に直接の不利益はないのだよ」
 それが、ドイツのやり方なのかと怒鳴りたかった。
 確かに損得で動くならばそうなのかもしれない。
 いつ我々も奇襲をうけるかわからない。
 その為に戦力を温存すべきだ。
 理にかなっている。
「それでも、私は行きたいのです」
 私はそれでも、助けたい。
「たとえそれが、自らが死ぬ結果だとしても。後悔したくないのです」
 73連隊は我々が奇襲を受けていることを聞いてまっさに駆け付けてくれたのだ。
 たとえ間に合わなかったとしても、その心意気に恩を返したい。
「……部下の命令違反を止められなかった上司はどうするべきだと思う」
「現場士官であればそれに乗るしかないでしょう、彼らを見捨てれば士気が下がります」
 突然の少将の問いに私は毅然と答える。
 すると彼は小さく微笑むと両手を上げた。
「第1中隊だけ残していきたまえ、残りは自由にしていい」
 それは事実上の出撃命令であった。
「了解いたしました!」
 握りしめた手のひらを開き、敬礼をし部屋を出ていく。
 最後、扉に手をかけた時、少将から「死ぬことは許さない」と命令が下された。
 私にそれは「お任せください」と、答えた。
 
 降水下での行軍訓練は片手で数えるほどしかしたことがない。
 ちゃんとついてこれるだろうか。
 そんな疑問を持ちながらも私は身支度を整える。
 過酷な状況下において、士官が車や馬に乗って行軍するというのは往々にして見られるが、私はあまり好きではない。
 こういう時こそ、士と兵が一体となるべきなのだ。
 私はそう考えながら司令部用の車にすべての荷物を積載していく。
 そして大尉にその運転を命じると私は徒歩で広間に向かう。
 雨は一層強くなるばかりだが皆外套を着こんで行軍準備を整えている。
「諸君、我々は盟友のためにこの雨の中5km行軍する」
 反対の声など上がらない。
 78連隊は疲れた我々に飯を出し、壊れた陣地の再構築を手助けしてくれたのだ。
「敵の部隊は不明、そもそも78連隊がいまどうなっているかすらもわからない。それでも我々は行く」
 後世の研究は愚かな行為だと嘲わらうかもしれない。
 だが、
「友を助けるは友の役割ぞ」
 そんなもの好きにさせればいい。
「諸君! 行くわよ!」
 オォッ!
 歓声が上がる。
「出撃!」
 私はそう号令を出すと幾人かの司令部要員を引き連れて歩みを進める。
 後ろからは各部隊が前進を開始させる号令が聞こえてくる。
 雨が降る中の強行軍の始まりであった。
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